第158話 わかってくれるはず
すずを探そう。
そうは言いつつ、俺はそもそもあいつがどこに行ったのかも知らない。
見つけるのは至難の業である。
恐らく姫希と俺の関係を勘違いしてショックを受けただけだろうが、普通に説明して理解してもらえるだろうか。
実際俺達の間におかしな関係はないし、信じてもらえなければ困る。
なんて思っていた時だった。
「……探す必要はないみたいね」
「すず」
「……」
すずが廊下端の女子トイレからひょっこり顔を出していた。
俺の呼びかけに気まずそうに歩いてくる。
「何よ、聞いてたの?」
「……ん」
「あの女に言った通り、あたしは柊喜クンの事好きじゃないわ。いや、好きと言えば好きだけど、あくまでコーチとして、人として。それとそうね……友達として」
付け加えて言った姫希は、照れくさそうに顔を赤く染めていた。
姫希のこういう言葉は貴重だ。
友達だなんて言ってもらえてうれしい限りである。
それを聞いたすずは口を開いた。
「ほんとはわかってた。でも、すずが聞かされてない話があったからつい……」
「あれはその」
姫希が確認するように俺を見るので頷いて見せる。
と、そこでようやく例の件の話をした。
あきらが俺に告白したのは今更の事なので、話してしまえばなんということもない。
「……そういうこと」
すずはすぐに納得してくれた。
そして同時に、自分の勘違いが恥ずかしくなったのか、もじもじし始めた。
「さっきはごめんなさい、キツい事言って」
「大丈夫」
「ちょ、ちょっとッ!」
「ん。すずもごめん」
謝った姫希を抱きしめるすず。
急なハグに狼狽えるような声を出しながら、姫希は俺に助けを求めた。
勿論手助けなんてしない。
十分にハグしてもらえ。
しばらく姫希と抱き合っていたすずは、離れてから俺を向いた。
「勘違いしてごめん」
「すずが悪いわけじゃない」
「そうよ、全部あいつが悪いの。あの女、どうしてやろうかしら」
「下手に関わるのはやめておけ」
「それはそうだけれど、だからってこんな嫌がらせされて黙っていられないわ」
「あぁ」
今回の件は偶然ではないだろう。
未来の表情や態度、言動は明らかに悪意を含んでいた。
これはれっきとした嫌がらせだ。
「すず、あの人嫌い」
「あたしもよ」
大した絡みの無かったすずにも嫌われるとは、最早流石の域である。
あの体育館での一件で懲りなかったのだろうか。
どんなメンタルで生きているのか甚だ疑問だ。
「また嫌がらせしてくるのかしら」
「可能性はあるな。なんか捨て台詞吐いてたし」
「みんなにも言わなきゃ」
「待て」
今にも勉強会に行って、部員全員に報告しようとするすずの腕を俺は掴む。
「いた」
「あ、ごめん。大丈夫か?」
「平気。しゅうきならいくらでも触っていいよ」
「……触らない」
「むぅ」
「あんたはこんな時くらい変な絡みやめなさいよ!」
「だって、安心したから」
すずにしてみれば、俺と姫希が付き合っているかもしれないと、ずっと不安に思っていたのだろう。
嬉しいような、苦しいような、複雑な気分である。
姫希は真っ直ぐなすずに言葉を失っていた。
「……っていうかすずはもうちょっと好きを抑えなさい。鬱陶しいわ」
「好きなモノは好きだから仕方ない」
「だから、そういうのを――」
「こほん」
勝手に二人の世界に入って喧嘩をし始めたので咳払いをして止めた。
まだ俺の話は終わっていない。
「他の部員には今日の話をするな。特にあきらと唯葉ちゃん」
「なんで」
「ただでさえテストで頭がパンクしそうになっているのに、これ以上面倒ごとを持ち込みたくない。テストに集中してもらいたいから」
「確かにそうね」
唯葉先輩もあきらも、きっと心配してくれるだろう。
そして未来の動向に気を取られてしまうだろう。
ありがたい話ではあるが、それで期末テストを落とされると元も子もない。
だから話さない方が良い。
「いずれ言う。わかってくれるはずだ」
「わかった。すず内緒にしてる」
「ありがとう。迷惑かけるな」
大きく頷くすずの顔は、正直何を考えているのかわからない。
心配だ。
「お前、期末テストの方は大丈夫なんだよな?」
「ん。数学は赤点回避できそう」
「他の教科は?」
「……姫希、後で夜ご飯にパンケーキ食べに行こう」
「誰が夕食にあんな甘いモノ食べるのよ。あと話逸らすな。勉強しなさい」
本当に心配だ。
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