輝かしく、生き生きと

呂 歩流

1話完結

「オギャー、オギャー」

 あた一面いちめんには、産声うぶごえをあげた赤子あかごかのこえひび

 まえには、ぼやけてあまりえないだれかのかお

母「はじめまして、生まれてきてくれてありがとう」

 人の音が初めて僕に向けられ、そう僕の人生の始まりの瞬間。

 周りと変わりなく普通の日常を暮らしていた、少しだけ違う事と言えば中学生の時からバンドでギターを弾きながら歌を歌っていて、そこそこモテたくらい、そう・・・そこそこ。

 高校生になったある日、夢を見た。その夢はいつも素敵な音楽と小さい子供の泣き顔からスタートする。ちょうど物心付いたくらいの歳だろうか、察するに結婚式にありがちな周りの大人からのもらい泣きだろう。

 教会には友人が奏でる音楽が響き渡り僕の前には綺麗な女性が立っていた。2人は手を取り合い

、指輪交換の儀式を交わす。

牧師「変わらず愛することを誓いますか?」

「誓います」

綺麗な女性「・・・誓います」

 特徴的で綺麗なエメラルド色のウエディングベールをそっとあげて、誓いのキスを・・・

 したら友人の腕だった・・・

 どうやら休憩時間に居眠りをしていたらしい

辺りにはチャイムが響き渡っていた

友人A「おぇー、なにしてんだよ、寝ぼけてんじゃねえよー」

僕「おえー」

 目覚めのキスのお相手友人A、名前は『橘 伊織(たちばな いおり)』美形女子っぽい顔立ちではあるが正真正銘の男子である。

女の子「今日もラブラブだぁーねぇー」

 可愛らしい小さな身体、軽快な足取りで僕の席をかすめながら僕と伊織に嫌味をはいたのは幼馴染の『恵花 莉里沙(えばな りりさ)』後ろ足ステップでぴょこんぴょこんと、僕らの席から過ぎ去ろうとした瞬間、後ろにいた大きな身体の友人Bに「ドンっ」。背中から突っ込んだ。

友人B「なにやってんだよっ」

莉里沙「ごめんごめん。」

僕、伊織「ざまぁー笑」

莉里沙「べー」

 莉里沙は少しだけ赤く染めた頬っぺを膨らましあっかんべーをしてまた、ぴょこんぴょこんと立ち去る。莉里沙が立ち去るのを少し呆れながら見ていた僕に

伊織「実に健全で清々しい可愛い女の子の背中であるッ」

 腕を組みながら、うんうんと頷きそう呟いてきた

僕「はぁ?どこがー」

 その結婚式の夢は、昔から本当によく見る夢で、親から聞いた話によると、まだ僕が小さかった頃出席した結婚式の記憶だとか。

 まぁ、余談はその辺で

キーンコーンカーンコーン(チャイムの音)

 僕は最後の授業が終わり、曲がった背中をいっぱいに背伸びして伸ばす

友人B「帰りちょっと時間あるかー?、今作ってる曲の打ち合わせしたいんだけど」

 そんな友人B、名前は『日比谷 才人(ひびや さいと)』中学からずっと一緒に音楽をしていたバンドメンバーの一人で僕と違い普通ではない、そう、名前の通り天才肌のセンス溢れるクラスの女子がほっておかないそこそこのモテ男である。そう、そこそこ。泣

僕「了解、課題提出してから行くから音楽室で待ってて」

日比谷「俺もちょっと先生に話があるから鍵もらって先に行っててくれ」

僕「おっけー」

 職員室で鍵を借りて3Fの音楽室に向かう、特徴的な長い階段を登る途中、何かの音が響いてきた。音楽室の扉は開いていて、隙間から綺麗なピアノの音が響いている

       〜ピアノの音〜

 そっと覗くと、莉里沙がいた。辺りには美しいピアノの音が鳴り響き、まるでその綺麗な瞬間を独り占めするかの様に、夕日で赤とオレンジにそまったカーテンが莉里沙とピアノを、プレゼントのラッピングの様に包み込んで揺れていた。僕の時間が一瞬止まった。ドクンっと言う心臓の鼓動と共に頭の中にあの夢の冒頭シーンが…

莉里沙「そんな所でコソコソ聞いてないで、こっちに来なよ。」

僕「え、、あっ、、」

その美しい情景の中にいる莉里沙に不意に話しかけられて、なぜかオロオロしてしまった。

莉里沙「君は知ってる?」

 莉里沙は丁寧に手で書かれた譜面をそっと指差す。そこにはbrightly(ブライトリィ)の文字

莉里沙「輝かしく、生き生きと」

莉里沙「音楽の用語はイタリア語とドイツ語が多いの、でもbrightlyは英語なんだよ、素敵な言葉だと思わない?なんだか、とても儚い生命の神秘と言うか・・・」

 莉里沙はそっと微笑みながら僕に問う

僕「好きだ」

莉里沙「えっ?・・・」

 莉里沙は不意を突かれて少し驚いた顔をしたがすぐに少し微笑んでそっと部屋を出て行く。僕の思考回路は全く関係のない君の質問に対してまさかの告白で返してしまうと言うあまりのスピーディーな展開にオーバーフローでフリーズ。気付いた時には君の姿はそこにはもうなかった。

・・・や、やってしまった!

