第35話 意味深な発言
黒亜とのデートを終えた、翌日の月曜日。
教室に入って自席に座ると、俺の元へ珍しく奥沢さんがやってきた。
「おはよう雪谷君」
「おはよう奥沢さん、どうしたの?」
「ちょっといいかな?」
奥沢さんは胸元で小さく手招きをして、教室の外へ視線を向けた。
どうやら、二人きりで何やら話したいことがあるらしい。
「うん、わかった」
俺が荷物を置いて席を立つと、奥沢さんは踵を返してトコトコと教室の外へと向かって歩いて行ってしまう。
奥沢さんの後を追ってついていくと、連れられてきたのは、特別棟にある図書室。
HR前ということもあり、図書室の中に生徒は一人もおらず、寒々しい雰囲気が漂っていた。
そんな不気味なぐらい静かな保健室を見まわしていると、不意に奥沢さんはぴたっと立ち止まり、くるりと身体を反転させて、こちらへ身体を向けてくると、困ったような笑みを浮かべつつ口を開く。
「えっとね、そのぉ……昨日の件なんだけど……」
奥沢さんが言っているのは、黒亜とデート中に出くわしてしまった時のことだろう。
俺は慌てて奥沢さんに向かって頭を下げた。
「本当にごめん。奥沢さんに不快な思いさせちゃって。あれは完全に黒亜が悪いから」
黒亜の態度が悪かったのは事実なので、俺が代わりに謝罪の言葉を口にすると、奥沢さんはひらひらと手を横に振った。
「ううん、別に怒ってないから謝らなくて平気だよ。それより、むしろ私の方が申し訳なかったなって。せっかくのデート中だったのにと思って」
「それは昨日もLI〇Eで送ったけど、俺はただ黒亜にデートという名目上の買い物に付き合わされただけで、そこに恋愛感情とかは一切ないから気にしないでって」
「でも、雪谷君がそう思ってるだけで、大塚さんはそう思ってないかもしれないよ?」
「んなわけないって。実際に俺、黒亜にこき使われてるだけだし」
「……本当にそうかな?」
どうやら奥沢さんは、納得が行っていないらしい。
微妙な表情で眉根を八の字にしてしまっている。
「っというか、俺奥沢さんに黒亜の話ってしたことあったっけ? 奥沢さん、昨日黒亜見た時、初対面じゃないような感じだったから」
「……やっぱり、雪谷君は覚えてないよね」
「えっ……?」
すると、奥沢さんが意味深な言葉を述べ、少し悲しそうな表情を浮かべてしまう。
ちょっと待って、俺、もしかしてまずいこと言っちゃった?
覚えてないってどういうことだ……?
キーンコーンカーンコーン。
すると、丁度タイミングよくチャイムが校舎内に鳴り響いた。
「教室戻ろうか。HR始まっちゃう」
「う、うん」
奥沢さんは話を切り上げて、一人先に教室へと戻って行ってしまう。
その間にも、俺は奥沢さんの意味ありげな発言について、ずっと頭を巡らせてみたものの、結局何か手掛かりのようなものは思い出せず、悶々とする羽目になってしまうのであった。
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