たくさん読ませてもらってありがとうございます

水奈川葵

第一本 ウィルキー・コリンズ作「白衣の女」

 なんだってこんな誰も見ないようなエッセイを書くのかってことは、置いておきましょう、ひとまず。

 単なる備忘録です。年とると、段々忘れていくからね。

 今まだ、読んだあの時の感動がかすかに残っているので、書いておこうっていう話。というか、私の小説にしろ、こういう書くという作業自体が、将来の自分への手紙(いい言い方をすれば)、あるいはマスターベイションに近いのだろうな。


 ま、思わずこんなエッセイを読んでしまったかもしれない読者様への前置きはこれぐらいにして。


 今回私が紹介(なんか大げさ)するのは、ウィルキー・コリンズ著『白衣びゃくえの女』です。どうしてこの本をまず紹介するのかというと、私が別に書いている『昏の皇子』という小説の中(第七十八話「オリヴェルの描きたいもの」)で、マリ=エナ・ハルカムという女性画家の話が出てくるからです。

 この人が実は『白衣の女』のマリアン・ハルカム嬢から取ったんですよー…っていうのを近況ノートでくっちゃべろうと思ったら、思ってた以上の重量感になってしまい、こうなりゃエッセイにしちゃえという話。


 さて、この『白衣の女』。古いです。イギリスのヴィクトリア朝時代の作品です。年代でいうなら1860年に出版。

「え? 1860年? なにその時代。今、令和なんですけど? 2000年を22年も過ぎてるんですけど?」

 ですよねー。ざっと計算して162年前の作品ですよ。言っておきますが、作者がこの時代にリアルで読んでた訳じゃないです。当たり前ですが。

 まぁ、学生時代に読んでいた…という曖昧な言い方にしておきましょう。


 あらすじとしてはねぇ…はいwikiさんの出番です。


「青年画家ウォルター・ハートライトがリメリジ家の家庭教師をすることになった。就職前夜、彼は荒野を行く途中、白衣の女に呼び止められた。額の蒼い美女は、ロンドン街道まで案内して欲しいと頼んだ。彼女は彼の就職先に詳しいし、ハンプシャーの准男爵を恐れていた。彼女の立ち去り際に、彼女が精神病院脱走者であることを知って彼は驚愕した。これが作品の出だしである。」


 うーん…。まぁ、そうやけど。そうなんやけど。

 推理小説でもあり、恋愛小説でもある…という、なかなか凝った物語が展開されます。正直なところ、どっちの要素も私にはどうでもよい。

 恋愛の部分はwikiさんの説明にある通りの青年画家のウォルターと、美女ローラの話で、これはまぁいいんですよ。色々ともどかしいけど、いいんです。推理の部分はいわゆるトリック的なことじゃなくて、なんというか…保険金殺人と似た感じ? あれ、間違ってるか? まぁいいや。私のこの作品における主眼はそこじゃない。


 私にとってこの作品の一番の魅力はマリアン・ハルカム嬢です。


 私は昔から強くて知性的な女性が大好物ですが(例えば風の谷のナウシカならクシャナ、もののけ姫ならエボシ御前)、彼女もまたその類型の人でありつつ、あそこまでシャープじゃなく、もうちょっとチャーミング。

 早々に主人公から「不美人」という評価を受けるんですが、彼女自身がそれを認める口ぶりがとても軽妙です。


「私は色黒で不器量なのに、フェアリー嬢は色白で器量よし。みんな私のことを、気むずかし屋の変わり者と思っています。(中略)つまり、妹は天使、私は、さぁ何かしら? どうぞ、そのマーマレードを召し上がって、ハートライトさん。そして、私の口から言いにくかったことを、あなたから言ってしまって下さいな」


 このマリアンの台詞はこの物語の本当に最後になって、ハートライト自身の言葉によって「あぁ…ここに繋がるのね~」という意味合いを持つんですが、まぁそれは置いといて。

 彼女の行動力であったり、知性であったり、情熱的でありながら、必死で冷静でいるよう努めたりするところは、ものすごく魅力的なのです。本来のヒロインよりも。それは悪役のオッサンすらも魅了するほどに。

 このオッサンが独身のイケメンやったら、私的にはもっと盛り上がったんですけど、そりゃ無理な話だわよね。オッサンの老獪さがまた物語の肝でもあるので。

 それこそ昨今流行の、読んでた本の中に入っちゃった転生があるなら、私は彼女を口説けるイギリス紳士なりたいくらいです。

 正直、作者のコリンズもどっちかいうたら、正当ヒロインのローラよりかはマリアンをシン・ヒロイン(これは庵野さんのパクリですね)だと思って書いてるんじゃないか…と思える。


 全体的に暗くなりがちなこの作品の中にあって、彼女の存在感はとても際立っていて、生き生きとしています。彼女の鮮やかな魅力こそ、私がこの古い(読んだ当時においてもね)小説を、最後まで読む原動力となったものです。

 

 しかし…今、これを書くにあたって久しぶりに本棚から引っ張り出してきて衝撃でした。この白衣の女、岩波文庫から中島賢二訳で上中下の三巻セットなんですが、上巻が無ぇ! たぶん、おそらくですが…昔は金がなかったんで、上巻だけ図書館で見つけて読んだんでしょうね。それで中下巻を借りようと図書館行ったらなくて、辛抱たまらんようなって、中下巻を買ったと…よくあるんだよね、このケース。

 アマゾン見たけど、なぜか上巻だけがものすごい高値(中古で…可状態のスペックやのに)。あぁ…迷うなぁ。でもこの文字の細かさをまた読めるのかというと…………


 ちなみに同作者の『月長石』という作品もあるのですが、こっちはほぼ覚えてないです。マリアンほどの魅力的なキャラクターがいなかったからでしょうか。一応、本棚にはあります。ものすごい分厚い文庫本が。これ文庫本の意味があんのか? というくらいの厚みです。こんなモン持って、よく電車乗って通学してたもんだ…。


 ということで、今回はマリアン・ハルカム嬢のことを書きたいから、こんなん書いてしまいました。また、他のキャラクターのことを思い出して書きたくなったら、書くと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る