 その後も、放心状態で抜け殻になった僕は日比谷からのメール音でフリーズよりやっと再起動。

 日比谷(メール)「ごめん!急用出来たから打ち合わせはまた今度で、んじゃー!」

・・・おぃ。

 その日の夜は失恋ソング特集の歌本を片手にギターをかき鳴らして、笑った、、、いや、、、、泣いた。。。

 そんな大切な青春の1ページを、突然で無計画な告白失敗で自ら破り捨ててしまった僕のその後の日常なんてものは実にあっけらかんとしていて。気付けば僕の気分に比例するかのように哀愁の秋から冷え切った冬に移り去っていた。僕と莉里沙のその後の関係はと言うと、朝いつもの駅からの電車は別の車両。前はそれぞれの友達と通学してない日は一緒の車両に乗って音楽の話、映画の話もしてたな。いつもの駅からの通学路は顔を見てもそむけるか、会釈程度。前は2人共好きなアーティストの曲なんかをiPodのイヤホンで2人で聴きながら。。。休憩時間に伊織とワイワイ騒いでいても莉里沙は教室にもいなかった。音楽と学業を両立している莉里沙は進路も早々と決まっているのだろう、、図書室で勉強をしているのを窓越しに見る事が増えた。周りの友達は学校が終わってから遊びに行く?カラオケ行く?なんて騒いでいる中、莉里沙は足早に教室を出てまた図書館とか近くのスタバで勉強していた。周りの友達も段々とその真剣な空気を読んで無理に誘う事を辞めていった。当たり前の様に過ごしていた普通の日常は今考えればすごく、すごく貴重で愛おしい時間だったんだなと思い返すと、なんだか無性に歌いたくなってきて、その日の夜は青春ソング特集の歌本を片手にギターをかき鳴らして、笑った

、、、いや、、、、泣いた。。。

 日比谷は打ち合わせをドタキャンした次の日学校を休んだかと思うと

日比谷(メール)「父親のコンサートのサポートメンバーに急遽欠員が出て手伝って欲しいらしいからちょっと行ってくる!

いつ帰れるかわからんけど、バンドは適当にでもやっておいてくれ!解散するのは許さんからなー」

、、、だいたい父親って海外飛び回ってるミュージシャンだろ、どんだけ才能あるんだよ!ってかいつ帰ってくんだよ!ってかバンド続けろって言うけどバンドメンバーどうすんだよ。

 そんなこんなで、日比谷はまだ海外からは帰って来ていない。思い返せば日比谷と言うと気まぐれな奴で、、、そうそう、僕がギターを始めたのも日比谷の気まぐれだったなぁー。

日比谷「俺が絶対ヒットする曲を作るから、お前はギターとボーカルで決まりな!!」

僕「はぁ??この間まで俺が執筆するから作画担当してくれって言ってたじゃん!」

日比谷「お前、冷静に考えてみろよ、ドラゴン◯ールとかワン◯ースとか鬼滅の◯みたいな漫画が俺たちに書けると思うか?、、、俺は思わない!!でもお前と武道館に立ってる姿は想像できるんだッ!!俺の目に狂いはない!だからとりあえず明日楽器屋に行こう!!よしっ決まり!」

 で、連れていかれたのはなんとも怪しい雰囲気の路地にある古い楽器屋。中に入ると、いかにもそうだって白髪白髭のゼペッ◯爺さんを彷彿とさせるお爺さんが出てきて、

ゼペッ◯爺さん「陸人の倅か?、、、話は聞いている、こっちの部屋へ来い。」

 僕はこの伝説のB級バンドのサクセスストーリーみたいな展開にあっけらかんとしていたが、部屋の奥に入ると、乾いた空気の中、鮮やかな虎眼の入った綺麗なギターが置いてあった。ゼペッ◯爺さんはおもむろにそのギターを手にとってブルージーなフレーズを奏で始めた。。。

       〜ギターの音〜

 それまでの人生でギターの音なんて意識して聞いた事は無かったけど、音楽の「お」の字も知らない僕でも、一瞬でその甘い音色に心を引き込まれた。

ゼペッ◯爺さん「陸人といつも話していた。時期が来たら、、、この子を次の世代に受け継ぐ事を。。もぅわしではこの子は満足しない。。。今がその時なのかもしれない。」

 ゼペッ◯爺さんはギターを古いケースにしまい、そっと僕に手渡した。その時の、まるで最愛の人とのお別れの時の様なゼペッ◯爺さんの顔を僕は今も忘れられない。そこからゼペッ◯爺さんはさっきまでのお喋りな人柄がまるで嘘の様に、何も話さなくなった。。。ゼペッ◯爺さんがこのギターに賭けた情熱や愛情が、肌に伝わってくるのを感じた。。。よほど寂しいのか。僕がギターを手にお店を出ようとした瞬間にゼペッ◯爺さんが重い口を開いた。。。

