第17話『不可抗力なんですぅ~!』
「お? 大人しくなりやがったな。ぶひひひひ」
異様に近く、耳に響くその声に、私、ハッと我に返りました。
何だか良く判らないけれど、一瞬気を失っていたみたい。頭の中が真っ白になった感覚に、どうにも気が抜けちゃって、ぽわわ~んとしてるんです。
もう、きっと髪なんかチリチリですよ! ほんとにもう~。
そして、砂まみれになって、ぐったり横たわってる私に乗っかっていた重圧が、フッと軽くなっりました。
私、いつの間にか、仰向けにされて夜空を見上げていました。
デカハナさんは興奮すると、鼻をぶひぶひ鳴らすんですね。血走った瞳が、海からの照り返しににらにらと輝いていて、ちょっと怖い。なんかこう、にちゃあって感じで。
でもでも、彼の触れている所は、妙に暖かで何とも心地よいんです。不思議ですね?
海風で冷えていたからかしら?
すると、ちょっと離れた向こうの方から、銭キチさんの声がしました。
何ともとぼけた感じの、魅力的な響き。でも、この響きがヤバいんですよね~。この人の場合。
一種の言霊って奴でしょうか?
音に乗って余計なものまで届いて来るから、普通の人だったら簡単に幻惑されてしまうでしょう。もう、コロッとですよ、コロッと!
私には判るんです。
やっぱり、ヤバい人ですね?
「ああ、それねぇ~」
ほ~ら、デカハナさん。そっちに気を持ってかれちゃって。
私から顔を反らしちゃいましたよ。悪そうに見えて、中は結構単純みたい。
「何だよ? それより、何か縛る物、持ってねぇのか?」
「ある訳?」
銭キチさんの手ぶらアピールに、軽く舌打ちをするデカハナさん。
「シャツ、脱ぐか?」
「いらねえよ!!」
「だろ?」
「ったく、いちいち!」
ぷぷ~。
この二人、本当に仲が悪いんだか、何か良く判らないですね?
きっとデカハナさんも大きな加護をお持ちなんでしょうから、銭キチさんのやってる事が判ってて、それで反発してるんじゃないかしら?
そ~んな事をぼんやり考えて、目の前に私へと伸びている野太い腕をじいっと見つめます。
やっぱりオスの腕って大きい。太い。食べ応えたありそう。じゅるり。
きっと筋張ってて、固いんだろうなあ~。いつまでもお口の中で、くちゅくちゅしちゃうって奴ですよね。あの筋って。
「そんな事よりさあ、デカハナ~」
「手前ぇ~、いい加減にしろ!! お前がそう何度も呼ぶから、俺の名前を本気でデカハナだと思ってる奴が居るんだぞ!!」
あ、デカハナさん、怒ってる怒ってる。え? 名前、違うの? 人族って、互いに名前を付けて名乗ってるって思ってたけど……
「そんな事よりさあ~」
「しつこいなあ!」
「それ、逃げるよ」
「へ?」
へ?
だって、身体が痺れて力が入らなくて……痺れて無い!?
尻尾、動く。腕、動く。
不思議な事だけど、今、私の身に起こってる事を包み隠さず言うわね。
左肩はまだずきずきするんだけど、身体、全然動かせます! そして、一応私たちってある意味裸族なんだけど、私のお腹と胸の上にデカハナさんの大きな掌がぴったりと置かれていて~……
なんかこうあったかくってくすぐったくてぇ~、気持ち良いなあ~って思ってたんですけどぉ~……
ぴゅうって頭の中を血が遡る音を聞いちゃいましたあ~!! ぴゅう~って!!
「ひええええええええええええ!!?」
「うわわわ!? あたっ!?」
びったん、反射的に尻尾の先でデカハナさんの後頭部を殴打してました。
こ、これは不可抗力! 不可抗力なんですぅ~!!
もんどりうって倒れるデカハナさんだけど、逃げる!
ざっぱん、そのまま海に飛び込んだ。
ざぶざぶ泳ぐ泳ぐ泳ぐ。いつ、あのコインが飛んで来るかもと思って、思いっきり潜ります!
怖い怖い! 銭キチさん、怖い!
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