第12話 魔法の暴走で激ヤセしました

「へえー、ここが開拓村か」

「かなり朽ち果てていますわね」

「こんな所を開拓できるのかしら」


 草に覆われた廃村。ここに人がいたのは五十年以上も昔の話だ。全ての建物が朽ち果て、とてもじゃないが中に入る事は不可能だ。


「ではトーマ様。さっさとやっちゃて下さいませ」

「何をですか?」


 この状況で何をさっさとやるのだろうか?


「トーマ様であれば『錬成』のスキルを習得出来るのではありませんか?」


「はあ」


 錬金や錬成は造形系スキルでも高度なスキルだ。


「それを覚えて、ここにわたくし達が住むお屋敷を作ってくださいまし」


 なるほど。『大工』のスキルとかで建築するのではなく、チート魔法でちゃっちゃと家を建ててしまおうって事だ。


「分かりました。では……」


 俺は丸太のような両腕を前方に突き出す。


「せいれ――うわっ!」


 俺がギフト『スキルメイク』を使っている時に、木の実がビシバシと飛んできた。近くの木の上にいたクルッテールが数匹、俺らを威嚇するかのように木の実を投げつけてきた。


「ライトニングレイン!」


 シルフィが速攻で木の上のクルッテールを雷魔法で撃ち落とした。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」


 ギフト使用中に妨害を受けたせいで、『スキルメイク』が暴走し始めてしまう。


「お兄様ッ!」

「トーマ様ッ!」

「トーマッ!」


 肉が、血が、みるみると奪われていく。『スキルメイク』は錬金術と同じように何かを無くして、新たな物を得るギフトだ。俺はたまたま余っている俺の贅肉を差し出していた。まさか暴走するとは思ってもいなかった。


「ぐおおおおおおおおおおおッ!」


 俺の半分以上の贅肉と血が消失し、暴走は終息した。


「ハア、ハア、ハア、ハア」


 俺は膝に手を当てて、体を丸めて、ゼェゼェと息を吐く。


「お、お兄様?」


 心配そうにシルフィが声をかけてくれた。家にいた時にはあり得ない言葉だ。


「だ、大丈夫……だ」


 大丈夫とは言ったものの、丸太のようだった腕はほっそりとなってしまい、でっぷりしていたお腹まわりも無くなってしまった。


「トーマ、大丈夫……じゃねえな」


 背の小さなクスノハ様の目線と合う。そもそも、この体になって手が膝につく前に、腹に当たって膝には届かなかった。それぐらいに腹の贅肉が無くなっていた。


 よく見れば丸太の様な腕は、無駄な贅肉が無くなり引き締まった筋肉の腕になっていた。


 腹を撫でてみれば、服の上からでも分かる割れた腹筋が有る。


 軽く感じる体を確認する様に飛び跳ねてみれば、ニ、三メートルは跳躍していた。


「オオーッ! 何だこれは! 軽い! 体が軽すぎる!」


 バク宙したり、前宙したりと、曲芸の様に体が動く。


「シルフィ、俺、痩せてるよな!」


 シルフィに聞いて見ると赤い顔でコクコクと頷いてくれた。


「トーマ様……?」


 ルミアーナ様も心配して声をかけてくれる。


「ご、ご心配をおかけしました」


 見ればルミアーナ様も目を見開いて赤い顔で俺を見ていた。


 …………なぜ赤い顔?


「とりあえずはスキルは覚えられ――――あれ?」


 スキルを覚えた時に、そのスキルの全容が頭の中に紐づくのだけど、あれ?、何このスキル?


「お兄様、どうかした?」


 シルフィも頬を赤く染めて僕を心配してくれた。

 

「あ、うん、スキルは覚えたんだけどさ……」


「錬成でしょ?」


「い、いや、セイクレッドフォースの『錬聖』になってた……」


 『聖』を冠するギフトやスキルはセイクレッドフォースと呼ばれ、神々の強い加護を宿している。代表的なところでは『剣聖』や『聖女』がある。


「「「錬聖ッッッッッ!!」」」


「初めて聞いたぞ!」

「ドワーフの王様に錬王がいると聞いた事がありますが……」

「お、お兄様が……」


 僕には眩しすぎる三人の美少女婚約者が、頬を薄く朱に染め、僕を見つめる熱い瞳に、恥ずかしくて頭をかく以外に何も出来ないでいた。


 僕を嫌っている筈の美少女達が、羨望の混ざる眼差しに変えた『錬聖』スキル、恐るべし!





 

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