ゼペッ◯爺さん「毎度あり、75万飛んで2千円になりやす!」

ゼペッ◯爺さん「いやー、最近楽器も中々売れ行きが悪くてのー!」

僕、日比谷「金とるんかいッ!」

 その日、僕と日比谷はアウトレットのボロボロのギターとベースをセット5000円で渋々買わされたのであった。

 あ、、、思い出した。そのボロボロのギターとベースを買って間もない時に日比谷の父親の友人?の結婚式的なイベントで初めてステージに立たされて、その頃コードもろくに抑えられなかったのに負けず嫌いの日比谷の無茶振りで、、、それはもぅ散々な内容で、、、ん?だった様な気がする。なんて黒歴史的な思い出にふけっていると向こうにも伝わったのか久し振りにメールが入った。

日比谷(メール)「11時半のロサンゼルス→成田便で帰るから16時半くらいに迎えよろしくー。いつものスタバで待ってるー。」

俺はお前の彼氏か!まぁ久し振りに僕も日比谷と音楽の話でもしたいし、今回は大目に見るか。。。

 夜明けごろ夢を見た。

ブーブー(マナーモードの音)

僕「もしもし。。。」

莉里沙「朝早くにごめん。。。」

僕「莉里沙、、、こんな早くにどした?!」

莉里沙「才人と連絡が取れなくて。。。」

僕「あーあいつなら、、、、、、って、、」

、、、、え!?莉里沙ッ?!夢じゃない!!!最近話もろくにできていなかった莉里沙からの突然の電話に慌てて僕は飛び起きた。

僕「日比谷なら今頃ロサンゼルスから日本に帰る途中だと思うけど??」

莉里沙「、、、今、、、テレビのニュースでロサンゼルスからの便が、飛行機のエンジントラブルで消息を絶ったって。。。」

 僕は慌ててテレビを付けた

 ニュースキャスター「臨時ニュースです。先程未明本日11時半ロサンゼルス発成田着予定の国際便AA16◯便が原因不明のエンジントラブルで機長からのSOS信号を受信した後、突如爆発音と共に消息を絶ちました。尚この事故での乗客の安否は未だ不明ですが、便には日本人乗客を含む1000名以上の乗客が搭乗していたと見られ現在海上隊、警察を合わせ捜索活動が、、、、」

 、、、えっ夢?、、、僕は一瞬わからなくなって自分の顔を手で叩いた。夢じゃない。

僕「莉里沙ごめん、電話するから一旦切る。また後で連絡する。」

莉里沙「うん。」

 一旦莉里沙との電話を切り、慌てて日比谷に電話をした

日比谷(携帯)「電源が入っていないか、電波の届かないところに、、、」

 駄目だ。すぐさま日比谷の父親(陸人)に電話をかけた、、

僕「頼む、、、出てくれ。。。」

 陸人おじさん「あっ◯◯君か?、今警察から乗客者名簿を元に連絡を貰って現地に向かっているのだが、◯◯君にも連絡は入っていないか?」

いつも冷静でクールなイメージの陸人おじさんが聞いたこともない程に慌てた声で、僕は頭が真っ白になった。もう一度日比谷に掛けたが繋がらない。

僕「なんでだよ。なんで出ねーんだよ。」

ピコンっ(携帯の音)

日比谷(メール)「電源切れてた!」

「成田便今えらいことになってるみたいで明日帰れるかわからねー」

 僕は慌てて電話をかける。

僕「日比谷、大丈夫なのか?」

日比谷「あ、、、もしかして、俺やらかしてる、、、?よな。。」

 日比谷はその便には乗っていなかった。

僕「お、、ま、、え、、なぁ、、」

日比谷「ごめん。。。」

僕「陸人さんと莉里沙からも心配して電話もらったからすぐ掛けろ!」

 僕は大切な友人を失うかもしれないという張り詰めに張り詰めた緊張の糸が解けたのか気付くと泣いていた。どうでもいいけど、後に話を聞いていくと、出発土壇場に路上ミュージシャンに声をかけられて、、、、ノリよく付いて行ったら、、、地下のバーで演奏をするとかしないとかなんとかで、、、夢中になってると飛行機には遅れそうになったので、搭乗日を変更したとかしてないとか、、、、うん、そんな事は本当にどうでも良かった。。。

 安否が心配されていたAA16◯便は幸運にも海面着陸成功により、数人の軽傷で全員救助された。日比谷はその後すぐさま父親に連行され日頃からの気まぐれな行動と生活態度をこっ酷くしかられて帰ってきたのは3日後の夕方だった。とりあえず、帰って来てから3日間はスタバで全部奢らせた。

 そういえば、、、受話器越しにだけど莉里沙の声久し振りに聞いたな。。。日比谷の帰国も知ってたし、、、2人って仲良かったんだ、、、知らなかった。・・・才人って下の名前で呼んでたし。

 なんとなく寂しい気分になって、、、その日は一日中莉里沙の事考えていた。僕は幼馴染だけど、莉里沙のことなんて何も知らないんだなぁ、、、そう言えばいつから話する様になったんだっけ、、、なんて今更だけど考え込んでいたら駅のベンチでも1時間ほど時間だけが経っていた。

