第20話 学校にて2
沢田石礫は死んでいた。
外傷がなかったため心因性のショック死や心臓発作、持病の悪化といった憶測がなされたが、専門家でない生徒や教師ではそれが限界だった。
沢田石の死体は一旦保健室へと運ばれ、救急と警察の両方へ通報が入り授業は全て中止となった。
学年の教師は全員職員室にて会議、生徒はそれぞれの教室で自習と指示され現在に至る。
恐らく警察の到着とともに生徒は家に帰されるのだろう。
自習と言っても学習に勤しむものなどおらず、あるグループは興奮した顔で沢田石の死について自らの考えを語り、あるグループはショックで泣いている女子を慰めていた。
それぞれが思い思いの話題で話しているため、教室の中はかなり雑多な雰囲気となっている。
そんな中、異世界からの帰還組は一番の提案で教室の隅に集まることになった。
王都で別れてからのことなど話したいことはたくさんあったのだが、まずは沢田石の死についてが議題だ。
「……まず確認なんだけど、皆はあの世界に行った日以降沢田石に会った?」
一番の問いかけに全員がお互いの顔を見合わせ、沈黙する。
「俺らは向こうでもほとんど一緒に行動してたんだ。なんか情報があるとしたら谷々、おめぇだろ」
御法川が片眉を釣り上げて聞いてきた。
「僕も会ってないよ。噂とかも聞かなかったから、正直沢田石について知っていることはみんなと変わらないと思う」
「……谷々も知らないか、となると実際調べようがないな。僕たちも向こうで沢田石の姿はおろか噂すら聞かなかったからね。あの日沢田石が消えて以降、消息も行動もまったくの不明なわけだ」
「そもそもさ、沢田石は自分から消えたの?それともあの変なやつの仕業で消えたの?」
四方田さんが『変なやつ』というところを強調して話す。
「変なやつってさっき帰還する時に会ったあの人のことだよね? それも考えられなくはないけど、あのタイミングで召喚したばかりの沢田石を消す必要ってあるのかな?」
一番は自らの考えを整理しつつ問いかける。
「それもそうね。うーん……」
四方田さんは人差し指を額にあて、眉間に皺を寄せた。
「っつかさ、谷々。お前どこ行ってたんだよ? 結局お前も別れてから一度も会わなかったじゃねぇか。そんなに修練とかいう奴が大変だったのか?」
答えの出ない問いにいき詰まり、そもそも沢田石の死についてあまり考えていなかった御法川が水を向けてきた。
「いや、御法川達がどう聞いていたかはわからないけど、僕は修練なんかしていないよ。あの日みんなと別れてすぐ、城を追い出されて下町暮らしさ」
全員が「え?」という顔をする。
やっぱり本当のことは知らされていなかったらしい。
「なんだそれは? 僕たちはあの日谷々とわかれた後ティアラに『谷々は足手纏いになることを嫌い、戦いについていけるよう充分な力を手に入れるため自ら特別な修練に出ることを決めた』と聞いてたよ。最後に一度話がしたいとティアラに伝えても、『会えば一番が引き止めるから』と強引に出発してしまったとも聞いた」
一番は僕の話が信じられないとばかりに当時のことを話す。
「随分と話が盛られてるみたいだね。そんなストイックな心は微塵も持ち合わせてないよ」
「なんてこと…それじゃ谷々君はあの世界を一人で生きてきたってこと?」
四方田さんが悲痛な表情で僕を見つめる。
「完全に一人ってわけじゃないけどね。向こうで何人か知り合いができたから、その人達に助けてもらいながらだよ」
「はっ、あのお姫様にまんまと騙されたわけだ。まぁアビリタも弱え、魔法も使えねぇじゃ実際ついてきても役にはたたなかったろうけどな」
「ちょっと実里!」
四方田さんがキッと御法川を睨みつける。
対する御法川はどこ吹く風といった具合だ。
別に今となっては気にしていないから、喧嘩するのはやめてほしい。
するとそんな二人の空気を割って一番が僕に頭を下げる。
「谷々、すまなかった。突然のこととは言え、もっとティアラのことを疑ってかかるべきだった。あんな残酷な世界を1人で生きるなんて並の苦労じゃなかったろう。気づかなくて本当にすまない」
律儀な奴だ。
この一番という奴は誰に対しても優しく、そして責任感が人一倍強い。
物語の主人公というのはきっとこういう奴なのだろう。
「気にしないで、別に皆のことを恨んじゃいない。それに、出会った人たちがホントに良い人たちでね。そういう意味じゃ運には恵まれたよ。異世界の暮らしを満喫できるくらいには気楽にやれていたし」
「谷々……ありがとう」
一番がホッとしたような顔で答える。
「……あのさ」
そんなホッコリした空気に水を刺すような声が嵯峨さんから発せられた。
「熱い友情は結構なんだけど、話が逸れてきたみたいだから一つ気になってることを聞いて欲しいの」
「どうしたの結花?」
嵯峨さんの表情が暗いことに気付き、四方田さんが心配そうにみつめる。
「みんなあっちでは自分のエゴが強力で、魔法まで使えちゃったからそういう想像をしなかっただろうけどさ」
真剣な口調で話す嵯峨さんに、皆の視線が引き込まれる。
「あっちで死んじゃったら、こっちではどうなるの?」
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