モラトリアム

シヨゥ

第1話

「昨日の君と今日の君。寸分違わず同じと言えるかな?」

「どうしたいきなり」

「いや、ちょっと訊いてみたいと思ったからさ。いつもの簡単なアンケートさ。っで、どう思う?」

「そりゃあ同じだろう。同じだからこそお前は俺を俺と判断できているわけだろう?」

「それはどうだろうか。もっと曖昧にお前を捉えているかもしれないぞ。もしかしたらいくつかの特徴的なポイントを捉えて、そのポイントがお前の特徴と近似しているからお前と判断しているかもしれない」

「お前の見ている俺が、俺の特徴をほぼほぼ備えているから俺だと」

「そうそう」

「それは少し悲しいな。もっとはっきり認識してもらいたいものだ」

「彼女だったらそうだろうけど男友達じゃないか」

「それもそうか。たしかに雑なぐらい適当な方がいいな」

「ああそれが楽だ」

「っで話を戻すけど、質問の意図は何だったんだ?」

「同じであり続けるものはないって話を聞いてね」

「ふーん。っで俺は昨日の俺と違っているように見えるか?」

「少しは変わっているように見えるよ。だから聞いた話通りだなっていうのが感想だね」

「そっか。自分じゃ分からないけど変わっているのか」

 彼は鏡に映った自分を見る。

「まあ少しぐらいならいいか」

「変わるのは嫌かい?」

「それはな。もし変わり続けたらこうやってお前と無駄話をできなくなるかもしれないだろう」

「それは困るな」

「ああ困る困る。だから頑張って現状維持だ。いいな」

「ああ分かった」

 と答えたもののどう頑張ったらいいものか。検討などつくはずもなく。この時間が続くことを願うばかりだった。

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モラトリアム シヨゥ @Shiyoxu

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