そろそろ帰ろうと、ギリギリ飛び乗った車両に莉里沙がいた。いつもだったら莉里沙は隣に座って来て、きっと最近発売したお気に入りのアーティストの新曲を2人で聞きながらあーだこうだと他愛のない話をしながら帰るのだけれど。。。今の状況じゃそれも、、、ないか、、、そんなことばかり考えていたら気付くともうすぐ最寄りの駅だった。

莉里沙「この間は電話、ごめん。」

莉里沙はうつむきながら僕に話しかける

僕「いきなりでびっくりした。」

莉里沙「才人、何もなくて良かったね。」

僕「うん。」

僕「日比谷と仲良いんだね、良く電話とかするの?」

 あ、、、やってしまった、、、振られ男が醜いひがみ、、、、

莉里沙「うん。」

僕「.....」

 自分から聞いておいて、僕は何を期待してたんだろ。莉里沙がなんて返すと喜んだんだろう。あー嫌だな、この時間。心の中がずっともやもやする。

 電車が駅に止まり、莉里沙は足早にこの場を去ろうとする。

 終わった。いや、そもそも始まってもなかったか。。。

電車の音「ジリジリジリ」

 あまりにもボーっとしすぎて電車の汽笛でふと我に戻った。慌てて飛び出したら莉里沙は駅のベンチに座っていた。

僕、莉里沙「あ、、、」

 5秒くらいかな、少し重い間を空けて莉里沙がつぶやく

莉里沙「こうゆう時は、「暗い夜道は危ないのでお家までお送りします」って言うんだよ。」

僕「なにそれっ」

それまでの重い空気が無かったかのように緊張の糸がほどけて笑ってしまった。莉里沙と他愛のないことを語りながら歩くいつもの帰り道、、、、なんか10年くらい会っていなかった人の様に色んな事で話が尽きない。莉里沙はずっと黙らない僕の話を聞いて優しい顔で楽しそうに頷く。ほんの数分の時間だけど、とても愛おしい時間。月の優しい灯りが莉里沙の為に用意されたかと思うくらい莉里沙の綺麗な髪と瞳を灯して、眩しくて目を閉じてしまうくらい、、、あぁ僕はこの子の事が本当に好きなんだなって。

 莉里沙を家まで送り届けて暗い帰り道、ふと頭の中に音楽と夢の冒頭が流れる

        〜夢の音楽〜

 莉里沙がピアノで弾いていたあの曲だ。莉里沙があの時弾いていた時もそうだったけど、なぜかこの曲を僕はずっと前から知っていた気がする。綺麗で、、、どこか懐かしい、、、、そしてなんだか切ない。

 「なんだろこの感じ。。。」

 家に帰っても頭の中からその音は消える事がなく、その日は歌本を片手にせず、気付けば疲れて眠りに着くまでずっと、ずっと、ずっと口ずさんでいた。

 またいつもの時間が始まる。莉里沙と登校の時に偶然出会う事も無ければ学校への道のりは富士山を登頂しているかの様に遠く。

 莉里沙と話をする事の無い学校の休憩時間は、楽しみにしているテレビ番組が祝日で一週休みになってしまった時くらい長く。その遠く長い道のりは、まるでこの間、莉里沙と楽しく喋っていた時間が本当に存在したのか幻想だったのか、わからなくさせるくらいで。。そんな憂鬱な時間は憂鬱な事を呼び寄せるらしく、僕は、その瞬間にふとその場に鉢合わせる。

 いつもの帰り道、少し先を歩く日比谷の姿を見つける。そう言えば、まだ日本にいたんだった、、、この間の件で5歳くらい歳を取るくらい苦労をかけられてから安心感もあって存在さえ忘れていた。久しぶりにスタバでも誘ってやるかっ。

 後ろから脅かしてやろうとゆっくりと近づいて行くと日比谷はいつもの帰り道から逸れて行く、どこか寄り道でもするのか?若者が多いモール街の方にゆっくりと歩いて行く日比谷は、行き先の誰かに気付いたのか手を振る。その先には莉里沙がいた。

 なにこのシュチュエーション。いきなりの展開に僕はとっさに隠れてしまった、、、ってこれじゃー完全に怪しい人じゃん。

 この間の件からなんだか仲が良い2人って言う先入観もあったけど、一緒に歩く姿がなんだか恋人の様に見えてくる。ついこの間、莉里沙と帰り道が一緒になった程度で、、、莉里沙と沢山話ができた程度で、素敵な時間を共有できたーとか

もしかして距離が縮んだ?とか、ちょっとふわふわして浮かれてた自分がめちゃくちゃ恥ずかしく感じてきた

 なんだよ、、、2人して、、、そうだったんなら最初から言ってくれれば良かったのに。みずくさいなぁ。

 なんだか無意識だったけど、気づけば僕は、しばらく2人を尾行していた。まじまじと見せつけられると、美男美女でバランスの取れた良いカップルだなぁ、なんて、、、

 すれ違う人は、老若男女問わず「お似合いのカップルだねー」とか、「あの人カッコいい」とか、「あの子めちゃくちゃ可愛い」とか、いつもより敏感になった耳が、これでもかってくらいにそんな情報ばかり仕入れてきて、しまいには、莉里沙と日比谷は腕まで組み始めた。だいたい、話す時とか、なに、あのゼロ距離な2人の顔と顔、、、

