君の未来はきっと明るい

唯歌

第1話 時間屋って知ってる?

 「時間屋って知ってる?」


 きっとこの話題は、誰しもが1度は耳にした事があるはず。

 私の耳にこの話題が飛び込んできたのはつい1週間ほど前の事だった。


「なぁ千穂ちほ、時間屋って知ってるか?」

「時間屋?何それ、初めて聞いた。あ、分かった。時計屋さんだ」


私の髪の毛を丁寧にコテで巻きながらそんな話題を振ってきたのは仲良しのヘアメイクさん。


「違う違う。時計屋なんかじゃねぇよ」

「えー、じゃあ写真館とか?それか…うーん」

「残念ながらハズレ。答えはそのまんま、時間を売ってる店の事だよ」

「時間を売ってる?何それ、マンガかアニメの話?」


マンガもアニメもあまり読まない私には分からない、と言えば彼は私の髪に仕上げのワックスを付けながら、3次元の話だと言った。


「3次元?時間を売ってるだなんて意味わかんないんだけど」

「最近この話いろんな奴が話してるのに知らなかったんだな。時間屋は過去現在未来、好きな時間を買える店なんだって」

「時間を?ますます意味わかんない。どこにあるの?」

「それが店はないんだってよ。強く望んでる人の所にしかその店は姿を現さない」


そんな話、ますます3次元の話だなんて思えない、と思っているとヘアメイクが完成し、首元に巻かれていたタオルを外された。

そして彼はポンと私の肩に手を置き、鏡越しに笑顔を見せた。


「今日も完璧。じゃぁいってらっしゃい、さん」


彼にそう言われて席を立ち、同じ部屋のソファーに座って寛いでいたメンバーと共に部屋を出て私は今日もステージノ上で音を奏で、歌を歌う。

それが私の仕事で。


少し上を向いて空まで届くように歌いながらいつも「聴いてくれていますか?」ともう2度と会えない幼なじみに問いかけている。


もし本当に時間屋という店があるのならば、私は迷わず過去を買う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の未来はきっと明るい 唯歌 @yuiyuiars27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