第21話 ニングスキー王捕縛からの……
「マロン、あれ!」
キスコンチェに全力疾走中、藪の中に肌色がチラチラ動くのが目についた。
マロンを方向転換させ藪に突っ込む。
「アアッ!」
そこには二十人ほどの兵士と、その中央にはニングスキー王、なぜかその横には半裸の男が?みな緑や茶色に塗った鎧を着て、顔まで緑に塗って木々に擬態していたから、この半裸の男がいなかったら見落としていたかもしれない。でもなんで半裸?顔だけ緑で気持ち悪いんだけど。
「……キスコンチェ馬」
ブラックがマロンの前に出て、歯を剥き出しにして蹄を鳴らすと、兵士達はざわめいて後退った。鉄の牢を一蹴りで壊す脚力だからね、鎧くらい貫通するよ。恐れ慄け!
「アダム様、あの真ん中にいるデブッチョのおじさんがニングスキー王だよ」
「了解!制圧!!」
こっちの騎士の数はニングスキーの半数くらいだが、少数精鋭、なによりみながキスコンチェ馬に騎乗してるからね。制圧は刀を合わせることもなく、一瞬で完了した。
「アダム様、私は先にキスコンチェに戻るよ」
ニングスキー王達を捕縛を待っている時間も惜しく、私は単騎キスコンチェに走り出した。
「ロッティ!」
アダムがすぐに後を追ってきて併走する。
「他にもニングスキーの残党がいるかもしれない。一人で行動したら駄目だ」
「そうかもだけど……。あのストーカー王太子、崖っぷちの今、何するかわかんないもん」
「ストーカー?」
あ、ストーカーって言葉はわからないか。付き纏い?収集癖男?もっとこう、ピッタリくる言い方……。
「変態付き纏い粘着質男ってこと。ティアラを手に入れるならなんだってアリなのよ。睡眠薬や媚薬仕込もうとしたり、なりすましで呼び出して襲おうとしたり、夜中に忍び込もうとしたり……。常にティアラを監視して、とにかく鬱陶しいくらいチョッカイ出してきてたの。趣味がティアラの私物集めっていうド変態よ」
ちなみに、それを全部潰してきたのは私ね。ティアラ付きのマンマっていう侍女が教えてくれていたからね。マンマはザンザの手の者だったんだけど、袖の下次第ではこっちにも情報流してくれたし、ちょっとした情報操作もしてくれた。
「なるほど、確かにストーカー。でもそれだけティアラ嬢に執着しているのなら、危害を加えることはないんじゃないかな」
「生死に関係するような危害は加えないかもだけど、人前でレイプくらい平気でする男だよ」
アダムの眉が険しげに寄せられ、ブラックの腹をグッと膝で押して速度を上げた。
「急ごう!」
キスコンチェについた時、炊き出し広場には誰もいなく、辺りは静まりかえっていた。
「アダム様……後でパパリンに一緒に謝ってくれる?」
「え?なにを?」
「アダム様は裏から回って!謁見の間だと思います。いいですか、私が合図するまでは突入してきちゃ駄目ですよ!指笛一回が合図です。それ以外は待機ですからね」
マロンの背に伏せるようにしてマロンの腹を軽く蹴る。マロンは心得たとばかりに疾走し、キスコンチェ宮殿の正門に体突進して壊し、そのままの勢いで扉を破壊、床を蹄で叩き割りながら進み、謁見の間まで一直線に進んだ。
「みんな無事?!」
大扉を吹き飛ばして飛び込んだ先では、ニングスキーの兵士達に囲まれたパパリンとママリン、二人の兵士に床に押さえつけられているスチュワート、その前でドレスを引き裂かれてザンザに馬乗りになられているティアラがいた。
「ロッティ!」
悲痛なティアラな声が響くが、確かにドレスは破かれてはいるがコルセットは乱れていないとこを見ると、ギリセーフ!