僕「え、近くなーぃ、、、?」(心の声)

 少し涙目の僕はもう自分の精神力の限界まで来ていて、ずっと自問自答を繰り返していた。気がつくと、案の定周りは騒然としていて、大半の人は僕を変な目で見ていた。僕は慌てて、とっさにその場から逃げようとした。ちょうど僕の振り返った右足の前にゴミ箱、、つまずき態勢を崩す僕は、ゴミ箱をひっくり返す。

 「ガンガラガーンッ」

 もぅ展開が漫画じゃん。。。言わずと知れて、莉里沙と日比谷は背後の僕の存在に気付く

莉里沙と日比谷「(なにしてん(る)の?)」

 2人が僕を呼ぶ声がシンクロする、、、おぃおぃ、もぅわかったから、もぅ見せつけはやめてくれ(心の声)

 またまた、無意識に、気付けば僕は、2人に背を向けて逃げ出していた。

日比谷「◯◯ッ?!」

 ルックス、音楽の才能、だけではなく、日比谷はスポーツでも色んな学校から推薦が来るような万能なタイプで、鈍臭い僕の逃げダッシュに追いつくなんて訳なく、あっという間に日比谷に確保された。

日比谷「なんでいきなり走り出すんだよー??」

 嫌味のない純粋な瞳で、僕を見ながらそんなわかりきった事を問うてくる日比谷、

僕「お前こそなんだよ、みずくさいなぁ、そうならそうって言ってくれれば良いのに」

 なんとも言えない作り笑顔で嫌味を呟く僕。。

日比谷「ごめん、そうだよな、こんだけ長い事付き合ってたお前に確かにこんな大切なこと、言ってないって、ダメだよなー」

 日比谷の言葉も、表情も、全てが、胸に突き刺さって、そしてその後ろから追い討ちをかけるかの様に、息を少し切らせた莉里沙が僕たちに追いつく。

 「◯◯君、、、」

 ああ、なんだこれ。今すぐ、この場から消えたい。

僕「大丈夫!!、俺は大丈夫だからっ!!ごめんごめんっ!2人の事、邪魔するとかそんなんじゃなくて、、、」

 莉里沙も、ものすごく困惑した顔をしている。

日比谷「俺こそ、俺こそごめん。なんかずっとタイミングがなくて、だって、いきなりそんな事言うと、お前もやりにくいかなって、いや、でもお前の事考えればもっと早くお前には言っておくべきだったよな、俺と莉里沙が従兄妹だなんて。」

僕「いやいや俺こそごめん、なんとなくわかってたけど、付き合ってるなら付き合ってるって、俺と日比谷の中でそんなの、なんかみずくさいなぁーとか

僕「へっ?」

僕「「従兄妹?」」

日比谷「、、、、」

日比谷「へっ?」

僕「ふぇッ?、、、、」

 もはや、、、その時の自分の顔は記憶には無いけど恐らく、ちび◯◯子ちゃんの友蔵じいさんが、ちび◯◯子ちゃんの破天荒っぷりにこれでもかと言うくらいに振り回され、最終的にはまるで機関車トーマ◯が後ろの荷物車を簡単に切り離ししたかの様に、その場に取り残され、「ポワァ〜ん」と言う気の抜ける効果音と共に蝉の抜け殻の様な顔をする。多分そんな顔をしていた。

 そんな僕の顔を見た君は、100%純粋な瞳で頭の上に大きな「?」マークを付けた少女漫画のヒロインの様な顔をしていた。

 ややこしいかッ!!

 その後は無性に腹立たしかったので、日比谷の奢りでカラオケに行く事になった。

 3人だけど莉里沙とカラオケに行くのなんていつぶりだろ。音楽一家の日比谷の流石の歌唱力でさえも霞んでしまうほど、莉里沙の歌は透き通って、世界中を包む程に力強いのに、なぜか触れると泡になって溶けるような。僕がこの店に来た時に、いつも好んで飲んでいるジンジャーエールのほろ苦さを際立たせるような、少しビターで、、少し甘い。一言でうまく言い表せないけど。ずっとこの歌を聞いていたい。

 ちなみに、この店の店主は若い頃渡米してジンジャーエールの専門店を海外で開いていたらしく、そのジンジャエールはまさに絶品、巷で超有名なのである。莉里沙の久しぶりの歌声のせいか、なんだか今日はいつもよりほろ苦い

