清楚ビッチのクラスメイトを助けたら、お礼にもっといいことシてあ・げ・る♪と言われ、保健室に連れていかれた俺。どうなるかと思ったら、めちゃくちゃ尽されたんだけど……彼女は神ですか?

さばりん

第一章

第1話 清楚ビッチの奥沢さん

 陽が傾き始め、校舎内がオレンジ色に染まる中。

 平凡な男子高校生である俺、雪谷礼音ゆきがやれおんは、人気のない保健室で、何と女子生徒に膝枕をしてもらっていた!


「ふふっ……どう、私の膝枕は?」

「正直に言って……最高です」

「あはっ、それなら良かった。じゃあ早速、雪谷君にお礼していくね」


 彼女は優しくそう囁いてから、ゆっくりと俺の方へと近づいてきて――


 俺は一体どうしてこんな美少女に膝枕なんてしてもらっているんだ……?

 それを説明するには、今日の朝までさかのぼらなければならない。



 ◇◇◇



 誰だって、人に言えない秘密を、一つや二つ隠し持っている。

 そして、その秘密が人にバレた時、周りにどう思われるかは状況次第だ。

 とある人は幻滅し。

 ある者は嫉妬して。

 また別のものは驚き。

 はたまた喜ばれるなんてこともあるだろう。

 

 そんな、とある秘密を持った平凡な男子高校生がここに一人。


 俺、雪谷礼音ゆきがやれおんは、いつものように友人と一緒に登校するため、学校の最寄り駅の入り口で待ち合わせをしていた。

 通勤時間帯ということもあり、駅前は多くの通勤客で混雑している。

 

 そんな人の流れをボーっと眺めていると、ふとロータリー前にあるコンビニの入り口で、見知った女子生徒が、他校の男子生徒二人に声を掛けられていた。

 耳を澄ませてみると、男子生徒の声が聞こえてくる。


「なぁなぁ、いーじゃんよ。SNSぐらい交換してくれたってさ」

「そうそう。これも何かの縁、みたいな?」


 どうやら、朝からナンパをしているらしい。

 朝から盛んで鬱陶しい奴らだなと思いつつ、ナンパを受けているクラスメイトの奥沢優里香おくさわゆりかさんの方へ視線を向ける。

 彼女は困った様子で、愛想笑いを浮かべていた。


 艶のある青みがかった黒髪に、整った端正な顔立ちから、清楚感が溢れている。

 にもかかわらず、制服のシャツのボタンは第二ボタンまで開けられており、際どいところまで見えてしまいそうなアンバランス感。

 出ているところは出ているのに、スラリしたモデル体系で、風が吹いたらパンツが見えてしまうのではないかという短いスカート丈、そこから伸びるすらっとした健康的な太ももが腰に巻かれたセーター越しからをちらちらと見え隠れしている。


 まあ、これだけ可愛い美少女がいたら、勇気を出して声を掛けたくなってしまう気持ちも分からなくはない。


「あの……本当に連絡先交換とか、そういうの受け付けてないので」


 奥沢さんは、男子生徒二人に丁重にお断りをしていた。

 心なしか、奥沢さんの眉がピクピクひくついている。

 彼女がナンパ達を鬱陶しいと思っているのは明らかだった。


「そんなこと言わずにさ、イ○スタでいいからさ」

「そうそう、アカウント持ってないなら、ツイッ○ーの別アカでも全然いいし!」


 しかし、ナンパどもはそんなのお構いなしといった様子で、グイグイ奥沢さんへと迫り、連絡先を貰おうと必死だ。

 そんな様子を、俺を含む笹妬ささやき学園の生徒たちは、遠巻きに眺めているだけで、誰も助けようとはしない。


 なぜなら、彼女が校内で、として名を馳せているからだ。

 どうしてそんな異名がついているのかというと、見た目の清楚感あふれる雰囲気とは裏腹に、実はフットワークが軽く、ヤリ目の男をその美貌と色気で落とし、毎週末ホテルへと連れ込み、アンアンしまくっているという噂が出回っているから。


 笹妬ささやき学園の生徒たちにとって、奥沢さんがナンパされているの光景はいわば日常であり、逆にナンパしているのではと勘違いしている生徒さえいるというのが実情なのだ。


