第23話 ラーニング! エルフの里へ向かって

「私の名は、ローズバレルの旅人、キネンシスの子、ビヨーネ。仲間たちとは一時的に別れたわ。あなたたちを私の里に案内したい」


 エルフの人は、武器屋の外で俺たちに自己紹介した。


「エリカだ! エリカ・フォンテイン! 将来はお祖父様と並ぶ大騎士になるんだ!」


「へえ、あの騎士フォンテインに孫がいたなんて初耳ね! 私が若い頃に、里に立ち寄ったと思ったけれど。トロール王ヴィンダーミルと戦って相討ったのではなかったの? 生きていたとは初耳だわ」


 エリカが嬉しそうに、ビヨーネと自分を交互に指さした。


「どうしたのどうしたの。えっ、話を信用してくれたって? そうかあ、良かったなあ……」


 エルフの人は、疑うということを知らないのかもしれない。


「なるほど、纏っている精霊の形が同じだ。血の繋がりはなくても、定めの精霊は次の抗い手を選ぶものだ」


 何を言ってるんだこの人は。

 だが、俺はそんな事をいちいち考えるタイプではない。

 エリカが嬉しそうならそれでいいのだ。


 この依頼は受けることが完全に決定した。

 俺たちはビヨーネとともに、エルフの里へ向かうのだった。


 ちなみに今回も冒険者の店を通さない依頼なので、達成しても表向きの成果としては知られづらい。

 だが、知名度よりも大切なものが時にはあるのだ。

 夢とか、エリカの笑顔とか、そういうのだ。


「ところで……どうしてモーザルが?」


 吟遊詩人が、糸のような目をさらに細めて笑う。


「エルフの里が眠りの精霊によって停滞させられたのは、我々吟遊詩人の間ではそれなりに有名な話でして」


「そうだったの。なんで歌にしなかったんだ」


「オチが無いでしょう」


「なーるほど」


 吟遊詩人、基本的には喜劇でも悲劇でもいいから、綺麗にオチが付くと売れる歌になるんだと。


「この歌は、ワタクシめが皆様方の活躍を見て、作って、まずはワタクシめが一稼ぎ。次に仲間たちがこれを歌って稼ぐわけです。吟遊詩人業界は持ちつ持たれつですよ」


「吟遊詩人も大変なんだな!」


 エリカが訳知り顔でうんうんと首肯した。


「でもビヨーネ、吟遊詩人がいてもいいのか?」


「構わないわ。人間の歌なんか、持ってせいぜい数十年でしょう? 瞬きしている間に流行りは終わってしまうし、でもそれを覚えている人間が出てきたら、これをきっかけにして利用できるかも知れないじゃない」


 計算高い!

 後は、エルフの時間感覚が違いすぎる。

 ビヨーネ曰く、死なない限り生きるので、寿命が無いのだそうだ。


「こちらよ。ローズバレルのエルフがいなければこの道は開かないのだけれど」


 何の変哲もない、鬱蒼と茂った森。

 そこにビヨーネが手をかざすと、木々や草花がもりもりっと動いて道ができあがった。


「凄い、お話で聞くエルフみたいだ!」


「エルフよ」


「エルフだな」


「エルフですな」


 エリカの物言いへのツッコミが、今回は三人。


 ……三人!?

 これは……四人パーティみたいじゃないか。


「そもそもビヨーネ、なんで仲間の冒険者に頼まなかったんだ? 中堅冒険者なんだから、俺たちより強いんじゃないか?」


 森の中の道を行く間に、抱いていた疑問をビヨーネに告げる。

 すると彼女は、何を今更、という顔をした。


「エルフの刃が立たなかった相手に、人間が立ち向かえるはずがないわよ。相性が悪すぎるもの」


「相性とな」


「エルフは人間よりも遥かに優れた抗魔力を持つのよ。だけれど、眠りの精霊はこれをやすやすと貫いてきた。人間では、いかな魔道具を用いても耐えられるものではないわ」


「俺たちも人間なのだが?」


「青魔道士なのでしょう? 一度受けて倒れなければあなたが勝つでしょう?」


「俺はそういうモノだったのかあ」


「なんだ知らなかったのか! ドルマは凄いんだぞ! それにほら、危なそうなのは私が分かるから! ほら!」


 エリカが言いながら、俺の襟を引っ張った。

 俺の鼻先を、怪しいものが掠めていく。


『ラーニング!』


 なになに?



名前:ドルマ・アオーマーホウ

職業:青魔道士

所有能力:

・バッドステータスブレス

・渦潮カッター act2

・ゴブリンパンチ

・ジャンプ

・バックスタブ

・ミサイル

・バルーンシードショット NEW!


「ほう、バルーンシードショット……」


 技名を口にしてみたが何も起こらない。

 これ、何か条件があるやつだなあ。


「おおっと、モンスターですか! どうぞどうぞ! 戦って、どうぞ!!」


 吟遊詩人、凄まじい速度で地面に伏せて物陰に移動!

 戦う気、なし!


「リップフラワーね。人間が来たから反応して攻撃してきたのだわ。よく避けられたものねえ……。それでどうやってあれを無力化するのかしら。青魔道士の実力を見せて欲しいものだわ」


 ビヨーネが横目で見るのは、バカでかい花だ。

 茂みに隠れていたのだが、種みたいなのを俺目掛けてぶっ放してきたのだ。

 花弁が人間の唇みたいな形をしていてキモい。


 ……唇?

 俺は袋から、小石を出して口に含んだ。


「おっしゃ、バルーンシードショット!」


 技名を口にしたら、含んでいた小石が飛び出した。

 そいつが猛烈な速度でぶっ飛び、リップフラワーの直前で丸く膨らんだ。

 そして粉々に爆ぜる。


 石は無数の礫になって降り注ぎ、リップフラワーを穴だらけにした。


「あー、なるほど。広範囲攻撃できる技なんだな、これ」


「青魔法……! これが……!? 魔力どころか、精霊の動きすら全くなかったわ。それにさっきの石、明らかに量が数百倍に増えた。伝説の青魔道士……! 確かに、これなら眠りの精霊を滅ぼせるわ……」


 解説、助かる。


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