日比谷「喉乾いた!俺もコーラ頼んでー。」

僕「はいはい。。。」

莉里沙「私はどうしようかな。」

僕「莉里沙はメロンソーダだろ?注文しとくよー?」

莉里沙「えっ?」

 莉里沙は少し不思議そうな目で僕を見た後

莉里沙「うん。」

莉里沙は微笑みながら小さく頷く

 ん?、、、メロンソーダ?僕なんで今いきなりメロンソーダなんて言ったんだろう。

 そんな雰囲気の中、日比谷が電話で部屋から出て行った。

 2人きりの空間、少しの沈黙。

莉里沙「メロンソーダとか懐かしすぎだしっ」

僕「あ、アハハッなんか莉里沙は、好きそうかなぁーなんて、アハハッ」

僕、莉里沙「.........」

 なにこの空気、なんか気に障ったかな。そして僕デンモクに入れた歌のイントロが流れ始める。

僕「あっ歌、、俺の番だっ!マイクマイクっと」

 キョロキョロと後ろ歩きにマイクを探していると椅子の端に足を引っ掛けて、バランスを崩した。倒れそうになるのを必死に堪えたら、莉里沙の上に覆いかぶさるように、倒れ込んだ

ドクン、ドクン、心臓が大きく鼓動し、、、

 きっと僕はマヌケな顔をしてたんだろうけど、莉里沙のドアップはこの世のものではないくらい眩しすぎて。

 綺麗な目、綺麗な髪、綺麗な唇、、、避けなきゃいけないのに一瞬見とれてしまった。

莉里沙「ソファーだけど、壁ドンですか?」

僕「ごめん!!」

僕は慌てて立ち上がる。。

僕「ちょっとジンジャー飲み過ぎたからトイレ行ってくる!」

 日比谷がそんな雰囲気の中、ちょうどナイスなタイミングで電話から帰ってきたので僕は慌てて部屋を出た。

 この夜が僕にとって、かけがえのない夜になる事を、その時の僕はまだ知る余地もなかった。

 「ジリジリジリッー」

 いつもの目覚ましの音。目を開くと莉里沙の寝顔。そう、僕たちは結ばれた。じっと眺めていると、目を覚ます莉里沙。優しく少し甘えた声で

莉里沙「おはよっ」

僕「うん、おはよ」

 莉里沙は早起きして朝食を作った後、僕の横でうたた寝をしていたようで、エプロン姿がちょー眩しい。ゆっくり浸っていると時間は早いもので、出社の時間。

僕「行ってきます。」

莉里沙「行ってきますのハグは?」

 あー幸せすぎる。まるで夢の様なシュチュエーション。そうこうしている間にも出勤時間が刻々とせまってくる。とりあえずゴミの日なので、いつもの様にゴミを回収カゴに持っていく。いつもこの時間にゴミを出している近所の綺麗なお姉さんが今日も少しセクシーな寝巻き?姿でゴミを出しに来た。

僕「おはようございます。」

セクシーお姉さん「おはようございます。」

 いつも、少し恥ずかしがりながらうつむき気味で長い黒髪を小さくかきわける仕草がたまらない。

セクシーお姉さん「お仕事頑張って来てください」

、、、あーいい朝だー。

 僕は少し小走りにいつもの通勤の道を急ぐ、曲がり角から飛び出してきた食パンをくわえた美少女と、ぶつかる。

美少女A「いたたたたっ」

 美少女はまるで少女漫画に出てくる様な可愛い顔立ちに短いスカート。僕は思わず見とれてしまう。

僕「大丈夫?怪我は?」

 美少女は顔を赤くしながら

美少女A「エッチ。。。」

 少し微笑み。美少女は走り去った。

 会社に着くとすぐに僕の元に美人上司が近寄ってくる。

美人上司「この間のプレゼン資料、とても良かったわ。」

僕「ありがとございます。」

美人上司「先方が、お礼も込めて今晩懇親会でもどうかって誘われてるんだけど、あの社長プレイボーイで有名だし、私1人じゃ心細いし、君は今晩どう??」

 美人上司とディナーキター♪

 

 おいおい、僕には最愛の妻、莉里沙が待ってるんだぜ。いや、でも、これは仕事だ。そうだ、ビジネスなんだ。

僕「僕って、なんて罪な男なんだ」

 仕事も夕方に差し掛かって来たその時、ふと窓の外を見ていると、路地裏で綺麗な女の子がチンピラ男2人に絡まれている。

僕「困っている人がいるッ、助けないと!」

 僕は会社の階段を駆け上り、屋上にたどり着く。

 なんで屋上かって??スーツを脱いだその下には、そうマントを羽織ったスーパースーツ。。

 実は僕は地球の平和を守るスーパーマンなのだ。

僕「とぅッ」

 すぐにチンピラを追い払い、綺麗な女の子は僕にメロメロ。僕は腰に手を当てて

僕「わはっはっはっはっはー」

 まるで、漫画なシュチュエーション。

「おーい」

僕「わはっはっはっはっはー」

「おーい」

僕「正義は必ず勝つのだぁー」

「おーい!!」

僕「ん!?」

 気がつくと日比谷の顔、、、そう、僕は深い夢から覚めた。。。どうやらマスターが作ったジンジャーエールに手違いでアルコールが加えられた様で、免疫のない僕は一瞬で酔っ払って気を失ってしまったらしい。

(※未成年の飲酒は法令で固く禁じられています。※)

