第2話 私こそが適任だもの

「ハイ、ハイ、ハイ!」


 姿勢良く右手をピシッと上げた私に、みんなの視線が集中する。


「ロッティ、今は静かにしてなさい」

「陛下!質問があります」


 私は甲冑の使者の前に歩み寄った。


「この方は、リズパインの使者様で間違いないんでしょうか?」

「そうだ。リズパイン王国騎士団第一団長の……」


 いや、名前忘れちゃ駄目だよ、パパリン。


「イーサン・ジェルモンド。爵位は伯爵」

「そうそうジェルモンド伯爵だ」


 イーサンは、初めて甲冑の面を外した。いやいや、さすがにずっと面かぶってたとか、普通に失礼よ?礼儀作法の授業云々の前に、十三歳(+二十七歳)の私だってわかるからね。


 イーサンの顔には十字に刀傷が走り、それが逆に渋みというか男らしさを増しているように感じた。年齢は30そこそこ(後で三十三歳って聞いた)なんだろうけど、四十歳のパパリンよりも落ち着いて貫禄があった。


「初めまして、イーサン様。私は第二王女のシャーロットです」


 きちんとスカートの端を摘んで片足をひいて淑女の礼をする。私だってやれば出来る子なんだから。


「シャーロット姫、お初にお目にかかる」

「イーサン様は、うちを蹂躙しにきたの?」

「ロッティ!!」


 慌ててパパリンがバタバタと階段を降りてきた。いやね、王様なのに落ち着きがないわよ。


「まだ子供の言うことです。寛大な心でご容赦願います」

「失礼ね、もう13よ。子供扱いは止めてって、いつも言ってるのに」


 私が腕を組んでブーと頬を膨らませると、パパリンは私を背中に隠すようにしてペコペコと頭を下げた。


「お気になさらず。大抵の子供は私を見ると怯えて失禁するくらいなのに、お姫様はずいぶんと豪胆だ。将来が楽しみですな」

「あら、豪胆は女性に対する褒め言葉じゃないよ。で、イーサン様はうちを蹂躙するの?しないの?」

「戦になるかどうかはあなたの父上次第だ」

「うちにリズパイン王国と戦えるだけの戦略があると思う?ある訳ないじゃん。みんな、鍬くらいしか持ったことがない農民ばかりだもの(パパリンを含めね)」

「では、こちらの親書を受け取っていただき、リズパインの統治下の元、自治領主になる書面にサインを。また、数ある契約書にも同様にご同意願いたい」

「ふーん、それちょっと見せて」


 私はパパリンに差し出された書類に手を伸ばして奪い取る。パパリンが騒ぐが適当にいなす。


「あー!」

「はいはい、見るだけだから」


 小難しいことが細かく書いてある書類の中から、目当ての一枚を引っ張り出した。


「リズパイン王家と婚姻を結ぶ為に、キスコンチェ王家に血縁のある年頃の姫をリズパイン王国にうんちゃらかんちゃらってこの書面、つまりは蹂躙されたくなければ、それなりの地位のある女を一人、女好きなリズパイン王のハーレムに入れろってことよね?」


 なんか色々書かれているけど、要約したらそれで間違いないない筈。そして私はこの書面の抜け穴を見つけてしまった。私、偉い!


「いや、まぁ、なんか身も蓋もない言い方だが、そんな感じだな」


 それを聞いたティアラが、今度こそ本当に失神した。


「ティア?ティア!」


 スチュワートがティアラの頬を叩き、肩を揺さぶる。


「なら、それは私が行きます!」


 私はフンッと鼻息荒くイーサンに詰め寄った。


「お姫様がか?」

「そうよ!だって、この書面の中には厳密な年齢制限はないじゃない。年頃のって書いてあるけど、私だって十分にお年頃だわ。十三歳だもの。そちらにつく頃には十四歳になってるわ。うちの国では結婚できる年よ」

