第52話 風水士の本音と作戦開始

「ちなみに風水士、お前、人間の王も殺す気でしょ」


『王の人格によるな。だが人間の側にも協力者がいてな。殺すべき相手のピックアップは終わっている。死の偽装も可能だ』


「悪いやつだなあ」


『それにゴブリン王国が戦う理由の一つは口減らしだ。貴様ら人間も似たようなものだろう。せいぜい数を減らした後、穏便に戦争を止めてやるとしようではないか』


 風水士、お世辞にも善良なやつではないな。

 エリカに本音を聞かせたら、すぐさまバトルが始まってしまいそうだ。


 これは俺の中だけに留めておこう……!

 風水士も、この本音を俺以外に暴露するつもりはないようだし。


「俺が止めるとか考えないわけ?」


『我は過去の時代で貴様を知っている。貴様は誰よりもあのバーサーカーを優先する男だ。だが、我は過去のことから、貴様に友誼を感じている。故に貴様に、本当の目的を話した』


「なるほど。確かに、俺としてはゴブリンが皆殺しになっても構わないが、それは風水士にとっては逆でもいいもんな」


『そう言う事だ。立場が変われば見方も変わるな。我が人間どもに対し、多少は友好的なやり方を取っているのは、貴様がいるからこそだ』


「過去の俺、何をしたの」


『もうじき分かる』


 風水士が笑った。

 善人ではないというか、生かしておくと人間側にとって最悪の敵になりかねない男だが、不思議と俺は嫌いではない。

 じゃあそういうことで、と俺と風水士は方向性を確認し合ったのである。


 エリカが興味を持って近づいてくる。


「何をお喋りしてるんだ? 私も混ぜてくれ!」


『話は終わったぞ、騎士よ』


「騎士!? お、おいドルマ聞いたか!? このゴブ……じゃない風水士、私のことを騎士だって! ああ~。分かる人は分かってくれるんだなあ~」


「一瞬でエリカを味方につけてしまった。凄いやつだ」


 俺は感心してしまった。


『青魔道士』


「おう」


 最後に風水士の呼びかけを聞く。


『貴様は我を止めてもいい。このままにしてもいい。それは貴様に任せよう。我は貴様の選択を尊重する』


「おう、ありがとうな!」


 善人じゃないが、いいやつだなあ。

 この後、すっごいジェノサイドをしようとしてるけど。


 俺はなかなか難しい立場に置かれた。

 ゴブリン王の暗殺だけさせて人間側の暗殺を止めると、人間が止まらない。

 そのままゴブリン王国に攻め込んできて、戦争継続。


 人間側の要人暗殺も認めると、その余波で人間側にも多数の死者が出るっぽい。

 だが、人間もゴブリンも戦争どころではなくなって、戦争は止まる。

 多分、ものすごく長い間、それどころではなくなる。


 トータルで被害が減って、救われる命が増えるのは後者かもなあ。

 どうしたもんか、どうしたもんか。


 ま、いいか。


 俺は考えるのをやめた。

 そんな事よりも、ゴブリン飯である。


 ゴブリン王国の飯はなかなか美味い。

 塩があまり取れないところらしく、味付けはハーブが多い。


 動物の血を料理にたくさん使っているから、これで塩気を補ってるんだろうなあ。

 ワイルドな味がする。


「なかなか美味しいな!」


 エリカが骨付き肉をガツガツ食べていた。


「存外、ゴブリン料理は繊細な味付けでござるなあー。美味美味」


「うむ」


 ホムラもアベルも、文句はないようだ。

 ちょっとハーブは癖があるかな?


『さて、ジャガラを殺す計画だが、正面から行けばヤツのガードを務めるゴブリンジェネラルが邪魔をしてくる。ジェネラルを殺しても、その間にジャガラは恐るべき逃げ足で姿をくらます。逃げられない状況にするのが肝要だ』


 この計画を話し合っているのが、吹きさらしな普通の食堂なんだが。


「これ、聞かれる心配ないの?」


『我の地形の技で、周囲に音を遮る風を吹かせている。気にする必要はない。暗殺には、幾つかの協力者がいる。奴らがジェネラルを留めてくれよう。だが、ジャガラを殺すのが骨だ。ヤツはすぐに逃げるが……強い』


「強いのにすぐ逃げるんだな」


『うむ。ゴブリンの中にも、戦を止めたい者たちは多い。彼らに協力してもらえば、暗殺できる状況まで持っていくことはできよう。だが、ジャガラを仕留められる者がいなかった。そこへ、貴様らがやって来てくれたということだ』


 なるほどなるほど。

 俺は腑に落ちた。

 だがエリカが難しい顔をしている。


「なあ。だけどそれでは、私は騎士として活躍ができないじゃないか。暗殺だと表に出てこないから……。この仕事はどうなのかな」


「面倒くさいことをいい始めたな」


 ズバッと言うのがアベルらしいところだな。


「金になればいいだろうが」


 いや、アベルを褒めてちょっと損した気分だ。


『そこは問題ない。ジャガラは本来、国のことなど何も考えていない愚物だ。ヤツが求めるのは、人間どもへの復讐だけ。故にヤツは、体内に化け物を飼っている。追い詰められれば自暴自棄になり、それを解き放つだろう。これが手がつけられない』


「それだ! じゃあ、私たちはそれを倒せばいいんだな!」


『ああ。そういうことだ』


 風水士、エリカの操縦の仕方を知っている!


『だが気をつけろ。町中で解放すれば、その化け物はゴブリン王国を蹂躙し尽くすだろう。魔獣ベヒーモス……。魔神アンリマユと並ぶ、世界を滅ぼす災いの一つだ……!』


「その言い方はエリカのテンションを上げるだけだと思うな」


 俺はぼそっと呟くのだった。

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