 あったまいて。。。泣

 僕は暫くうずくまっていた。

僕「あれ?そう言えば、莉里沙は?」

日比谷「莉里沙ならお前が目ぇ覚ますまで待ってるって、さっきまで、ずっと歌っててさっき歌い疲れてそのままカラオケルームで寝たよー」

日比谷「そろそろ良い時間だし、莉里沙起こしてかえるぞー」

 帰り道

日比谷「じゃー俺はここで!」

僕、莉里沙「おやすみ!」

 そして、また2人きり 

僕「あーまだ、頭痛っー」

莉里沙「おまわりさーん、未成年者の飲酒でーす」

僕「おいおぃ」

莉里沙「あははっ」

 あー、もぅ何気ないちょっとした仕草も全部可愛く見えて来る。

僕の莉里沙に対する防御力は0を通り越えて最早、マイナスだ!

莉里沙が小さな声で呟いた

莉里沙「覚えててくれてたのかな?

メロンソーダ。」 

僕「えっ?」

莉里沙「なんでもない」

莉里沙は微笑みながら軽いステップで僕より少し  前で後ろ歩きを始める。

莉里沙「〜歌〜」

 莉里沙は小さな声であの曲を口ずさみ始めた。

「・・・ッ」

 一瞬頭痛の痺れと共に夢に似た記憶の奥の古い映像が流れる。

僕「あれっ」

 なんでだろ、すごく懐かしいけど。

 何か、大切な事を忘れている様な・・・

 

 また不意に僕の中にあの日の教室での衝動と一緒の感情が湧き上がって来る。

僕「あの日の返事は?」

莉里沙「え?」

 あれ、僕何言ってるんだろう。

莉里沙「…」

莉里沙は小走りに家の方向ではない踏切を渡る。

カンカンカン(電話の音)

 シグナルの音と赤いランプが頭痛を響かせて僕は少しボッとしてしまった。

 電車が近づいて来る。

 莉里沙が小さく口を開いて

「ごめん、もぅ・・・・いの」

一瞬、莉里沙と夢に出てくる小さな女の子がダブって見えた

ガタンガタン(電話の音)

 莉里沙の声をかき消す様に僕と莉里沙の間を電車が通り過ぎた。

僕「えっ?」

 過ぎ去った電車の向こう側には、もぅ君の姿も小さな女の子の姿も無かった。

 それから数ヶ月が経ったある日、莉里沙は言葉も残さず留学した。僕は、ぽっかりと穴が空いてしまった心に何かを埋めるくらいに音楽に没頭した。そこに言葉や会話は無く、気付けば周りから僕は孤立していた。1人になりたかった。

音楽をして。音楽をして。音楽をして。でもそれは、音を楽しむと書いた言葉とは違い、ただの寂しい時間潰しだった。

 また、夢を見た。とても眩しい光から、いつもの泣いている女の子の顔、でもいつもと違ったのはそこからモノクロの結婚式が、始まり、幸せそうなのに…何かもの悲しい、エメラルドグリーンは深い漆黒。音の無い世界。

囁く様な声「ごめん、聞こえないの」

 ブツんと鈍い音が響き、ふと目を覚ました時、僕はなぜか、泣いていた。

 また日は流れた。あの日からずっと抜け殻だった僕の進路も決まり、春からは家を出て一人暮らしをする事になった。部屋を片付けていると、あの譜面が出てきた。

僕「…」

 あの日あの教室で、莉里沙が忘れて置いて行った譜面だった。僕の急な告白で、ビックリして持ち帰るの忘れた物をずっと返しそびれていた。いや、なぜかこの紙が、僕と莉里沙を繋いでくれる、そんな気がして。

僕「そう言えば返してなかったな…なんだったっけ…」

日比谷「輝かしく、生き生きと・・・まるで、今のお前と逆だなっ」

 勝手に部屋に入っていた日比谷が僕を小馬鹿にし、なんだか楽しそうに笑っていた

僕「…」

 孤立してた僕だけど、日比谷だけはなんの返答もなんの反応もしない僕を気にもしない様に、変わらず日々僕に接していた

日比谷「電話しても、出ねえし。人が日本から長い事去るって言ってんのに、冷たい友人だなぁー」

僕「…」

日比谷「俺はさ、周りから羨ましがられるくらいかっこよくてさ、才能もあってさ、親は一流の音楽家でさ、お金もあって、彼女も可愛いし、多分何もしなくても欲しいものは手に入るんだ。でもさ、小さい頃は体が弱くて、1人じゃ何もできなくて…だから、自由に輝いてるお前が羨ましかった。だからいっぱい頑張った。いっぱい努力したし、多分思いつく出来ることは全部やった。だから俺は今、俺でいる。なぁ、そろそろ向き合う時じゃないか?お前があの時あの場所に置いてきたものはお前にしか取り戻せねーし…」

