第50話 アレってなんだ?
【作者より】以下改稿しました。
作品に出てくる『刻』を『紋』に変更。聖刻→聖紋、賢刻→賢紋。
――――――――――――――――
「トーマ様、左手を皇帝陛下に」
あ〜、アレってソレの事か。俺は左手を開き、皇帝陛下にソレを見せた。
「なっ!? せ、聖紋だと!」
俺の左手に刻まれた聖紋を見て皇帝陛下の瞳が大きく見開いている。
「ち、近くで、近くで見せてくれぬか」
「陛下! この者たちをお信じになるのですかッ!」
ミザリアと陛下に呼ばれた銀髪ポニーテールの少女が俺の聖紋を怪しむ目で見ている。
「ミザリア、
「嘘か真かは関係ありません。この者が信用出来ないだけです!」
彼女の言うことは正しいな。初見の者を国の最重要人物に無闇に近付かせるのはナンセンスだ。
「相変わらず硬いな。では妾がそちらに行くとしよう」
「ママ〜、あたしもいっていい?」
「よいぞ。聖紋を見る事など生涯に一度の機会さえも無いからな」
皇帝陛下が幼い第二皇女を連れて上座の階段を降りてくる。その所作にも帝国の偉大な皇帝としての威厳さに満ちていた。
「お、お母様ッ!」
「ミザリア、人を見る目を養え。貴女が師として崇めるブラントーは今なにをしている?」
剣聖アゼスフォート伯爵は、青い顔で正座して反省しているようです。
「せ、先生! 先生がなぜ正座を!?」
「ミザリア、分からないのか? ブラントーの悪い癖がでただけだ。気に入った者がいれば所かまわず剣を交える悪い癖がだ。よもや謁見の間でそれをするとは妾も驚いているがな」
青から紫へと顔色を変えるアゼスフォート伯爵。さすがの剣聖も皇帝には頭が上がらないようだった。
「してブラントー、それ程にそこな娘はお主を駆り立てる物を持っているのか」
「はい陛下。このブラントー、老いたとはいえ、剣を交えて膝を地につけたのは、この十年ありませなんだ。久々に本気を出せる相手と剣を交えた事で、ここが謁見の間である事をとんと忘れてしまいましたわ」
「ほう、そこな娘は、剣聖に土を付けさせる程の腕前だと?」
「はい陛下。このクスノハ嬢は十六にしてサセタ神様から剣王のギフトを授かっております。更に言えば額に薄っすらと剣紋が浮き出ております。剣聖への覚醒の日はもう間もない事と思われます」
「えっ、剣王? 十六? 私よりも年上?」
ミザリア様はクスノハ様が自分より年下だったと思っていたらしく、剣紋よりもそちらに驚いていた。
「えっ、剣紋!? オレが剣聖! トーマ、鏡を出してくれ!」
正座から子犬のように
「ステイ! ハウス!」
「うぐっ」
クスノハ様は、俺の手前で小さな体を更に小さくして足を止めた。
「はい、鏡です。今はおとなしくしていて下さいね」
「は、はい……」
珍しく「はい」と答えたクスノハ様は、鏡でオデコを見ながらニヤニヤとしている。そうこうしている間に皇帝陛下がノーラ様を連れて、俺の前まで来ていた。
「どれ、聖紋を見せて貰おうか」
「これが俺……わ、私の聖紋です」
皇帝陛下は俺の前に片膝で座り、俺の左手を手に取り、マジマジと見ている。
うわっ! めちゃめちゃ良い匂いがする。少し上目使いで陛下を見れば、大きな胸の谷間が目に飛び込んできた!
デカい! いやいや、いかんいかん。
「まさにサセタ神様の紋……。お主……、いや、トーマ国王はサセタ神様の使徒なのか?」
「私が使徒? い、いえ、そのような者では御座いません」
「ならば何故、聖紋が……」
「オホホ。我がアマノガワ王国はサセタ神様に
うわっ、皇帝陛下を相手にいつものオホホが出ているよ。大丈夫か!?
「サセタ神様に愛でられているとは、どういう意味だ?」
「オホホ。トーマ様、あれを皇帝陛下にお渡し下さい」
アレか、アレだな、うんアレだ、アレ、アレ、アレ……なんだアレって。あれ? デジャヴを感じるぞ?
――――――
【作者より】
本編の中でアゼスフォート伯爵が丁寧語で皇帝と話をしているのは、二人の中がそれほどかしこまった中ではないからです。誤字ではありませんので、念の為にご連絡。
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