「シャーロット、ティアラに危害を加えられたくなければ、その忌々しい馬から下りて馬を柱に繋げ!」
「みんなを離して!」
「おまえが馬を繋ぐのが先だ!」
私はマロンから下りると手綱を柱に繋ぎ、マロンの首元を叩いて落ち着かせた。
「繋いだよ!ティアとスチューから離れて」
窓の方を見ると、ブラックの耳がわずかに見えてホッとする。
「おい、スチュワートを起こしてやれ。そいつら一緒に縛って転がしとけ。おまえらは馬を見張れよ。そいつが暴走したら死んでも止めろ」
スチュワートはパパリンとママリンのところに連れていかれ、三人纏めて縄で縛られて壁際に座らされた。兵達は真っ青な顔をしてマロンの前に並んで立ち、ザンザの言う通り人間壁に徹する。
「さて、おまえはこっちだ」
人差し指でクイクイっと呼ばれ、ニマニマ笑いのザンザの前に立つ。偉そうなその態度にまじムカつく!
こういう勘違い男前世にもいたよね。「俺がヤッたAV女優、みんなイキ過ぎちゃってさぁ。おまえもイキ過ぎじゃね?ちょっとは我慢しろよ」って?みんなただの演技だからね!本気イキしたのなんか、シンさんくらいしかいないから。ツボもズレまくって、おまえの前戯は痛いだけなんだっての!
……やな共演者のこと思い出しちゃったじゃないか。ってか、似てる。若いくせに中年チックなだらしないお腹とか、いかにも禿げそうな薄い猫毛とか。こいつも実は転生者なんじゃないの?!
馬鹿なことを考えていたら、ガッチリ腕を掴まれて至近距離から顔を覗き込まれた。頭痛薬は飲ませてないのに、似たような臭いがするよ。内臓悪いんじゃないの?!
「おまえ、本当にリズパインの王太子妃になったのかよ?!ちょっとは見れるようになったのかと思えば、全然変わらねぇじゃん。こんなんが王太子妃?リズパインの王太子は目腐ってんじゃねぇの?それか幼児趣味?いや、いくら幼児趣味でもこんなソバカスだらけの鳥の巣頭じゃ、素っ裸でまたがられても反応しねぇか」
品のないひき笑いしてるのはどこのゴロツキだよ。あ、ニングスキーの王太子だった。
「国を捨てた王太子がなんかギャンギャン吠えてるな。いや、国がないならもう王太子じゃないか。うわー、家なし職なしのくせに偉そうにも程があるわ。あぁそうそう、ここにくる途中に藪の中でニングスキー王見っけたからね。リズパインの騎士が捕縛してたよ。ニングスキーの軍勢も、そろそろアダムパパリンが掌握するんじゃないかな。あ、山の中の山賊達だけどね、一時的にリズパインに雇われて傭兵になってるから。山越えて海から逃げるのは諦めた方がいいよ。という訳で、大人しく降参することをすすめるけど」
「誰が!」
腕をギリギリと強く握られた。
「おまえを人質にすればいいだけだ」
「アハハハ、私に人質の価値があると思ってるの?素っ裸でまたがっても反応できない女なんでしょ」
「それでも王太子妃だ」
「もしもよ、あんたの父上の命令で私があんたの嫁になったとして(想像だけでもゲロ吐きそう)、あんたは私を助ける為に兵をひく?勝てる戦を諦める?」
ザンザの顔色がかわる。一瞬にして私を見捨てる選択しやがったな。まぁ、こいつならば見捨てる一択だよね。気にせずに刀を振るう様が目に浮かぶよ。
私との会話に集中したおかげで、ザンザの意識がティアラから離れた。私は指笛を三回吹いた。もちろんうちの家族は山賊の合図を知っている。なんちゃって王宮とはいえそれなりの広さはあるから、響く指笛はご飯の合図に最適なのよ。
そして、趣味ではなく生活の糧として狩猟をしているスチュワートをパパリン達と一緒に縛るとか、あいつらは馬鹿過ぎる。罠を仕掛けるプロのスチュワートは、縄使いの達人よ。SMの女王も真っ青な縄テクで、縛るのも解くのも大得意なんだから。
で、私の合図を聞いた家族は、みんな揃ってザンザに向かって突進してきた。
あれ?逃げろの合図なんだけど。
パパリンはザンザの腰にしがみつき、ママリンとティアラはザンザの両腕を捻り上げ、スチュワートはザンザの後ろからスリーパーホールドを決めている。
「よくもうちの娘を馬鹿にしてくれたわね!」
「うちの妹は無茶苦茶可愛いじゃない!あんたこそ目腐ってますわ」
マロンまで手綱を引きちぎり、兵達を蹴り飛ばしまくっている。
あれ?アダムの登場を待たずにザンザ達を制圧できちゃってない?
自給自足の王族は逞しいな。あ、領主家族か。
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