1:罪の源泉
魔法使いは『孤独』なものなのだと、師は泣いていた彼に何度も言い聞かせた。
それが何を意味しているのか、その時の彼にはわからなかった。
だが、彼が家族と引き離され、師と暮らすことになったのは——泣いても迎えにきてくれないのは、その『孤独』が理由なのだと。涙に濡れたまぶたが乾く頃、彼はやっと理解した。
大きな手のひらが頭を撫でると、彼はいつも唇を尖らせていた。子供扱いするなと言えば、その人は笑ってさらに強く頭を撫でるのだ。
それは彼にとって不本意なことだったが、確かにその瞬間は満たされていた。ただそれだけの刹那がこの先も続いていくのだと、信じて疑うこともなかった。
『——さよなら』
だから彼は、その手が離れていく光景を夢だと思うことにした。短い別れの言葉を、なかったことにした。
——ねえ、いつまで待てば、また会えますか?
窓辺に咲いた小さな白い花だけが、その拙い願いを聞いていた。いつまでも待ち続ける。それがどれほど虚しい願いかも知ることなく。
——そうやって誤魔化し続けることでしか、彼は想い出を守ることができなかった。
それでも、いとおしい面影が記憶から薄れていく。遠ざかっていく想い出を掻き抱き、必死に『かつて』を繋ぎとめようとしても、こぼれ落ちてしまったものは戻らない。
枯れ果てた目で泣く彼に、師は再び告げた。
『魔法使いは、孤独なものなのだ』
師は笑っていた。優しげに穏やかに、そして虚しいほどに空っぽに。
あまりにも空虚な笑顔だった。虚ろな瞳が彼を捉えた瞬間、彼の体は耐え難い震えに襲われた。
そう、魔法使いが孤独なのではない。何もかもを失う孤独が魔法使いを作るのだ。大切なものから引き離され、心を寄せるものも得られない孤独が人間を魔法使いに変える。
あまりにも残酷な真実を前にして、彼は呻きながら目をそらした。だがその刹那、もう自分が戻れない場所にいるのだと悟った。
——暗い窓に映った表情。それは師と同じように空虚な形をしていた。
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