第76話 魔王の世界

「しかし、これは何が起きたのだろう」


 さすがのエリカも驚きすぎてか、語気がおとなしい。


「本当に風車の魔王の仕業だとしたら、この時代で私が風車の魔王を倒して大騎士になれる!! うおー! やるぞー!!」


「あ、ぜんぜんおとなしくなかった。溜めだった」


「エリカ殿は元気でござるなあ」


「何だ何だこの世界は。金を稼ぐどころではないではないか」


 おっ、アベルが俗な理由から危機感を抱いている。

 こいつが一番話が分かるかもしれない。


「おいドルマ、こいつらを黙らせろ。状況を調べないと危険だろう」


「アベルは金が絡むと常識的になっていいな」


 そういうことで、男二人が前に立ち、聞き込みなどをすることになった。

 心なしか、昨日と比べて道行く人々の元気はない。


「すみません。なんか元気がないけどどうしたんですかね」


 俺が通行人に聞いてみると、彼は俺を見てギョッとした。

 おや?

 ちょっとみすぼらしい格好をしているな。


「そんないい服を着て……。も、もしかしてあんたら、騎士団のお囲い冒険者か……? ひいい、すみませんすみません! 俺は何もやってませんから!」


「ふむ」


 俺とアベル、顔を見合わせて頷く。


「これは圧政が敷かれているのではないか」


「だろうな。何が起きたのかは分からんが、風車の魔王とやらは歴史を変えたらしい。だがどうやった……?」


「うーん。歴史に干渉するなんてのは、俺でなければやれないことだしな。だいいち、タイムリープがなければ時間を移動できないだろう」


「それだな。ドルマ。タイムリープを使える者があと一人いただろう」


「ああ、カイナギオか!」


 俺はポンと手を打った。

 もしや、過去に風車の魔王がカイナギオと接触したのではないか。


「ドルマ! どうなったんだ! 風車の魔王の手がかりはあったのか!!」


 エリカが大きい声を出した。

 すると、風車の魔王の名に、町の人々がざわっとなる。


「そ、その名を唱えてしまった……!」


「やばい、やばいぞ」


「ひい、奴らが来る!」


 何を怯えてるんだと思ったら、どうやら風車の魔王の名はタブーらしいな。

 で、彼らの怯えに呼応するように突如、何者かが出現した。


『あのお方の名を呼んだか!』 


『みだりにその名を唱えてはならん! もがーっ!』


 禍々しい甲冑に身を包んだ騎士達だ。

 何もないところから、突然現れたな。

 魔法かな?


「ツアーッ!!」


「ていっ!」


『ウグワーッ!!』


 おっと、ノータイムでホムラとエリカがぶっ倒した。

 多分、それなりに強いモンスター化してるんじゃないかと思うんだが、こっちは魔竜とやり合ったんだ。

 強い騎士程度では相手にならんぞ。


『こいつら反抗するぞ! 出会え出会え!』


 向こうからワーッと騎士達が走ってきた。

 たくさん来るぞ。


 町の人々が怯える。


「な、なんてことをしてくれたんだ!」


「あんたらのせいだぞ!」


「とうかどうやって一撃でぶっ倒したんだ!?」


「見ているがいい。こうだ!」


 俺は騎士の持ち物を手にして、ミサイルにした。

 イリュージョンアタックして、ミサイル。

 これで弾数が増えるし範囲も増えていいことばかり。


「おりゃ!」


『ウグワーッ!?』


 あちこちで爆発が起き、騎士が次々に吹っ飛んでいった。

 そこを抜けてきた騎士は、上空から飛び降りてきたアベルが串刺しにする。


 アベル、初期から戦い方も何も変わってないのにずっと通用する辺り、完璧なワンパターンという気がするな。

 そしてエリカが突っ込み、十人ぐらいをまとめてふっ飛ばした。


「さすが、魔竜に通用する突撃だな」


 俺が感心していたら、エリカのポケットからバフルートの角がポロッと落ちた。

 そう言えば、これをベヒーモールと合体させねばならないのだった。


 騎士達を蹂躙した後、俺は一つ提案をした。


「鍛冶屋でこれをくっつけてもらおう。んで、カイナギオに会いに行く。これでどうか」


「賛成!」


「賛成でござる!」


「うむ。早くこの状況を終わらせ、安心して金を稼げる世界を取り戻す」


 アベルのモチベーションが高い!!


 こうして、俺達は鍛冶屋へ。

 風車の魔王に支配されたっぽい世界だが、鍛冶屋は普通に営業してるのね。


 ベヒーモールとバフルートの角を、ミスリル銀をつなぎにしてくっつけてもらった。

 ベヒーモールの横からバフルートの角が生えているような、とんでもない形の武器になったぞ。


「こんなとんでもねえものを作ったのは初めてだぜ……」


 鍛冶屋、ちょっと興奮している。

 加工はものすごくやりやすかったらしい。


「むしろ、素材がこう加工しろって指示してくるみたいだったぜ……」


「バフルートだからな。指示してるんだろうなあ……」


「ドルマ! なんだか凄く強くなった気がするぞ! 今なら普通のベヒーモスなら正面から殴り倒せそうだ! 限界を突破した強さになった気がする」


「おっ、それは何よりだ!」


 エリカが嬉しそうなのが一番だ。


「ところで限界を突破って?」


「物理的な強さを超えた、というところだろう。感覚で分かる。例えば俺はこの槍で最初から突破している」


 アベルが意外な事を言ってきた。

 つまり、今の強くなった気がするエリカの領域に、この竜騎士は最初から至っていたということか。

 こいつ、何も言わないんだもんなー。


「あっ、拙者は手裏剣投げると突破した気分になるでござる! で、そういうドルマ殿は?」


「俺かあ。俺はなんかそう言うのわからないなあ」


 俺はこれからの男なのかもしれない。

 ともかく、武器も鍛えたことだし、これからカイナギオに会いに行こうではないか。

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