「ごめんなさい、私、そろそろ学校に行かなきゃいけないので、この辺りで失礼しますね」

「ちょ待てよっ!」


 奥沢さんがしびれを切らして、強引にその場を立ち去ろうとすると、一人の男子生徒が、某キム〇ク風に呼び止め、奥沢さんの腕を強引に掴んだ。


「キャッ!」


 突然の出来事に、奥沢さんは軽く悲鳴を上げる。

 とは思えぬ、怯えたような顔を浮かべて……。


「そろそろ頃合いだな」


 タイミングを見計らっていた俺は、壁に寄り掛からせていた背中を持ち上げ、カバンを背負いながらスタスタと奥沢さんの方へと向かっていく。


「おはよう優里香」


 そして、スマートにかつ優しい声音で声を掛けた。

 すると、ナンパしていた男二人がこちらへ顔を向けてくると、あからさまに不機嫌そうに眉間にしわを寄せて睨みつけてくる。


 おぉ、怖い怖い。


 だが、二人の圧に屈することなく、俺は男たちに取り囲まれている奥沢さんに向かって、軽くウインクをしてアイコンタクトを取ってみせる。

 奥沢さんは、俺の意図を汲み取ってくれたらしく、パッと華やかな笑顔を浮かべると、こちらへ駆け寄ってきてくれた。


「もう、礼音遅いよー! 待ってたんだよ?」


 そして、奥沢さんは甘えるような声を上げ、ぷくりと頬を膨らませてながら俺の服の袖をくいっと掴んできた。


「ごめんごめん、電車一本乗り遅れちゃって。それで、この人達は?」


 俺はごくごく自然な流れのまま、先ほどまで奥沢さんをナンパしていた男たちを指差した。


「ん? なんか分からないけど、連絡先交換してほしいって言われて……」

「あぁ、そういうことね。ったく、優里香は元々声掛けられやすいんだから、気を付けろって前にも言っただろ?」

「それはそうなんだけど……」


 奥沢さんは指を付き合わせながら、申し訳なさそうに俯いてしまう。

 即興とはいえ、見事な演技力である。


 俺はそのまま男二人に向けて、軽く頭を下げた。


「ってことなんで、申し訳ないですけど、ナンパなら他の人を当たってください」


 そう言い切ると、男子生徒は興ざめした様子で舌打ちをする。


「んだよ、彼氏持ちかよ。行こうぜ」


 男二人は、興味を失った様子でスタスタと駅へと歩いて行ってしまう。

 姿が見えなったところで、俺はようやく肩の力を抜き、奥沢さんへ向き直る。


「ごめん、勝手に彼氏気取りしちゃって。大丈夫だった?」

「平気だよ。助けてくれてありがとう雪谷君!」

「とんでもない。むしろ面倒な奴らに絡まれて災難だったな」

「あはは……まあ、ああいう強引な人達もたまにいるからねぇー。でも本当に、雪谷君が来てくれて助かったよ。このお礼は今度させてね!」

「いや、お礼なんていいって」

「いいから、いいから! 私がしてあげたいの!」

「分かった。なら、期待しないで待っておく」

「せめてそこは期待して待っててよぉー」


 奥沢さんは、ぷくーっと拗ねた様子で可愛らしく頬を膨らませる。

 こういうあざとさも相まって、をたてられてしまうのだろう。


「おーい、礼音―!」


 とその時、駅の方から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 見れば、クラスメイトの石川台賀いしかわたいがが、こちらへ手を振りながら近づいてくるところだった。


「それじゃ、私は先に学校向かうね! 助けてくれてありがと。雪谷君も、遅刻しないようにね!」

「うん、またね」


 挨拶を交わすと、奥沢さんは一人でスタスタと学校へ向かって歩いて行ってしまう。

 その姿を見送っていると、後ろから台賀に肩を組まれた。


「どうした礼音? お前が奥沢さんといるなんて珍しいじゃねーか」

「まあ、ちょっと色々とあってな」

「もしかして、お前も奥沢さんにホテルに誘われたか?」

「ちげぇよ。ただ、人は見かけによらないって話をしてただけだ」

「ん、どういうことだ?」


 首を傾げる台賀。

 理解できないのも無理はない。

 だって、これは俺の予想でしかないから。

 恐らく奥沢さんも、何か人には言えない秘密を隠しているのだ。



「ほら、そんなことより、とっとと学校に行くぞ。HR遅刻しちまう」


 俺は適当にはぐらかしながら、台賀の背中を押して、学校へと歩いていく。

 誰だって、人には言えない秘密というのは、あるもの。

 俺にだって、ここにいる台賀に言えない秘密を持っている。

 その秘密というのは――

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