第76話 決着

「ほれ」


 

 俺は茫然自失しているダマに、10センチ強の大きなダイヤモンドを放って渡す。


「おわッ」っと軽くお手玉してキャッチしたダマ。先に手に持っていた借入金の契約書がヒラヒラと落ちる。



「借金代だ。白金貨5万枚の価値が有る。も一つ、ほれ」



 白いリボンで結ばれた、クルッと丸まった紙を投げ渡す。



「グレートファング帝国の皇室鑑定士の鑑定書だ。価値は帝国が保証している。その価値に文句があるなら帝国に言ってくれ」



 俺の話を聞いているのか、いないのか。ダマは受け取ったダイヤモンドの輝きに魂でも抜かれたのか、「……美しい」と呟いては、ぼうってと見ている。


 10センチ強のダイヤモンドとなれば国宝クラスだ。希少価値的には、このクラスのダイヤモンドを持つ国は、アマノガワ王国、グレートファング帝国、アザトーイ王国についで4国目となる。



「オホホ。ダマ外務大臣、ご納得いったかしら」


「クッ、あぐ、い、いや、くう」



 ダマは何かを言いたいようだが、ダイヤモンドとルミアーナを交互に見て二の句が出てこない。



「ルミアーナ、これはどうする?」



 俺はダマの手から落ちた借金の契約書、いわゆる借用書を拾い、ルミアーナに渡した。


 ルミアーナは文面に目を通して、コクリと頷く。



「ダマ外務大臣。ご納得いったならこの契約書に受け取りのサインを頂けるかしら」



 その後に、何度もダイヤモンドと借用書を見比べて、文句の付け所が見つからなかったダマは、しぶしぶと契約書に受け取りのサインをした。



「アマノガワ国王。名を……、名を聞かせて頂いてよろしいか?」


「ん? 俺か? 俺はトーマ・アマノガワだ。まだまだ名も知れ渡らぬ小国の王様をやっている」


「……トーマ・アマノガワ。その名、覚えておきましょう」



 ダイヤモンドを懐にしまったダマは、「フン!」となけなしの声を出して、食堂を出ていく。


 俺が残されたアホダインに目を向けると「ひぃ」とか言って、アホダインもダマを追うように食堂から出ていった。


 食べ物が散乱した食堂にいるのは、俺、ルミアーナ、そしてセバスチャン元国王・・・の三人だけだ。



「クソデブめ! この俺様になめた事をしやがって!」



 そう言って立ち上がったセバスチャン元国王・・・



「貴様、よくぞ俺様に貢いでくれた。これからも貢ぐ事を許すぞ。俺様は寛大だからな! ガハハハ」



 ハテ? 



「愚妹のルミアーナ。俺様の奴隷となりにきたのだな。お前は顔だけはよいからな。グフ、ぐひひひ、今から俺様の寝室に来い、たっぷり楽しま――」



 俺のルミアーナをどうするって?


 ああ、これが殺意か。



「楽しませて貰お――グビャあああああああああ」



 全力顔面アイアンクロー。



「黙れッ!」



 ぁああ、コイツ殺しちゃおうかな。



「おぎゅううううううううう」



 全力顔面パンチ。



「ばギャああああああああああ」



 サテ。トドメカ。コロそ。



「ウィンドカッ『トーマ様!』」



 ルミアーナが俺の背中に抱きついてきた。



「トーマ様! 怒りで人をあやめてはなりませんわ」


「ダイジョウブだ、イマカら、コロすから」


「トーマ様ッ! キャッ」



 俺はルミアーナを振りほどき、倒れている糞虫の頭をドカッと踏みつけた。



「イッてコイヨ、大霊カイ」


「ぼぎゅあぎゃよば」


「ヘブンズゲ――――」



 ルミアーナが俺に唇を重ねてきた為、魔法詠唱が止まる。



 ルミアーナ?



 見れば気丈なルミアーナが涙を流している。ルミアーナを泣かせたヤツがいる。糞虫か!? やはり許せん!



「おやめ下さい、トーマ様。わたくしは大丈夫です。だから怒りを鎮めて下さい」



 ルミアーナの瞳から溢れ出る涙。濡れるルミアーナの瞳に映っていたのは、怒りに我を忘れた俺の姿だった。ルミアーナを泣かせていたのは俺だったようだ……。



「しかし、コイツはルミアーナを……」


「分かっていますわ。しかし、トーマ様がお作りになる国は力と怒りで悪を裁く国になってはいけませんわ。この奢侈生活しゃしせいかつ(豪華な生活)を続けた挙げ句、国を滅亡に至らしめた糞虫とて、法で裁き、法をもって鞭打ち獄門阿鼻叫喚火炙り百叩きの刑に処すべきですわ」



「……あ、ああ。そうだな。そうでなくてはいけないな」



 力と怒りと殺意とで人を殺す事を殺人という。一国の王がそれを行えば、法治国家が成り立たなくなる。



「ありがとうルミアーナ、俺をとめてくれて……」



 それでも腹の虫が治まらないので、糞虫の頭を足でぐりぐりする。



「いえ、トーマ様は私の良人おっととなられるお方。共に歩む者として当然の事をしたまでですわ」



 ルミアーナの足ももぞもぞと動き、糞虫の背中をぐりぐりさせていた。



「トーマ様がこれ程お怒りになられたのは、わたくのため、心から嬉しく思いましたわ」


「ルミアーナ……ありがとう。ことが片付いたら結婚しような」


「はい……」



 俺とルミアーナは糞虫を足蹴にしながら、結婚を誓う口づけをした。





 










……あれ? 死亡フラグじゃないよな? もうこれで全て片付いたよな?



 

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