第12話『潮騒』
潮騒が荒々しく吹き抜ける砂丘は、人のか細い声など吹き消してしまいそうなのに、銭キチさんの声は、何故かはっきりと私の耳に届きました。
どことなく物憂げで、寂しそうな眼差しが、月明かりに映えて。
何故、ここに彼が居るのか疑念を覚えるよりも、何とも異質な感覚に、これは一体何なのだろうという好奇心の方が優ってしまったのかも知れません。
魔法使いの性ですね。
彼には見えて無い筈の私が見えている?
思い当たる節がありました。
今、ここでその疑念を晴らしてみましょうか?
さらさらと足元の砂が崩れ、私の重みでくっきりと一本の尻尾が地面を這う様が判ります。でも、彼は波打ち際に立っているので、あの高さではそれは判らない筈です。
幻影が消えかけている?
じっと手を見る。自分のお腹を見る。
透けて砂のくぼみがはっきりと見えています。透明化の魔法は、破れていない。
後は、ディテクトマジック等で魔法自体を感知しているのかも知れません。
ディテクトマジックなど初級レベルの魔法は、実は簡単に買う事が出来るのです。
私も駆け出しのエクスプローラー時代、人族の魔法使いに交渉して買いました。
きちんと修練を積んだ魔法使いなら、誰でも教える事は出来るのです。
でも、普通彼らは容易に魔法を渡そうとはしません。そういう手合いを探したのです。正に蛇の道は蛇、ですね。
それで一番最初に手に入れた魔法がディテクトマジックだったのです。
隠された魔法の品や仕掛けを見破る為に。
なるほど、人族の貴族なら、さぞお金を持っている事でしょう。
権力を振るえば、簡単に魔法を手に入れている筈。
そこまで推理すると、私は他に何か魔法を使ってるんじゃないかと思い、自分にディテクトマジックをかけました。
う~ん……
目に力。これは魔力の流れが見えるタイプ。
見える! 私にも見える!
途端に世界が、がらりと変わって見えます。
夜の海は、精霊力にあふれ、輝いていました。
風の精霊に運ばれ、水を始め様々な精霊が我先にと駆け抜けて行きます。
……何、この人……
私はその光景に、愕然とする。
尻尾の先から、ぞわぞわぞわっと寒気がさかのぼって来ました。
銭キチさんの身体に、精霊たちが戯れています。それも、いっぱい! 眩しいくらい!
精霊に愛されている。しかも、もの凄く! て事よね!!?
そして、彼の胸からは、何か光りがあふれて、そのたなびく光に一層精霊たちが楽し気に踊り戯れているんです。
に、人間じゃ無い……かも……
もしかしたら、もっとヤバ目の!
くるっと尻尾を巻いて逃げようと思った、その矢先に、今度は背後からあのだみ声が。
「ぶふう! ようやく追い付いたぜ!! このアマ!! 俺様の鼻から逃げられると思ったか!!?」
がが~ん……
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