第86話 思えば遠くへ来たものだ

 秋の収穫を祝い、来年の豊穣を願う収穫祭。出来たてのアマノガワ王国に収穫した野菜などはないのだが、お祭りという文化は人の魂に紐付いているらしい。


 そんな訳でアマノガワ王国では建国祭を催して秋のお祭りを楽しむ事とした。



「いよいよ、明日だな」


 

 部屋のリビングで夕食を食べ終えた俺たちは、ミレーヌさん、イレーヌさんが入れてくれたお茶を飲みながら、明日に控えた建国祭と、午後からの人生最大のイベントとも言える結婚式を控え、思えば遠くへ来たものだと感慨深くなる。



「トーマ様、式を前にして申し訳ありませんが、セバスチャンはダマと共に傭兵王の国ヴェグランドへと逃亡したらしいとの連絡がサディスティアからありました」


 そう報告したのはレオノーラさんだ。「お食事前にご報告しようと思ったのですが」と申し訳なさそうな顔をしている。


「いや、構わないよ。食事前は結婚式の話題で盛り上がっていたからね」


 コルーサ草原での戦さは、我がアマノガワ王国の完勝で終わった。その後にサディスティア王国とは和睦をしている。勿論、先方からの慰謝料は貰っているがな。


 旧アザトーイ王国の元国王が愚かな王であった事は間違いないが、それを増長させ国が疲弊する様に誘導したのはサディスティア王国だ。その結果、多くの王国民が苦しんだのだ。ごめんなさいでは済まされない。



「お兄様はヴェグランド国ですか。厄介な国に逃げましたわね」



 脱獄した元国王のセバスチャンは未だ行方不明だった。サディスティア王国からもたらされた情報では、外務大臣だったダマに連れられ傭兵王の国ヴェグランドへと逃亡したらしい。


 つまり、セバスチャンの脱獄を企てたのはダマって事になる。連れて歩く理由は、ツキノガワ王国に攻め入る大義名分ってところだな。『アザトーイ王朝復活の為に!』みたいなヤツだ。


 続くレオノーラさんの報告で、ダマはダマで俺が渡したダイヤをネコババしたとかの報告もしてくれた。


「ヴェグランド国? そんなに厄介な国なのか?」


 そこら辺の他国の諸事情はリオンの記憶を遡っても疎い。


「はい。戦争狂で有名な傭兵王が纏める国ですわ。昨年、帝国と北の平原を巡って小競り合いがしたぐらいです。今の帝国に噛み付くような国はヴェグランド国ぐらいですわ」


 

 大陸最大戦力を有するグレードファング帝国と事を構えるとか、ヴェグランド傭兵王は狂犬かよ。



「疲弊しているサディスティア王国では、ヴェグランド国内での調査は無理か」


「何でだよ、トーマ?」



 剣術であれば大陸最強クラスのクスノハだが、こと政治や戦略においては残念レベルだよな。


「クスノハ様――――」



 すかさずシルフィが説明をしてくれる。



「今のサディスティアは財務面ではアザトーイ王国からの回収もできず、兵を動かすのにも軍事費をさいています。また、お兄様のゲートシールドで多くの兵士が南国へと飛ばされています」


 

 分かっているのか、いないのかフムフムと頷くクスノハ。



「更には剣豪のミザリーさん、上級魔術師のオーベルトさんは未だ帰る気がなく、アマノガワ王国に留まっています」


 

 そうなんだよな。クスノハとシルフィが捕縛した上級士官の二人。ミザリーさんはクスノハに弟子入りして、オーベルトさんはシルフィを師匠とか呼んじゃっている始末。


 サディスティア王国からは二人を返せとか言われているが、本人たちに伝わたら「剣将の片鱗が見えてきたんだ、帰らねぇよ」とか、「吾輩はこの地に骨を埋めると決めたわい」とか、まったく帰る気がない。ちなみに剣将とは剣豪の一つ上のくらいになるスキルだ。



「つまり、サディスティアがヴェグランドに目をつけられたらヤバいって事だな」


「おお、分かったじゃないか、クスノハ!」


「まあな! オレでもそれぐらい分かるぜ!」


「オホホ、サディスティアに目をつけているのはヴェグランドだけでは御座いませんわ」


 不可解なことを言うルミアーナ。


「どういう事だ、ルミアーナ? 第三国がサディスティアを狙っているのか?」


「トーマ様、次はどこの国を買いましょうか。オホホホホホホホホ」


「「「………………」」」



 まじか?


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