第2話 Aさんの場合

 原発事故があってから、Twitterでは情報が錯そうしていた。

 色んな専門家が放射能についてコメントしていて、有名な人だと、”ホンマでっか!TV”に出演している武田邦彦氏が放射能対策の書籍を複数出版していた。著書の中で、放射能を減らすような生活習慣などを紹介していたと思う。


 お母さんと子どもだけで、北海道や関西に引越す人もいた。

 Twitterでは「東京は危ない」、「東京にいると癌になる」、「東京は死の街」という情報が溢れていた。恐らく、東京の地価を下げるために、誰かが何かしらの意図があって情報を流したのかもしれない。震災後、日本の国力は大きく後退してしまった。


 東京に住んでいる人は「子どもがいるのに無責任だ」、「子どもの将来を考えていない」と責められていた。病気の人に対しては「放射能のせいだ」と言われていた。若い人が病気で亡くなると「放射能の影響」と言われて拡散されていた。


 俺の知り合いでAさんという人がいた。当時、30代後半くらいだった。若い頃はきれいだったと思うような感じの人で、俺がいた会社の派遣さんだった。俺のセフレの一人でもあった。巨乳でハーフかと思うような顔立ち。背が高くてグラマラスな体型をしてた。英語もうまかった。


 子どもが一人いて、放射能のことをすごく気にしていた。旦那が話を聞いてくれないということで、俺はよく彼女の話を聞いていた。


 俺たちは別々に店に行って、合流して、昼飯をよく一緒に食っていた。


「外食怖いよね・・・水も水道水だし」

 彼女は外食で米は食べなかった。産地がわからないからだそうだ。俺も彼女に合わせていた。それ以外の時は弁当を持参していた。


 彼女によると、放射能を避けるために西日本の食材を買っていると、食材が3倍になってしまったそうだ。水道水を飲まないようにしてるから、毎月のミネラルウォーター代がすごいくて、箱を捨てるのも大変だとか。


「色々知ってるね」

 俺が言うと「Twitterを参考にしてるから」と彼女は言った。


 Twitterに色々な情報を流している人がいるそうだ。ミネラルウォーターの場合は採水地はどこで、工場はどこで、段ボールは〇〇県で製造された物を使っているとか。ここまで気にしていたら、もう買える物がなくなってしまうが、気になる人はとことんまで突き詰めるようだ。


「やっぱりそこまではできないから、気にしないようにしてるの」


 今でも食品の原材料の欄に、工場は〇〇県で、パッケージの工場は〇〇県、パッキングはどこでやっているとか説明書きが書いてあることもある。問合わせする人がいるんだろう。そこまでの情報が必要な人がどれだけいるのか疑問だが。


 そういうコミュニティでは、おすすめのネット宅配は〇〇だとか書いてあるそうだ。

「でも、住所がわかっちゃうじゃない?放射能を気にしているって思われたくなくて・・・。宗教の勧誘とかされたら怖いし」


 Twitterが不気味だったのは、同じ人が複数のアカウントを使い分けて、いかにも放射能の話題で盛り上がっているように見せかけていたことだったそうだ。忙しくてTwitterを見る時間もないような人が、誰も知らないような情報をあげていたり、Aさんが放射能のことをつぶやくと、全然知らない人から攻撃されたりもした。

 そして、それを庇う人からメッセージが届いたりする。彼女をフォローしていないのに、どうやってやり取りを見たのか不思議だったそうだ。


「Twitterって、やっぱり情報操作のために使われてる気がする。なりすましっていうのかな・・・それに、放射能気にしている人は、特定の××を擁護していることが多くて・・・あ、やっぱりって思ったの」


 そして、盛んに関西に移住することを勧める。○○という団体があって、移住をサポートしているなんていう話をする。母子だけでも暮らせるコミュニティがあるなどという誘いもあったそうだ。


「やばいんじゃない?」 


 俺は心配になった。


「でも、お金ないから・・・仕事も見つかるかわからないし・・・」

「俺も東京だし、諦めて東京で暮らそうよ」


 彼女はずっと西日本に引越したがっていたが、旦那がそんなのを許すわけがなかった。彼女は子どものためと言って、離婚して引越してしまった。コミュニティの人たちも、子どものために離婚したという人が多かったそうだ。本当だろうか?ネット上だけの繋がりで、会ったこともない人たちが言うことなんか信用できるんだろうか・・・。


 その後、彼女と連絡が取れなくなってしまった。

 彼女は生きてるんだろうか?

 

 ネットって怖いなと思った話だ。

 

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