知らない私ともう一度
@NONAKI
第1話 1番古い記憶
5歳くらいの記憶。
鮮明に覚えている、太陽みたいなあなたの笑顔。
「リカちゃん!遊ぼう!」と呼ぶ優しい声。
楽しい時間と穏やかな気持ち。
当時これを恋と認識するには幼すぎた。
シュウちゃんはどんな風に私との毎日を
感じていたのだろうか。
.
.
.
私たちは幼なじみで同じ団地に住んでいた。
私の家は一軒家で祖父が建てた家だった。
家の裏には山があり虫がたくさん家に入ってきたし、家の前の道は夜になると暗くて嫌だった。
でもこの場所は好きだった。
家の前の坂道を登ると幼なじみのシュウヘイ君と
マドカちゃんがアパートに住んでいた。
私はマドカちゃんが羨ましかった。
私もマドカちゃんもシュウヘイ君のことを
「シュウちゃん」と呼んでいた。
団地は山を削ったような場所で、そこには坂道が三本あり他にも同級生が何人か住んでいた。
シュウちゃんは小学校に上がるタイミングで引っ越しをすることになった。
理由は学区外に、彼のお父さんが家を建てたのだ。
大人になった今の私は、
気にすることもない車で10分の距離を
幼い私はとても遠く感じたのを覚えている。
今思えば家からの距離よりも
学区外という響きが
遠く感じる原因だったのかもしれない。
小学校へ入学、
毎日のように遊んでいたシュウちゃんが
学校にいないのは寂しかった。
でも親同士も仲が良かったので週末にはシュウちゃんの新しい家に遊びに行ったり、シュウちゃんの家族と一緒に出かけることもあった。
とても楽しかったのを覚えている。
しかし、日が経つにつれ段々と回数が減り、
夏休みが半分過ぎた頃には
家に遊びに行くことも
一緒に出かけることも無くなっていた。
引っ越しが決まったあの日より
寂しくはなかった。
私は他の友達と遊ぶことも
同じくらい楽しくなっていたのだと思う。
シュウちゃんのいない毎日が当たり前になり、
自然と会えないことを考えなくなっていった。
.
.
.
シュウちゃんのいない毎日が当たり前になった頃、
自分の気持ちを改めて自覚させられるなんて…
それは秋の運動会の日。
なんとシュウちゃんが来ていたのだ。
遠くにいる彼の姿を見つけただけで嬉しくなった。
ただただ嬉しくて、彼の元へ走った。
彼の周りには同級生の男の子がたくさんいて、
その中にマドカの姿もあった。
幼稚園の頃から彼は明るくて人気者だった。
シュウちゃんに近づくにつれ、みんなの話し声が耳に入ってきた。
たくさんの音の中で、鮮明に聞こえたのは
「シュウヘイの学校に可愛い子いる?」
足の速度が遅くなった、
聞きたくない気持ちと気になる気持ちに襲われ、
胸がザワザワした。
「…ミドリちゃんかな。」
その言葉を聞いて、速度を落としていた私の足が
完全に止まった。
走ったせいか、緊張のせいか、
私の心臓はうるさかった。
そこにいる彼の顔を見ると
恥ずかしそうな、どこか嬉しそうな、
私が見たことない表情のシュウちゃんがいた。
心臓はうるさいまま、苦しくなった。
そのままシュウちゃんに背中を向け、
元いた場所へと歩いた。
私は声をかけられなかったのだ。
きっとシュウちゃんは気付かなかっただろう
私があなたに向かって走ったことも
この苦しい気持ちも。
.
.
.
後日マドカから聞いた話では
運動会の日程が彼の小学校と違っていて
みんなに会うために遊びに来ていたらしい。
ミドリちゃんと一緒に。
私とマドカは幼いながらも
お互いシュウちゃんのことが好きなんじゃないかと感じていたと思う。
でも私たちは好きだと口にできるほど
恋を知らなかったし、
お互い抱えている気持ちの正体が何かなんて
判断出来なかったんだと思う。
この時は
名前のわからないこの気持ちが
線香花火が終わるように
呆気なく終わったように感じた。
涙も出ない淡い気持ち。
それが
終わってはいなかったと気付いたのは
数年後のこと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます