コーラル・スティエットの章・前編。

第7話 コーラルが聞くグラスの話。

コーラル・スティエットはヘマタイト・スティエットとの一件を経て諸国漫遊の旅に出た。

まずはと言ってサルバンに立ち寄り、年上の子孫達と挨拶を交わす。


有り難かったのはオブシダンの指示で部屋や服なんかは昔のまま残されていてコーラルは懐かしさに喜ぶこととなる。

だが、服の流行は80年もすれば多少変わっていてヴァン・ガイマーデからは「コーラル、その服ババ臭くない?」と言われて目を三角にする事となる。


そして失念していたのは、弟オブシダンの墓はサルバンの墓所にあったが、妹グラスの墓は嫁ぎ先のジャックスにあると言われて再びジャックス領に行く事となる。


コーラルは30の時に結婚をしていて、やはり貴族の娘としては晩婚でそれには理由があったらしいが夫となったペリス・ジャックスしか知らないという事でコーラルは墓参りだけを済ませると温泉の誘惑に負けて長風呂を決め込み、ヴァンは前回泊まった宿屋を再び手配する事となった。


今回もミチトが作った風呂の前でコーラルを待ち、どんどん湯冷めして行くヴァン。


呑気に風呂を出てきたコーラルはヴァンを見て「あら?待ってくれていたの?」と言う。


「あまり前だろ、コーラルは女の子なんだからさ」

「ふふ、真式の私に勝てる人なんてそう居ないわよ?」


嬉しそうなコーラルにヴァンが「丸腰だろ?」と返すと収納術からレイピアを出して見せて「日々常に武装中よ」と笑うコーラル。


コーラルの取り出した「愛の証」を見たヴァンが「結局トウテに返さなかったのか?」と聞くとコーラルは鼻高々に「ええ、「愛の証」はもう少し使わせてもらうわ。おじ様達の許可は貰っているもの」と言う。


ヴァンはマジマジと「愛の証」を見て「その中にアクィ・スティエットが居るんだろ?凄いよな。コーラルは姿を見たんだろ?どうだったんだ?綺麗な人か?」と聞く。


この質問にコーラルは神に会った信徒のような顔で「ええ、話に聞いて思い浮かべていたアクィさんの何倍もお綺麗で戦いやすい無駄のないお身体、燃える火のような髪色に全てを射抜く眼差し、素敵だったわ」と言う。


ここでヴァンが「でもさ、コーラルを助けて魔水晶の中身使っちゃったんだろ?消えちゃったりしないのか?」と気になっていたことを聞く。


コーラルは一瞬の間の後で「…え?」と言って固まった。

ヴァンはコーラルが聞き逃したと思って「だから、力の素が空っけつになってたら消えちゃわないか?」と聞きなおすとコーラルは目を白黒させると慌てて「あわわわわ!読心…じゃない、私の術で魔水晶を満たす!心眼術!魔水晶が満たされたら赤!」と言って魔水晶を満たしてからそっと読心術をかけると「アクィさん…?アクィお婆様?」と話しかける。


何故か小声のコーラルにヴァンは少し笑ってしまう。


その間に「愛の証」からは「まったく、聞いてるわよ。別に私は魔水晶に憑依したのではなくて剣本体によ。だから魔水晶が空でも消えないわ。魔水晶に術が入ってるとこうして出てこれたり不足した術量を補ったりするくらいよ。それに術もミチトが何もしなくても空気中から吸収するようにしてくれたから安心なさい」と言うアクィの声が聞こえてきてコーラルは涙目で「よ…良かったぁ…」と言った。


本当に心配した事がわかったアクィが嬉しそうに「ふふ」と笑うと「宿屋に行ったら約束を果たすわ、グラス・スティエットの戦いを話してあげる」と言う。


コーラルはアクィが覚えていてくれたことが嬉しくて「あ!ありがとうございます!」と言うとヴァンの手を取って走って宿屋に帰る。



アクィからグラスの話を聞くのでコーラルは伝心術でヴァンにもアクィの声を聞かせるとヴァンは伝説の闘神の妻と話せている事に感動をした。


「あの子が私を使ったのは20から30までの10年間よ。最初はね…ツギハギ事件でサルバンから攫われた1人の少女を助ける為に私を手に取ったの」

「ツギハギ事件…ですか?」


コーラルはツギハギ事件を知らず、ヴァンも知らなかったのでアクィが説明をするとコーラルは憤慨をする。


「人を攫って無理矢理模式に変える?そしてミチトお爺様の作られた融合術を用いて模式同士を繋ぎ合わせる?」

コーラルが怒っている中、ヴァンは「あ…、それ母さんが言ってたやつか、言うこと聞かないと人攫いが来てバラバラにされてくっ付けられるって…」と親に言われていた事の意味を知って納得をする。


