第136話 補給4



「へぁっ!? なんだ!?」


音に反応した後藤さんが大声でおたおたと周りを見回す。

破裂音はなおも断続的に鳴り続け、あたりには火薬の臭いと白い煙が立ち込めていく。


「爆竹!? ちっ、NOの連中だ!」

破裂音の元を確認した長嶋さんが悪態をつく。

その口ぶりは爆竹の犯人に心当たりがあるようだ。


「最近おとなしくしてると思ったら随分派手にやってくれるじゃないっ! どうするの!?」

藤島さんが立ち込める煙に顔をしかめつつ、長嶋さんへ指示を仰ぐ。



「どうもこうもねぇ! すぐに奴らが大挙してやってくる! Bパターンだ!」


「ひっ、ひいいいぃい!!」


長嶋さんの号令を聞いた瞬間、後藤さんは背負っていたリュックをその場に放り投げ一目散に避難所の方へ駆け出していく。


「谷々君! 私たちもいくよ!」

隣にいた池田さんもいつのまにかリュックを降ろし、駆け出す態勢になっていた。


「Bパターンというのは『散開して各自帰還』という意味なんだ! バラけて大群を少しでも散らすんだよ!」

見れば長嶋さん、藤島さんもその場にリュックを下ろし、後藤さんが駆けていった方向とはバラバラに走り出していた。


爆竹の音に反応した近場のゾンビ達が群れをなしてそれに追いすがっていく。


「囲まれる前に行こう! 建物の中は追い詰められてしまうからなるべく大通りをいくんだよ!」

すでに緊張から汗びっしょりとなっている池田さんがそれだけ言い残し、自らも3人とは別方向に向かって駆け出していく。


命の危険が迫っているというのに、新人のために色々説明してから逃げるなんてなかなかのお人好しだ。

池田さんが駆けだしたのを確認し、まずは背負っていたリュックを収納にしまいこむ。


それから踵を返し、池田さんの忠告を無視して『ドンキ・ホーテ』の中へ駆け込んでいった。


「アネッロッ!」

走りながら収納を起動させ、中から聖水を塗布したメスを数本とフリスクの容器を取り出す。


「ゔぅあああぁあ!!」


エスカレーターを駆け降りてきたゾンビの脳天をメスで貫き、屍を踏み越えて上階へ向かう。

途中、念のためフリスク容器から錠剤を一つ取り出して噛み砕いた。



2階という線もなくはないけど……やっぱり本命は4階以上の上層階かな……。


上へ続くエスカレーターを一段飛ばしで昇っていく。

途中爆竹の音に釣られた数体のゾンビと会敵したが、用意したメスで的確に脳天を貫いて殺す。

ある程度来る方向が分かっていて、これくらいの数ならなんとかなりそうだ。


余力を残しながら4階へ到達し、フロアの最奥にある窓ガラスへ駆けよる。

この階にはほぼゾンビが残っていないようだが、やはり店独特の陳列が邪魔で全体は見通せない。


「っっ!」


ふと窓ガラスから下の様子を見ると、散らばっていった4人が通りを駆け抜けていくのが見えた。

最初に動き出した後藤さん、足の速い長嶋さん、藤島さんはゾンビに追われながらも的確に逃走している。

しかし、出遅れた池田さんは徐々にゾンビに囲まれつつあるようで、このままではいずれ追いつかれてしまいそうだ。


「《一激いちげき》!」


アビリタを発動させ、近くにあったダンベルを窓ガラスへ叩きつける。


ガシャン!


ガラスは大きな音を立てて割れ、地上に大量のガラス片を降り注がせた。

同じようにダンベルを投げつけて更に窓を割り、陳列されている商品を手当たり次第に窓から外へ投げ捨てる。


どこまで陽動できるかわからないが、多少はゾンビの注意をこちらに引けただろう。


4階フロアを一通り見た後、エスカレーターへ戻り上階へと向かう。

アビリタのおかげで先ほどよりスピードが上がっているものの、流石に疲労感は否めない。


5階に到着し、目の前の男子トイレから飛び出してきたゾンビをメスで刺し殺す。

そしておもちゃが立ち並ぶ棚を横目に窓ガラスへ向かった。


この階はテナントショップが入っているらしく、窓ガラスに面した最奥はコスプレやドレスを扱っているようだ。

そんなパステルカラーが並んでいる店舗の中に1つ、ガラス越しに地上の様子を見守っている影がある。


「お邪魔しまーすっ」


店舗のすりガラスドアを蹴破り、吹っ飛んでいく扉と同じスピードで人影へ突撃した。


破壊的な音に慌てた人影が振り返る。

その喉元へ右手に構えたメスを押し当てた。


「動けば喉をかき切ります。武器を捨ててください」

人影は若い男性だった、っというか同い年くらいの人だ。


男性は喉にあてられたメスの冷たさに驚いたようだが、すぐに不敵な笑みを浮かべながら答える。


「ぶ、武器を捨てるのはお前のほうだ……」


かちゃ


最近よく聞く種類の金属音が後ろから聞こえてきた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る