第54話 【エルフリーデのお話】―3
第二八代グレートファング皇帝にして、四百年の歴史を持つ帝国において初代女帝となり十二年が経つ。
十二年前に先代の皇帝が急死してから、妾は帝国の為に休む事なく身を粉にして尽くしてきたつもりだ。
そうだ。妾はひたすら働いてきたのだから、静養が必要だ。そうだ。そうでなくてはならないな。
「ふぅ〜、いい湯だ」
◆
【一時間前】
「お母様! 肌が輝いてます! お肌ツルツルです!」
「ママぁ〜、ツルツルだよ」
ルミアーナに連れられて四人で入った神の湯。
トーマ国王は変わった形の家に戻って
いき、親衛騎士たちは戸口で見張りをすると言いはり、ブラントーとクスノハは再び手合わせをしている。
神の湯とは、まさに神の湯だった。執務で疲れた体は瞬く間に取れ、更に体は輝くかの様に艶々に、髪の毛はサラサラ、頰はツルツル、奇跡の湯と言って間違い無かった。
「オホホ。いかがございますか、我が国が誇る神の湯のお湯加減は。僅かばかりですが、若返りの効果も御座いましてよ」
はい?! ……妾の聞き違いか?
「……いま、何と言った?」
「オホホ。若返りですわ」
「……
「オホホ。この聖紋にかけて真実と言いますわ」
ルミアーナが左腕をずっと抱いていた右手を離すと、そこには聖紋があった。やはりルミアーナもただ者では無かったな。
「ルミアーナ。貴女こそが使徒なのか?」
「陛下、お二人だけでのお話し、宜しいですか?」
ルミアーナが何を語るのか。妾を信じて話しをするのならば、妾も答えねばなるまい。
妾はミザリアにノーラを連れて湯船から上がらせた。
エメラルドグリーンの湯には妾とルミアーナの二人だけになった。
「そうでルミアーナ、お主はサセタ神様の使徒なのか?」
先ほどの大聖堂でのルミアーナの徳の高さを思い出す。
神聖国の教皇とはワインを交わす仲にあり、聖女を経て教皇となったオーデリアの徳の高さも知っている。
それでなお、ルミアーナの徳の方が高いと感じたのだ。
「エルフリーデ皇帝陛下、今から話す事は他言無用、教皇様にも内密にして頂く事を約束して下さい」
妾に向けても上からなもの言いだったルミアーナが、真剣な瞳で妾を見つめている。
ここアマノガワ王国が何処に有るのかが、まず分からない。ダイヤモンド鉱床を保有し、サセタ神様が住まう大聖堂、いや神殿が有り、奇跡の湯が湧き出る温泉がある国。
国王トーマは世界初の錬聖スキルを持ち、彼を慕うクスノハは世界最年少の剣聖になろうとしている。
そして、妾を見つめる聖紋を持つ少女が持つ力とは……。
「分かった。妾の胸の内に留めておく。その前に確認をするが、そなた達が我が帝国に来た目的は、我が帝国と友好関係を結ぶ事と考えて間違いないか」
「はい。一つ目の目的は、大陸で五指に入るグレートファング帝国との友好関係、及び我が国の後ろ盾となって頂きたい事ですわ」
「一つ目? 他にもあるのか?」
「はい。二つ目は帝国内における我が国の産物の販売を認めて頂きたく存じあげますわ」
「ダイヤモンドの販売という事か」
「はい。一つはダイヤモンド。もう一つは化粧水になります」
「化粧水?」
「はい。いま入っているこちらの神の湯を、化粧水としての販売をトーマ様は考えていますわ」
「この神の湯をか? 高価過ぎて商売に成らぬだろう」
「その点は、鑑定スキルを持つトーマ様が、市民でも手が出る価格に薄め――」
「ちょっと待て! トーマ国王は幾つスキルを持っているのだ!」
錬聖スキルに、重力魔法に転移魔法を使うトーマ国王。更に鑑定スキルまでも使うとなると、他にもスキルを保有していると考えて間違いない。
「オホホ。そうですわね、十は有るのではないでしょうか」
「……トーマ国王とは何者なのだ」
「オホホ。わたくしたちの将来の旦那様ですわ」
「ふぅ〜。話の腰を折ってすまなかった。化粧水か、我が帝国の女性が泣いて喜びそうでなによりだ」
「では三つ目ですが――――」
妾はルミアーナの提案に同意をする。我が帝国がより栄えるのに否はない。
「では、お教えいたしますわ。わたくしがサセタ神様から賜ったギフトは聖神ですわ。オホホホホ」
頭がおかしくなりそうだ。聖神など聖典の中で語られる伝説のギフトだ。
目の前にいる美しい少女は、まさしくサセタ神様の使徒であったのだ。
ルミアーナは我が帝国の後ろ盾になってほしいと言っていたが、我が帝国こそが、アマノガワ王国に後ろ盾となってほしいぐらいだ。
良き出会いを与えてくれたサセタ神様に感謝しかない。
「では、我が国王に会いに参りましょう。オホホホホ」
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