第19話『二尾の姉妹』
思念のループを作って魔力の循環を自動化させると、短時間で消滅する魔法の効果も結構長い間保つ事が出来るの。で、そのループを壊すと、私の姿がゆっくりと焚火の炎に照らし出されていくという訳。
その光景に、明かに警戒していた二尾は、すっと肩の力を抜きました。ちょっと驚かせちゃったみたい。
「何だ~」
「遅かったではないか? ふふ……随分とお楽しみでは?」
このちょっと間延びした喋り方をする子と、久しぶりに会ったら何かにかぶれて変な喋り方をする様になっていた子が、私を含めた十七姉妹からの二尾。同じ蛇の穴で産まれた、穴姉妹。
「ね!? ね!? どうだった!? どうだったの!?」
私から見て左手のその子は、金に赤く照り返すぽわぽわした天パー頭。腰まであるロングヘアーのこの子は、人族全般に興味ありありって感じ。真っ先に、行きたい!って手を挙げて来たの。
きらきらブルーアイを大きく見開いて、私を食い入る様に見つめて来るわ。
「ふ……その表情、何やら意味ありげで御座るな?」
そして、右手の子は。
パチリ。朱鞘の道中差しを鳴らし、その刀身を鞘に収めると、左腕でスレンダーな胸元に抱える様に持つ。そして、残る右腕をその上に置き、掌で顎の下をさすりニヤリと口元を歪めて見せた。
あなた、髭なんか生えて無いでしょうに。
こちらの子も腰まである、さらさらストレートヘアーを一房に括り、ちょっと見ない間にしゃれっ気を出して来てるわ。ちょっと前は伸び放題のぼさぼさ頭だったのに。
うふふ。
みんな、お年頃って奴なのよね?
まあ、人の中に入ってもそんなに問題ないメンツを選んで来たって事もあるけれど。
「うん。まあまあね~……」
そう言葉を濁し、焚火の傍まですまし顔で進み出ました。
ちょっと温まりたい気分だし。
大体、話せる訳ないじゃない!? あんな事や、こ~んな事!
あんなの居る様じゃ、やっぱりやーめたってなりそうだし、自分も正直迷ってるし~。
すると、ぷくぅ~っと思いっきり頬を膨らませ。
「まあまあって? まあまあじゃ判んないわよぉ~!?」
「イカサマ左様。お主の存念、しかと聞き届けたいもので御座るぞ」
「あ~、あったかいわ~♪」
そう言って、掌をかざして温まるんだけど、両脇挟まれ左右から凝視されちゃった。
すると、目につかない訳ないのよね~。
「あら? 何コレ!? どーしたのよ、コレ~!?」
「むむむ……何事で御座るか?」
「あいたたた、引っ張らない引っ張らない!」
いや、爪を立てて例の左肩のコインを引っ張るものだから、痛いなんてものじゃないのよ!
「言え! 言いなさいよ~! 何して来たの!? 言わないとぉ~……」
「言わないと?」
流石に引っ張るのを止めてくれたんだけど、二尾して楽し気に目配せし合うじゃない。もう嫌な予感しかしないわ。
張り付いた様な笑顔を浮かべ、肉親の情って奴に訴えたのに~。
「ね、ねえ。その手をわきゃわきゃさせるの止めないかな?」
「やー♪」
「止めぬで御座る。止めぬで御座るよ~♪」
いや、もう二対一じゃ勝ち目が無いじゃない?
じりじりと。
こっちもじりじりと。
私が後ろに下がるのに合わせ、左右から挟み込む様に……
「それ~!」
「チェストー!」
「や~!!」
うっかりしてたわ。魔法で見えなくしておけば良かったのに、疲れたから。
左右から私の防御を掻い潜り、四本の腕がくすぐりにかかる。
特に脇やら背中やら、敏感な部分を狙いすまし、正にハンターの様に!
しゅるしゅる。すすすすっと。
「きゃ!? や! 止めてぇ~!!」
「や~~!! あんたが! 正直に! なるまで! くすぐるのを止めな~い!!」
「きゃ、はっ! きゃははははははははは!! イヤイヤ、止めて! 止めてぇ~!!」
「くくく……良いではないか、良いではないか~!!」
三尾で正にくんずほぐれつ。焚火はひっくり返すは、馬はびっくりして暴れるわ。
ちっちゃい頃ならいざ知らず、こんなに大きくなってからこんな事されるなんて!
頭おかしくなっちゃったんじゃないかって位、大笑いに笑わされ、も~降参です。
自分でも驚くくらい、くすぐりに耐性無いって判っちゃった。
おかしいなあ~。昔はこんなんじゃ無かったのにぃ~!
「こ、降参! 降参よ~!!」
「ふぃ~。最初から大人しくゲロしとれば良かったのさ~」
「ようやく観念しおってからに。ささ、つまびらかに明かすのじゃぞ」
揃って肩で息をしつつ、私は仰向けに引っ繰り返り、今日何度目かの星空を拝みました。
くう~。
「隠し事はならんぞ。隠し事は」
「ううう……は~い、判りました~」
両腕を組んで、うんうんと頷く姉妹に、私はぽつぽつと今夜の出来事を話すのです。
「最初は門の上で、若い兵士に会ったの。勿論、私は姿を消してたから、相手には見えなかったわ。若くて鍛えられた男の人って、こう、月明かりに陰影が浮かんで素敵だったわ~」
「ほ~……」
「ふむふむ……で?」
「で? って、それだけよ。そこで騒ぎを起こす訳にはいかないじゃない?」
「ちっ」
「何と情けない……何故、そこで押し倒さぬで御座る!?」
いや。二尾してそんな残念そうな……
「次にはね。酔っぱらいのおっちゃんに出会ったの」
「へ~……」
「うん! で!?」
「で? って……路地で暗くて誰も他に居なかったから……」
「おお~!」
「それからそれから!?」
「……酔いつぶれてたから、ちょっと血を戴いたら、酷い味でね。病気だったの……」
二尾して、な~んだと少し前のめりだったのを止めた。
「仕方ないから手当をして、後でもう何回か診に行こうと思ってたら、街の警邏してる兵隊さんたちに見つかっちゃって」
「ふ~ん」
「何人!? 何人殺したで御座るかっ!?」
彼女。びっくりする位、前のめり。もう片方は、全くの無関心なのに。
と、ここに来て、色々思い出されてちょっと焦っちゃいました。
「い、いやぁ~ねえ~! 殺してなんかないわよ~! そこで逃げ出したんだけど、隊長さんらしい方、二人に追い付かれちゃって……」
そこで、思わず左肩のコインに触れました。
金属の表面はとても滑らかで冷たいのに、何故だかとても熱く感じるの。
「追い付かれちゃって……」
「「追い付かれちゃって?」」
銭キチさんやデカハナさんとの事が脳内を駆け巡って……
ぴゅうっと、また頭に血が!
思わず両手で顔を隠して、下を見てしまったの。
「ダメ! こんな事、言えない……」
「「ええ!? 言えない様な事をされた!!?」」
二尾は思わず腰を抜かした様に、その場でくにゃりととぐろを巻いた。
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