第51話 神の地

【作者より】

第48 話の皇帝登場場面を改稿しました。三人の女性騎士がお供にいます。

《玉座の奥から三人の女性騎士を引き連れて出てきた女性》


――――――


 アレを皇帝陛下にと言うルミアーナ様。オホホと左手を口に当てて笑う、その手にまばゆく光る大粒のダイヤモンド。


 皇帝陛下もそのダイヤモンドの指輪に気が付き、目を大きく見開いている。


「皇帝陛下。陛下にこちらの品を献上いたします」


 異空間収納に繋がるショルダーバッグから、手のひらサイズの紫色の宝石箱を取り出した。


 片膝を付いたまま宝石箱を受け取る陛下。うぐっ! 大人の艶やかさが漂う大きな胸の谷間にどうしても目がいってしまう。


「トーマ様ッ!」

「は、はい!」


 ルミアーナ様に怒られた。婚約者の隣で鼻の下を伸ばしていりぁ、怒られるわな。


「こ、これは……」

「ダイヤモンドの指輪に御座います、陛下」


 皇帝陛下は手にとった宝石箱の蓋をゆっくりと開けた。光を浴びたダイヤモンドが光り輝く。


「う、美しい……」


 この世界にはダイヤモンドのカットでブリリアントカットやビーナスアローカットなどの超多面カットは存在していない。


 超多面カットによるダイヤモンドの輝きは、表面だけの輝きだけではなく、内部に閉じ込めらた光の反射や、虹色の輝き、光りの暗影さえもが美しさを表現する。


「これを……妾に?」

「はい」


 しばらくダイヤモンドをボ〜っと眺めていた皇帝陛下であったが、スクッと立ち上がると、一つ咳払いをした。


「素晴らしいダイヤモンドだ。妾の心が囚われる程に、これ程の宝石は見たことがない。しかし、これはまだ受け取れないな」


 一度は手にとったダイヤモンドだが、宝石箱の蓋を締めて俺に渡した。


「ママ〜、きれいなゆびわは、もらわないの〜」

「ノーラ、タダより怖いものはないと言う言葉を覚えておきなさい」

「はい、ママ。パパがタダでくれるプレゼントはもらわないようにするね」


 いえ、それは貰ってあげなさい。


「それがいいわね」


 それがいいのかよ! パパ泣くよ!


「イリーネ、宰相を呼んできなさい」

「はい、陛下」


 皇帝陛下と一緒に謁見の間に入ってきた女性騎士の一人が奥の扉へと姿を消した。


「アマノガワ王国と言ったな。トーマ国王は我が国を知っているだろうが、妾はそなたの国を何も知らぬ。それでは話にはならぬと思わぬか?」


「は、はい、しかし我が国は―――」

「オホホ。我が国はまだ建国したばかりですわ」

「まだ人も少ないしな、です」


「ハハハ、まだ若い国なのだな。話を戻すが、これがサセタ神様からのご寵愛とどう関係しているのだ」


「はい。我が国にはダイヤモンド鉱床が御座います。そして、その土地に我らを導いてくれたのが、サセタ神様からのお告げでした」

「サセタ神様のお告げ……。なるほど、天啓の儀か。しかし、ダイヤモンド鉱床の価値は理解するが、それだけで国を起こすというのは、浅慮ではないか?」


 国を起こすと言う事は簡単ではないのだろう。現代にいた時には、国を作るなんて考えた事は一度もない。日本という国に生まれ、働き、死んでいく。会社を起業する人はいても、国を作ろうなど誰しもが微塵も考えたりはしない。


 しかし、この異世界で、僅か十六歳にして国を起こそうと考えた少女がいた。


「オホホ。浅慮などでは御座いませんわ。我が国、国土こそが偉大なる神、婚約神サセタ・イ・ケッコーン様の安らぎの地に他ならないのですから」


「ほう、神の地とは大きくでたな。神の地とは神聖国を指す言葉ではなかったか?」

「オホホ。わたくしも神聖国の教皇様は尊んでおりますわ。されど神聖国は聖母ネーラミースが生誕した地であり、サセタ神様のゆかりの地では御座いませんわ」


「ハハハ、それを教皇が聞いたら不興を買いそうだな」

「オホホ。教皇様も我が大地を踏めばご納得して頂けますわ」


 ルミアーナ様、そんな大口を叩いて大丈夫か? 神聖国とか敵に回したら面倒くさいぞ。


「宜しければ、皇帝陛下にも一度、我が国を見て頂きたいと存じ上げますわ」

「神の地か。妾も大司教として興味が無いわけでもないが、何日も国を開けるわけにはいかぬ身だからな。残念だよ」


「見るだけでしたら、さしてお時間はかかりませんわ。トーマ様、門をお願いいたしますわ」


 皇帝陛下はアマノガワ王国を知らないと話の余地が無いといい、ルミアーナ様は国を見せると言った。


 ここは一度、ご招待した方が話が早そうだな。俺は立ち上がり「失礼します」と陛下にお断りをする。


「ゲート!」


 謁見の間に魔法の扉が顕現する。


「では陛下、トーマ国王が納める地、アマノガワ王国にご招待いたしますわ。オホホホホホ」


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