日比谷は、言葉に詰まる。

日比谷「莉里沙は、明日手術を受ける、未来の自分と向き合う為の手術だ…

命を繋ぐ代わりに…高い確率で聴力を失う。

最悪の場合は命を…

独り言…あの日からずっと親や、親戚の皆から口止めされてきたからこれは、独り言だ…

ある所にとても音楽が大好きな小さな男の子と、その子に負けないくらい音楽が大好きな小さな女の子がいました。男の子は、いつも自由でとても輝かしく、生き生きとしていた。その子が奏でる音楽もまた、その男の子そのものでした。

女の子はその男の子のそんな輝いた姿に、ある日恋心を抱きました。だが、女の子は昔から体が弱く耳の病も100万人に1人の難病、女の子は段々と心を閉ざしていきました。ですが、男の子は諦めず、その輝いた光の音楽で女の子を優しく包み込み、女の子は心を閉ざす事をやめました。男の子もまた、女の子の事が大好きでした。

ただ、段々と女の子の病は女の子から聴力を奪いとっていき、そんな中ある日、まだ幼い女の子は決断します。

それは、大好きな男の子との別れ

女の子は、男の子のその、自由で、輝いた音楽が本当に大好きだったんだ。。。

幼いながら、自分はきっと男の子の負担になると感覚で感じたんだろうな。

女の子「ごめん、もぅ聞こえない」

その言葉を最後に、女の子は遠い遠い国に…

男の子は、その日、音楽を忘れました。

なぁ、この物語の結末はバッドエンドなのか?

お前だけが知ってて、お前だけが変えられる

俺は、今でもそう思ってる」

僕「日比谷…」

日比谷「じゃ、またな」

 部屋を出て行く日比谷。そうだ、あの夢は僕だ。現実が怖くて逃げ出した僕だ。記憶がフラッシュバックする。僕は記憶を心の中に閉じ込める事で、全てから逃げてた。辛い事に目を背け、辛い記憶には鍵をかけて。莉里沙がどんな気持ちで僕の前からいなくなったのかも考えず…

 今僕に出来る事。今僕が伝えないといけない事。

 日比谷、ありがとう。

 そこには、アメリカ行きのチケットとメモがそっと置いてあった。

日比谷(メモ)

 莉里沙は今、手術の手続きで一時的に日本に帰ってる、今日の最終便でアメリカに向かってそのまま手術の為入院する事になる。恐らくもう日本には帰らない。お前ずっと前に言ってたよな?僕の音楽で変えれないものは何もないって。


     「輝かしく、生き生きと」

                日比谷 才人

僕「あいつ…」

走った。夢中になって、走った。

 あの夢は夢じゃない、物心つき始めた僕は誓いのキスシーンが恥ずかしくって、莉里沙が大好きで歌う前には必ず飲んでいたメロンソーダで半分顔を隠して、その後いきなり泣きながら病の事を聞かされて、目の前の莉里沙は元気なのに手術とか死んでしまうかもしれないとか、あの時の小さい僕には難しすぎて何が何だかわからなくなって、気付いたら大好きな子が自分の前から、初めからいなかったかのように、いなくなって。そう、あの日、僕の世界から音が無くなって。色が無くなって。莉里沙といた記憶を全て無くして。いや、あの時の記憶は無くしたんじゃない。僕が僕の心に、僕自身の手で、鍵を掛けたんだ…誰もあげられない鍵を…

まるで鍵を開けられたかの様に、僕の中に

音楽が、

色が、

記憶が、

莉里沙との記憶が流れ込んできた。

 あの歌は君が良く口ずさんでいた曲で…きっとあの歌は…

僕「莉里沙っ」

 全速で走って呼吸が止まるくらい、息を切らした僕はアメリカ便のロビーで莉里沙を見つける


僕「莉里沙!!」


 搭乗ゲートに向かっていた莉里沙が立ち止まる

莉里沙「…」

 後ろを向いたままの莉里沙が、口を開く


莉里沙「ある所に結婚を誓った小さな男の子と、女の子がいました。


ある日、魔女は小さな女の子に魔法を掛けました。


その魔法は誰も解き方を知らない魔法で、解いてしまうと解いた人は死んでしまいます。


 女の子は、それは…それは…男の子に死んで欲しくありませんでした…


 さて問題です。


女の子は、どうしたでしょう?


僕「…莉里沙」

少しの静寂


莉里沙「答えは簡単だよ。


ずっと、隠れるの・・・ずっと、その大好きな男の子に、忘れられるまで。ずっと。


だから…


もう一度、忘れて。」

 莉里沙は歩き出した。あの夢の女の子が重なる



僕「・・・やつけるから。

僕が、、僕が全部守るから。」


           歌


僕「もう、君のラブソングが忘れられない」

僕「莉里沙、好きです」



莉里沙「答えになってないよ。そんなのずるいよ。あの時もそう。

君は隠れてる私を明るく照らすの。

何度隠れても明るく照らすの、


何度も、何度も





私、






死にたくない。生きたいよ。









3年後


 大きなコンサート会場



 あの曲を歌う誰か



 僕の部屋には、


子供の頃の結婚式の写真と結婚式の写真



 ピアノ、譜面



     「輝かしく、生き生きと」





           完

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輝かしく、生き生きと 呂 歩流 @rylm

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