終電

津嶋朋靖

第1話

 気がつくと僕は、駅のホームで終電を待つ列に並んで立っていた。

 地下鉄のようだが、どこの駅か思い出せない。

 思い出せないが、確かに僕はこの駅を知っていた。


 でもどこだろう?


 京王線の新宿駅に似ているような気がするが……

 確かに、僕は今までこのホームから終電に乗ってどこかへ行こうとしていたはずだ。


 でもどこへ?


 思い出せない。


 まるで、さっきまで見ていた夢の内容が思い出せないような感じだ。


 そもそも、今日は何をしていたのだろう?

 確か、仲間と芝居を見に行って、その帰りに居酒屋へ行ったんだったな。

 どうやら酔っ払って知らない駅へ来てしまったらしい。

 まいったな。ここから電車に乗ったら、どこへ行くか分からないぞ。

 しかし、さっきまでここから電車に乗ろうとしていたという事は、誰かに帰り道を聞いてここに来たのかもしれない。

 まあいい。ここがどこか分かれば済むことだ。後は携帯の乗り換え案内で帰り道を調べればいい。


 変だな。


 周囲を見回したが、どこにも駅名の表示がない。

 僕は駅名の表示を探そうと列を離れた。


 どうせ後ろには誰もいないし。


「どこへ行くの? もう電車が来ますよ」


 呼びとめたのは、僕の横に並んでいた女の子だった。年の頃は二十歳前後だろうか?

 純白のワンピースに覆われた身体をひねり、悲しげな顔をして僕の方を見ている。


「ちょっと駅名を……」


 いや、まてよ。


 彼女に聞いた方が早いか。


 僕は列に戻り彼女に話しかけた。


「すみません。ここは何処の駅ですか?」

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