「まぁ、うちの国でもそうだな。男子は十六歳だがな」

「ロッティ!何を言い出すんだ」


 パパリンの悲痛そのものみたいな叫び声に、ママリンは号泣、ティアラは床にのびたままだし、スチュワートはティアラの頬をひたすらペチペチ叩いて起こそうとしている。そんな中、私だけは両足を開いて立ち、腕を組んでふんぞり返った。


「あら、私こそが適任だもの!」

「「「どこがだよ!」」」


 ★★★


 それからイーサンには退場いただき、ティアラをなんとか正気に戻して家族会議になった。


 よっしゃ!なんとしてもみんなが納得するプレゼンするぞ。

 ただ単に、絶倫王と致してみたいからって本当の理由は絶対に内緒だ。


「ロッティ、あなた私の為に……」


 涙を浮かべてフルフル震えるティアラは、我が姉ながら本当に傾国の美女だと思うよ。こんなのがリズパイン王国に嫁いだら、ハーレムの女性みんなを満足させる程の性豪が、ティアラ一人に夢中になっちゃうよ。そうしたら、ハーレム内の秩序が崩壊して、ティアラを恨んだ他の夫人達に殺されるのが先か、ダニエル王に抱き殺されるのが先かって話になるだろうね。

 でもさ、私ならよ、ハーレムに入っても相手にされるかどうかギリギリって感じじゃない?(もちろん、私の権利は主張させてもらうよ。ハーレムの女性みんな満足させてるんなら、私だけ例外は認めないってね!それに、この身体は未通だけどさ、前世の知識と技術を駆使して、絶対にダニエル王を満足させてあげるからね!)下手したら相手もされないかもだし(そしたら襲ってやる。一度でもしたら、私のテクニックにメロメロよ)。


 そんなことをツラツラとみんなの前で訴えた。


「しかし……」


 パパリン、顔が悲壮感漂い過ぎて情無いことになってるからね。ママリンとティアラは手を取り合ってずっとさめざめ泣いていて、スチュワートだけが冷静に考えているようだった。


「確かに、ダニエル王の好みは成熟した女性のようだから、ロッティが行っても相手にされないかもしれないな」


 えっ、そうなの?ギリギリですらない感じ?

 でもさ、あと数年後はわかんないじゃん。四年後にはティアラみたいなボン・キュッ・ボンな体型になってるかもだよね。すぐには無理でもいづれは……。


「そうだな。ダニエル王がロリコンとは聞かないからな。ティアラはすぐに手を出されるかもだが、ロッティならばしばしの猶予があるかもしれん」

「でも!ロッティはこんなに可愛いのに。ダニエル王が宗旨変えするかもしれないわ。それに第二次性徴期がきてしまったら……」

「いや、僕の母親はロッティにそっくりだったが、死ぬまでこんな感じだったぞ」


 それ初耳。前世はGカップセクシー女優が売りだったんですけど、今ってAマイナスもないよ。これで発育終了?挟めないじゃん!(色々とな!)


 私は十三年の人生初の衝撃に言葉をなくした。


「確かにうちのロッティは可愛いが、万人受けする訳じゃない。うまくいけば、お手つきなしで返品されるかもしれないよ」


 返品不可だからね!ってか、兄の癖に酷くない?茶髪は地味かもしれないけど、桃色の瞳は珍しいんだからね。誰遺伝子かわかんないけど、もしかしたら私にそっくりだっていうおばあちゃん?物珍しさでハーレムに残留できるかもしれないじゃん。

 それに第二次性徴期がないとは限らないからな。


「……そうね。それにポヤポヤしてるティアより、しっかり者のロッティの方が生き残れる可能性があるかもしれないわ」

「それは任せて!ハーレムだろうがどんとこいよ」


 何せ、七年間もAV業界渡り歩いてきたんだからね。基本、旧王族やお貴族様しかいないハーレムなんか怖くないわ。王族なのに自給自足の生活のせいで、毒キノコとか間違って食べたりなんかしたことが多々あるせいか、毒とかにも耐性あるし。


「ロッティ!」


 抱きついてきてオイオイ泣くティアラの飽満なおっぱいを楽しみつつ、私はピースサインを出した。

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