第215話 運命の日
みんなの所へ俺とあきらが帰ると、姫希以外は既に箸をおいていた。
唯一、姫希だけは締めのつもりなのかご飯モノを食べている。
こんなところでも変わらないのがうちの食いしん坊だ。
と、そんな俺達の顔を見て何かを察したのか、彩華さんが退席した。
聞かれるのは若干恥ずかしかったし、こういうのは当事者だけでいいだろう。
朝野先輩もトイレに行くと言って席を立った。
気まずいだけだろうからな。
というわけで、座りなおして口を開く。
「約束通り、好きな人に告白しようと思う」
俺の言葉にみんな各々反応を示した。
箸をおく姫希、優しい笑みを向けてくる凛子先輩、瞬きの回数が増える唯葉先輩、膝の上に手を置いて黙るすず、そしてジュースを一口含むあきら。
「と言っても、今ここで告白しようって話じゃない」
「一応聞いておくけど、僕らの中にいるんだよね? 好きな子」
「はい」
隠す必要もなくなったのではっきり返事すると、一気に雰囲気が重くなった。
当然だな。
まぁただ、誰も俺が誰に対して好意を寄せているのかという点については心当たりが無さそうだ。
何故誰を好きかもわからないのに俺が恋した事を察したのかは知らないが、テキトーに女の勘とでも言っておこう。
「どうやって告白するんですか?」
「え?」
唯葉先輩に聞かれて俺は戸惑う。
どういう質問なのか、理解できなかった。
しかし、彼女は大真面目な顔で言う。
「少なくとも二人はあなたに好意を寄せて告白をしています。ちゃんとフッてあげるべきではありませんか?」
「それはそうですけど……」
しかしながら、付き合う気がないのに呼び出してフるのも違う気がする。
そもそも俺に告白したのは二人だけじゃない。
未来はさて置くとしても、凛子先輩の事があるから、どうしてもフェアじゃなくなる。
そして、恐らくそれが分かった上で唯葉先輩は今の発言をした。
何が言いたいのか目線で問うと、唯葉先輩は笑いながら言った。
「いっそ、全員と話せばいいんじゃないですか? 五人全員同じ日に時間をずらして会うんです。その中の一人に告白して、残りはフッちゃいましょう」
公平な案ではあると思う。
だけど、おかしいだろ絶対。
俺は唯葉先輩の顔を見ながら苦笑した。
「好きでもない奴からフラれる可能性があるってことですけど。意味が分からないでしょ」
「それはそれで面白いからアリです」
「えぇ」
よくわからない事を言いだす人だ。
だけど、唯葉先輩が言うならと思わなくもない。
この中で俺に性的興味がないのは唯葉先輩と姫希だけだし、この二人が良いなら俺としても問題はない。
「……すぅ、はぁ」
「どうしたすず」
「いや、緊張し過ぎて呼吸忘れてた。死にそう」
「大丈夫かよ……」
深呼吸を始めたすずは顔色が悪い。
こいつにとっては自分が告白されるのかフラれるのかが分からなくてドキドキしてるだろうし、当たり前か。
逆の立場なら心臓が持つとは思えない。
「じゃあ、いつにします? 運命の告白の日」
「……日曜日とか?」
「あはは、休日ですからね。ではそうしましょう。日曜日に思い出の体育館で」
とんとん拍子に日付と場所まで決まった。
唯葉先輩以外何も言わない。
いや、多分言えないんだと思う。
すずは呼吸がおかしいし、あきらはずっと空になったコップに口をつけている。
凛子先輩だって、遠くを見つめるだけだ。
姫希に関しては居心地悪そうにそわそわしている。
こいつも俺に気がないだろうし、気まずいんだろうな。
とかなんとか話していると、彩華さんと朝野先輩が戻ってきた。
「帰ろっか」
「そうですね」
ようやく口を開いた凛子先輩によって、俺達は店を出た。
外は、さっきよりも冷たくなっている気がした。
◇
【あとがき】
いよいよ次回からヒロインレースに決着がつきます。
読んでくださる方の中にはお気に入りの子が選ばれなくて残念に思う方もいるかもしれません。
ですが、皆様に最後まで読んでもらいたいです。
よかったら最終話の最後まで、お付き合いいただければ幸いです。
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