第82話 伝説の終焉
『ぐおおー! もろともに死ねえ!! トライディザスター!! 召喚士達よ! モンスターを呼べ! もうこの世界が残らなくても構わん! 滅ぼしてしまえ! 私のモノにならん世界など不要だ!』
魔王が何かとんでもないことを言いながら、無差別に攻撃を始めた。
こりゃあいかん。
召喚士は空を埋め尽くすほど、大量のモンスターを呼び出している。
義勇騎士団が悲鳴をあげた。
「な、なんだあれは!」
「もうだめだあ」
「い、いや俺達にはフォンテインがいる!」
「助けてくれ、騎士フォンテイン!」
困った時の英雄頼み。
人間業ではどうにもならない時にこそ、英雄が欲しい。
そういうものだろう。
俺はトニーを連れてジャンプした。
「うおーっ! ドルマ、青魔道士! 大丈夫なのか!?」
「ああ。新しい技を手に入れてな。多分、こういう状況のためにあったんだろう」
俺は、周囲を埋め尽くすモンスターの大群を見回し、技の名を唱えた。
「アルテマ!」
すると、緑色の輝きが俺の周囲に生まれる。
それは一瞬停滞したかと思うと、次の瞬間には猛烈な勢いで広がった。
それこそ、空全てを埋め尽くす勢いだ。
光に触れたモンスターは、『ウグワーッ!!』と叫びながら消滅していく。
たった一撃で、全ての召喚モンスターが消えた。
地上では、義勇騎士団が即座に気勢を上げた。
フォンテインナイツとの付き合いが長いのだ。
気持ちの切り替えがとても上手い連中だぞ。
召喚士達はこの状況に衝撃を受けたまま、呆然としている。
そこを、義勇騎士団によって叩き潰された。
風車の魔王もまた、呆然としていた。
『ば……馬鹿な……。土の秘宝を手に入れ、人を超えたこの私が……。こんなところで、私の野望が潰える……! そんな、そんなことが……! 目的を果たすために、卑怯なことでもなんでもやって来たというのに……! この私が……』
「うおおおーっ!! 風車の魔王ーっ!!」
トニーの叫びが響く。
俺に抱えられながら、剣を振りかぶるトニー。
ジャンプからの着地と同時に、トニーの剣が風車の魔王に叩きつけられた!
ポキーンと折れる剣。
そうだよなー。
普通の人の攻撃が、魔王に通じるわけ無いもんなあ。
だが、同時にエリカがバフベヒーモールでぶん殴っていた。
『ウグワーッ!!』
かなり本気度の高い断末魔をあげる風車の魔王。
そして、ヤツが立つ足場が崩れ始めた。
俺達ごと谷底に落下していく。
「う、うわーっ!!」
「トニー!」
レーナが崖まで駆け寄ってきたので、俺は手を振っておいた。
ここでトニーを死んだことにしておくのが、俺の考えなのである。
英雄なんてのは、一般人が背負える名声じゃない。
トニーはフォンテインから、ただのトニーに戻るのだ。
なお、落下していく風車の魔王を、エリカとアベルとホムラと風水士がボッコボコにしている。
『ウグワッウグワッウグワーッ!!』
これは三回くらい死んだのではないか。
『ば、馬鹿な……! 七つあった私の命が全部使われてしまった! これ以上は本当に死ぬ……』
「とどめだあ!!」
ベヒーモールが無慈悲に振るわれた。
『ウグワーッ!?』
おっ、風車の魔王が粉々に砕け散ったぞ。
死んだらしい。
そして、頭上から崩れた崖が降ってくる。
まあ、大した事ではないだろう。
そう思っていたら、運悪く崖下を通過する一般人がいるではないか。
「ヒャァ」
一般人が腰を抜かした!
……この一般人、どこかで見たことがある顔をしているような……。
「まあいいか。ちょっとどいてろ」
俺は着地と同時に彼の前に立つと、「イリュージョンアタック・ゴブリンパンチ!」と落下してくる岩石や土砂を粉砕、吹き飛ばした。
「ヒャァ! す、すげえお人だ! あ、あんた様は一体……!」
「通りすがりの青魔道士だ」
「い、今のはなんですだか」
「青魔法だな」
「アオマーホウ……?」
「おうそうだ。ここは危ないからな。あっちだ。あっちに逃げろ」
「へい!」
ということで、一般人を逃がす俺なのだった。
続いて着地してきた仲間達。
エリカもトニーも、なんだかボーっとしている。
「どうしたどうした」
「いや、これで終わったんだなと思って……。フォンテイン伝説は、大騎士フォンテインが風車の魔王ごと崖から落ちて終わりだ。私は今、まさにそれをやった。つまりここでフォンテインは終わったんだ。……ということは、フォンテインは私だったのか……!!」
「お気付きになりましたか……」
正確にはトニーだけどな。
ここでトニーは騎士を引退。
田舎で農夫になるのだ。
レーナと再会し、家庭を築き上げ、やがて年月が流れてエリカが生まれる。
そんなエリカに、トニーが思い出話としてフォンテイン伝説を語って聞かせる……。
うんうん、何もかも終わった。
俺とエリカは、この時代の後で必ず出会うことになるだろう。
『うーむ……。我はライブ感に任せてこの時代に来てしまった。この時代の我と出会う可能性があり、大変危険だ』
風水士が唸っている。
一体どういう危険があるというのか。
『じゃあ俺がタイムリープで送り返すよ! タイムリープ!』
即断即決カイナギオ。
風水士の返答も聞かずに、彼を何処かに飛ばしてしまった。
まあ、タイムリープという技、該当の相手が必要とする時代に飛ぶものみたいだから、心配はいらないだろう。
その後すぐに、この時代のヤング風水士が飛んできた。
『青魔道士! 魔王を倒したんだな! お手柄だ!』
「おう、見てたか見てたか。これで何もかも終わったぞ。いや、ここから始まるのかも知れないが……」
その辺の難しいことは、他人が考えればいい。
「ふむ、これで終わりか? では元の時代に帰るぞ。俺は金を稼がねばならん。本当に時間を無駄にした」
アベルがブツブツ言っている。
「拙者もそろそろ実家に帰って、腕を上げた様を見せねばならぬでござるなあ。ドルマ殿、戻ろうでござる!」
「おう、そうするか!」
俺は、まだボーっとしているエリカの手をつなぎ、技の名を唱えた。
「タイムリープ!」
世界が揺らぐ。
風水士少年に手を振って別れを告げ、俺達は元の時代へ……。
行くはずだった。
だが、俺とエリカの二人だけが、妙なところに立っていた。
そこは、俺にとって見覚えのある洞窟。
俺の実家の村の前にあった洞窟だ。
そこへ、何人かの子供たちが駆け込んでいくところだった。
あれは……子供の頃の俺だ。
つまりこれは、俺にとっての始まりの時というわけか。
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