「グラスはサルバンから連れ攫われたミッシン・トウテという少女を探したわ、でも攫われてすぐに術人間にされて…ツギハギに入れられていた」

「…グラスはそれを…」


「ええ、倒したわ。キチンと真式として相手を理解して奪術術で融合術を無力化して倒した。でもね、そもそもあのツギハギは失敗作だった。模式に使う融合術は術人間を生み出す以上の難度なのよ。だからあのツギハギは暴走をしていた…」


そしてアクィはグラスが見てきたモノを伝える。


コーラルは涙を浮かべて話を聞く。

そして数日前にオルドスがコーラルに告げたオッハーに行ったスティエット、プレナイト・ロスの話が出る。


「プレナイト…、彼は何故…」

「マ・イードに絶望していたのよ。本当に酷い時代だった。景色は変わらないのに空気が違う、全部が雲って荒んでいた風に見えたわ。プレナイトはミチトと話をしたと言っていたわ。ミチトらしい背中の押し方、ミチトはキチンとライブの事も愛していたのよ、ジェードやライブを彷彿させるあの目をした男の子の道を示したわ」


「その後、グラスはどうしたんですか?」

「グラス・スティエットは自身を弱いスティエットとして位置付けて居たから、国内の不義をミチトの指示通り兄オブシダンに任せて、自身はナー・マステに作られたレイジの洞窟に向かったわ」

ここでコーラルが変な顔をして「アクィさん?」と聞く。


「何?どうかした?」

「グラスが弱いスティエット?それは本人がそう言って居たのですか?」


「ええ、兄オブシダンにはそうやって言っていたわね」

「それ、おかしいですよ。グラスはとても弱いなんてことは無いです。あの子は私が真式として高いポテンシャルがあるとすれば、オブシダンは真式の術に依存しないスカロ様やパテラ様のような剣技を用いた安定した実力。そしてグラスには私も遠く及ばない爆発力がありました」


コーラルの疑問にアクィは嬉しそうに「あら、キチンとわかっているじゃない。あの子に足りないのは剣術ね。あの子の弱いは私を振るう時、真式として剣術は吸収出来ても今日から最強なんて通用しないわ。でも術は違う。あの子の放った氷結結界は海を凍らせて海賊どもを逃さずそして恐ろしい術を生み出して皆殺しにしたわ」と説明をする。


「アクィさん、それも聞かせてもらえますか?」

「ええ、構わないわよ。でも遅くなってきたわね。明日続きを話すわ」


そう言った時、アクィは「あ…、ちょうどいいわ。コーラル、あなたナー・マステを目指しなさい。気になることがあるのよ」と続けた。


「気になることですか?」

「ええ、グラスは私に読心術をしなかったからあの日も気になったのだけどグラスには伝えられなかったのよ」

コーラルはこの言葉に「わかりました」と言い今日は休む事にした。


「そうだ。コーラル、宿代が勿体無いからこれからは一部屋にしなさい」

「アクィさん!?」


慌てるコーラルにアクィが「何かあるの?」と聞くとコーラルは困り顔でヴァンを見て「え…、でも」と言う、コーラルの表情で察したアクィは「イブの姿の時は同じ部屋だったのでしょう?」と聞き、バツが悪そうにコーラルは「それは…そうですけど」と答える。


アクィはコーラルではらちが明かないので「ヴァン、コーラルをよろしく頼むわね」と言うとヴァンは照れる事もなく「え?ああ、了解です。イブの時も寝相悪かったから風邪ひかないように布団かけたりしますよ」と言う。

このやり取りにコーラルは「私は寝相はいいほうです!」と真っ赤になって怒っていた。

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