第156話 ホーム6


バキッッッッ!!


完全に体重の乗ったキレのある回し蹴り。

それをギリギリのところで両腕を上げガードする。


ガードは間に合ったものの、とんでもない威力の蹴りに両腕が痺れる。

もう何発か食らったら防御した部分の骨が折れてしまうだろう。


「一鬼! 何してんだ!」

御法川が慌てて駆け寄ろうとするが、それを一鬼さんが片手をあげて制した。


「大丈夫、ただの腕試しだ。お前らともやったろ?」

答えながらも目線は僕から逸らさず、どこか楽しそうな声だ。


「谷々はそういうタイプじゃねぇんだよ! お前が試したら死んじまう!」

御法川は必死で叫んでいるが聞く耳を持っていない様子だ。


「実里がわざわざ紹介しにきたってことは、お前もアレ使えんだろ? 遠慮はいらねぇから全力で来いよ。じゃねぇと……」

体勢を整えた一鬼さんの体が深く沈む。

その様子はまるではじける前のバネだ。


「ほんとに死んじまうぞ?」


5mはあった距離が一瞬で詰められる。

恐ろしいほどの身体能力だ。

どうやらやるしか無いようだし、出し惜しみしていたら瞬殺されてしまう。


一激いちげき


瞬間的に思考が加速し、捉えきれなかった一鬼さんの動きがかろうじて目で追える。


パパパパンッ!

至近距離で繰り出される拳の連撃を手のひらでいなす。

蹴りほどではないが、この拳一発一発にもとんでもない威力が乗っている。


まともに喰らえば数発でダウンするだろう。


「結構やるな」

こんな威力なのにまだ本気ではないのか、一鬼さんは拳を繰り出しながら余裕の表情で話しかけてくる。

御法川から事前に聞いていたものの、とんでもない強さだ。


これで異世界帰りというわけでもなく、ただの一般人だというのだから恐れ入る。


「おらっ」


拳の動きに集中していたところへ、キレのある前蹴りが飛んでくる。

とても鍛えているように見えない細さの足だが、丸太が飛んできたかと思った。


手のひらで受けたものの威力を殺しきれない。

とっさの判断で自ら後方に飛び、ダメージを逃がす。


しかし、飛んだ先にはそびえ立つ棚があるため追い詰められた形になる。



「そんなもんじゃねぇだろ? もっとお前の底を見せてくれよ」

一鬼さんは蹴り出した足をゆっくりと下ろし、挑発的な表情を取る。



……あまり大っぴらにやるのはどうかと思っていたけど、この場で事故に見せかけつつ殺るのはありだろうか?


幸い仕掛けてきたのは向こうだし、今なら僕の顔もたいして割れていないはずだ。

どさくさに紛れて外に出てしまえばいけるかな。


ヒリつく手のひらをぷらぷらと振り、なんとなくプランを練ってみる。

元々行き当たりばったりな僕だけれど、この案は悪くないかもしれない。


ぼーっと一鬼さんの顔を見ながらそんなことを考えていると


「……殺気漏れてんぞ」


と小さな声が響く。


それが一鬼さんの声だと気づいたのは、一足飛びで飛んできた彼が右のアッパーを繰り出したのと同時だった。


「寝とけ」


エゴを発動していても絶対に避けることのできない間合い。

カミソリのような軌道で鋭角に繰り出された拳が迫る。


体ごと避ける努力をしてみるか、顔を反らして少しでもダメージを逃すか。

刹那の思考が脳髄を駆け巡る。


避けられないなら迎え撃とう。


迫る拳に対し、加速させた頭突きで真正面から応える!!

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