たとえこの身が腐っても

ナガノ ユキ

第1話 日常の終わり

気持ちのいい風、揺れる草花

暖かい日差しの中を鼻歌を歌いながら歩く。


争い事はあまり好きじゃない。

できれば世界がこのまま平和でいればいいと思っている。


「コウ!また気持ちよさそうに歩いてるな」


後ろから声をかけてきたのは僕の親友であるヒロだった。


「今日からまた憂鬱な1年が始まるっつーのにお前のそんな顔を見てると憂鬱な気分が吹き飛んじまうな」


「そりゃよかった。ところで剣道の方は順調ですかな?主将どの」


「ん、おお!もちろんだ!

そもそも俺がいる限り負けることはないからな。がははははははは。」


そんな他愛のない会話をしながら僕らは学校までの道を歩いていった。


そこからはいつも通りの日常が始まる

はずだった。


初めに感じた違和感は始業式の時だった。


全校生徒が集まるはずにしては人数がやけに少ない。


時間になっても集まる気配がなく体育館に集まった生徒たちがざわつき出した。


すると学年主任の教師が確認に行くと言い、始業式はこのまま行うこととなった。


そして、式が終わりに差し掛かった時、事件は起きた。


ドンっ!!


突然体育館の扉から音がしたのだ。


そしてゆっくり開かれた扉の先には、来ない生徒を確認しに行ったはずの学年主任がいた。


「助けてくれ、、、」


それが先生の最後の言葉だった。

その直後横から出てきた何かに襲われ、先生はみんなの視界から消えてしまったのだ。


みんなの動きが固まる中、数人ドアに向かって歩く生徒がいた。


「これやばくね?w」


「いやいやどうせ始業式だし何かイベントとしてお芝居でもしてるんじゃね?」


「絶対それだわw」


「こんなしょうもないことする暇あるならとっとと帰らせてほしいわー」


そんな彼らを見てみんなの緊張が少し緩んだように見えた。


しかしその瞬間


「ぐあああああああああああああああ」


誰かの叫び声が体育館全体に響き渡った。


その誰かとは言うまでもなく全員がドアの方に視線を向けた。


そこで僕の目に入ってきた光景はとても信じられないものだった。


『ヒトが人を食べている』


目の前で起きている光景にその場にいた全員の思考が一瞬停止した。


しかし女子生徒の悲鳴によりすぐに現実に戻された人達は一斉に叫びながら体育館の隅へと逃げ出した。


そんな逃げる人たちに逆らうように1人生徒がドアの方へと走って行った。


その生徒はヒロだった。


「ダメだ!ヒロ、行くな!!」


他の生徒たちの悲鳴にかき消された僕の声はヒロに届くはずもなく、気づくと僕もヒロの方へと走り出していた。


どこから持ってきたのかヒロは片手に竹刀を握っている。


そしてその竹刀で襲われている生徒と襲っている〝何か〟を引き剥がした。


引き剥がされた〝何か〟は体制を起こしてゆっくりと立ち上がった。


ヒロに追いついた僕はその〝何か〟を近くで見ることでようやく正体を知ることができた。


その日を境に僕の日常は崩れ始めたのだった。



ゾンビ—「生ける屍」「何らかの力により死体のまま蘇った人間の総称」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たとえこの身が腐っても ナガノ ユキ @yuki1225

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