第32話 クスノハの思い

「なにそれ!」

「き、綺麗……」


 夕方になり、クスノハ様とシルフィが魔物退治から帰ってきた。


 俺はキッチンで夕食のスープを作っていた。ソーラー発電により、部屋の灯りはもちろん、IHコンロや冷蔵庫も機能している。


「オホホ。婚約指輪ですわ」

「「婚約指輪ッ!」」


 ビーナスアローカットにより光り輝くダイヤの指輪。隠しもせずにチラチラと輝かせていれば、誰でも直ぐに気がつく。


「オホホホホ」

「そ、それってダイヤモンドか!?」

「(ぶつぶつ)……婚約指輪婚約指輪婚約指輪」


「トーマ様がわたくしの為に見つけてくださったのですわ!」

「ズリィッ! オレも欲しいぞトーマ!」

「いいですよ」

「「「えっ!?」」」


 カウンターキッチンからルミアーナ様たちの話を聞いていた俺。ダイヤモンドの原石はまだあるから、指輪を作る事は出来る。


「ト、トーマ様。婚約指輪はお互いが愛しあってから贈る物ですわ。クスノハさんにはまだお早いと思いますわ」

「そ、そっかな?」


 確かにクスノハ様も、シルフィもサセタ神様のお告げで今こうして一緒にいるだけだ。


「トーマは、オレが嫌いか!?」

「えっ」


「オ、オレはトーマが好きだ! わ、分かんねえけど、す、好き……なんだと思う……」


 勝ち気で、可愛い瞳のクスノハ様が赤い顔をしながらも、真剣な目で俺を見ている。


「小さい時から男に混じって、剣の修行をやってきた。凄えって男は何人かいたけど、一緒にいて楽しい、面白えって思えたのはトーマだけだ! こ、これが恋とか愛とか……わ、分かんねえけど……」


 一瞬だけ俯いたクスノハ様。


「オレはトーマが好きだ! トーマは……、トーマはオレが嫌いか?」


 紅顔した顔に、薄っすらと涙を貯めているクスノハ様。


 俺は今が幸せだ。右も左も分からない異世界にきたのに、不安なんか最初から一つも無かった。それはルミアーナ様が、クスノハ様が、シルフィが居たからだ。


 ずっと一緒に居たい。ずっと、ずっと一緒に居たい。だから……。


「俺もクスノハ様が好きだよ。ずっと一緒に居たい。一緒に暮らしたい」

「トーマッ!」


 えっ?


 クスノハ様がカウンターキッチンを飛び越えて、俺に抱きついてきた。


「へへへ」

「あ、危ないぞ、包丁持ってんだから」

「そんなヘマはしねえよ」


 !!!?


「クスノハさん!」

「クスノハ様!!」


 柔らかく、小さな唇が俺の唇に重なっていた。そして、俺の耳もとで囁くクスノハ様。


「(ぼそぼそ)……オレのファーストキスあげたんだから、責任とれよな」

「分かってるよ」

「……約束だぞ」

「ああ、勿論だ」


 そんな可愛いクスノハ様の頭を優しく撫でた。クスノハ様も細い腕で俺をギュッと抱きしめてくる。そんな時間がしばらく続くと「うぐっ……えぐっ……」と啜り泣く声が聞こえて、そちらを見れば、シルフィが顔を両手で抑えて泣いていた。


「ぅ……うぐっ……ぅク……」

「シ、シルフィ?」







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