第5話 異世界にて2
「これより開始されます。転移者は目標の達成を目指してください」
感情のない機械のような声。
それはまるで空から降ってくるかのようだった。
周りを見ると、全員が空を見上げている。
どうやら僕にだけ聞こえたわけではないらしい。
「なんだ? いまの……?」
御法川がつぶやく。
「人の声……だよね?」
四方田さんが周りを見渡しながら問いかける。
「開始……転移者……目標……」
沢田石が
「……これはいよいよゲームじみてきたね。みんな、自分の右手人差し指を見てみて」
一番の言葉に全員が自分の指を見ると、そこには銀色のリングに紅い小さな宝石があしらわれた指輪がはまっていた。
もちろんこんなものをしていた覚えはない。
そして恐ろしいことに外そうとしても外れない。
「ひっ……!」
と小さなうめき声、そして直後に
「もう嫌……いやぁああぁ気持ち悪いよぉおおぉ、四方ぉおぉお」
四方田さんにしがみついていた嵯峨さんが、指にはまった指輪をみて嗚咽し始めた。
目には大粒の涙が溢れ、小刻みに体を震わせて四方田さんの顔を見つめる。
「だ、大丈夫だよ……
四方田さんが自分でもなにが大丈夫かわかっていない顔で嵯峨さんを慰める。
泣き出したいのは自分も同じだろうに、嵯峨さんの手前気丈に振る舞っているのだろう。
「またかよ……るっせぇーなぁ」
御法川のイラついたつぶやきが聞こえる。
それを聞いた途端、嵯峨さんの泣き声は過呼吸のようなひきつりに変わり、その場にしゃがみこんでしまった。
「ちょっと実里! ……結花、ゆっくり深呼吸して、落ち着こう。大丈夫……そばにいるからね」
四方田さんはそんな嵯峨さんの肩を抱いてゆっくり語りかける。
それに呼応するように「ひっ、ひはっ、ひっ」とどこかわざとらしい嵯峨さんの過呼吸が徐々に収まっていく。
それを確認した一番が
「……とりあえず場所を移そう。こんな草原のど真ん中でいつまでも話し込んでいるわけにもいかないしね。近くに家や街、せめて落ち着いて話せるような場所があると良いんだけど」
と場の空気を変えるように話し始める。
「……そうね」
嵯峨さんの背中をさする四方田さんが不安そうな顔で応えた。
「ってもこんなだだっぴろいところで落ち着くったってなぁ。……おい沢田石、なんかこういう時に使える知識とかねぇのかよ?」
御法川が視線を向ける。
だが、さっきまでそこにあった沢田石の姿が見当たらない。
「あれ? あいつどこいった?」
御法川の言葉に全員があたりを見渡す。
しかし、遮るものの無い草原の真っ只中で、沢田石の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
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