第155話 事実確認

「すず、遅いな」

「英語のクラスで職員室に呼び出されてたからね~」

「またかよ」


 放課後に一人だけ集まっていなかったため言うと、あきらが苦笑しながら答えてくれた。

 相変わらず生活態度が悪い奴だ。


「今日は居眠りと課題未提出だね。授業中も怒られてた」

「最悪じゃねーか。まだ成績取ってる凛子先輩の方が可愛く見える」

「あれ? 今僕の事褒めた? 照れるな~」

「褒めてないっす」


 テキトーにいなすと拗ねるようにシャーペンを弄り始める凛子先輩。

 ちょっと可愛い。


 それはさて置き、すずは本当に心配だな。

 補習云々の前に、留年とか大丈夫なんだろうか。

 そんな事で進級できなかったら、流石に洒落にならないぞ。


「テストまで残り五日か。数学は姫希のおかげでだいぶ解けるようになったんだよね」

「教え方が良いのかしら」

「うん。怖いから自習で補うようになった」

「……」

「流石姫希。教え方が天才だな」

「ウザい」


 褒めると睨みつけられた。

 余程嬉しかったんだろう。


 実際、俺もあきらも数学の理解度はかなり良いところまで行っているように思える。

 俺は教科書の最難関応用問題もサポート無しで解けたし、テストも期待だ。

 この調子なら赤点と言わず、過去最高点を叩き出すことも可能だろう。

 他の教科も凛子先輩や唯葉先輩のおかげでだいぶ勉強ができた。

 やはり頼るべきは先輩だ。

 初めて部活に入ってよかったと思った瞬間かもしれない。


 しかし、順調なのは比較的問題の優しい一年生組だけである。


「なんですかこの問題! 解答の意味すら分かりません!」

「あ、ごめん。僕もわかんない」

「凛子ですらお手上げ!? 薇々は!?」

「そこの範囲はもう捨てたよ」

「判断が早いです!」


 先輩達の方は大変そうだ。

 学年一位の凛子先輩すら苦戦しているようで、最近はてんやわんやしている。

 特に誰よりも今回のテストに魂をささげている唯葉先輩は大焦り。

 勉強すればするほど余裕が出てくる俺達に比べて、真逆の日々を送っていた。

 日に日に顔色が悪くなっているように見える。


「大丈夫。唯葉ならできる。僕信じてるから」

「凛子、諦めたらそこで試合終了ですよ」

「だってこの問題に躓いて、他の問題の勉強すらできなかったら点数下がるよ? できるとこからやっていこう。どうせまだ他にもわかんない問題あるんだし、満点目指すのは最後」

「バスケ部っぽい名言で決めようとしたら、普通に正論でボコボコにされましたね。ちょっと心折れたのでお茶買ってきます」


 とぼとぼと教室から歩いて行く唯葉先輩の背中は、『Loser』の文字がお似合いだった。

 こんなところで敗北オーラをまき散らさないで欲しい。

 縁起でもない。


 と、姫希も立ち上がった。


「なんかすずに呼ばれたわ。あいつ、何してるのかしら」

「早く来いって伝えといてくれ」

「わかったわ」


 その後、俺達は残ったメンバーでもくもくと勉強を勧める。



 ◇



 すずはショックを受けていた。

 未来に聞かされた自分の知らなかった出来事。

 姫希と柊喜が裏で二人きりで会っていたと聞いて、困惑と同時に不安に襲われていた。


 柊喜と姫希が付き合っているなんて、そんな事実はあり得ない。


 現に部内で一番柊喜と仲が悪いのは姫希であり、あきらならまだしも、姫希と良い感じと言われても、正直実感がわかなかった。

 だけどすずは考える。

 何故、自分はそのことを知らされていないのか、と。


 すずはお泊りの時でさえ、部内のグループチャットで連絡をした。

 合宿の時の事もあるため、柊喜と過度に接触するのはトラブルの元になるからだ。

 それなのに、なんで。


 すずは苦しみながら、だけど早く事実を知りたかった。

 だから、現在放課後で勉強中だろう姫希を呼び出すことにした。


「何よ。急に呼び出して」


 姫希はすぐに現れた。

 髪を弄りながら、怪訝そうにすずに聞いてくる。


「……この前、しゅうきと二人で会ってたってほんと?」

「え?」

「ほんとなの?」

「……」


 すずは遠回しに聞くような性格ではない。

 直球で本題を叩きつけられ、姫希はひるんだ。

 まさかそんな要件だとは思わなかったからだ。


 二人の間に、奇妙な雰囲気が立ち込める。

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