第10話 呪われた森のクルッテール

「クスノハさんは前衛を、シルフィさんはわたくしの護衛を、トーマ様はわたくしの肉壁役ですわ」


 呪われた森に踏み入れた俺達。昔に使われた開拓村の土地を目指す。村を作ったという事は生活出来る立地条件が整っていたからだ。


「トーマ、こっちであってるか」

「はい、大丈夫です」


 俺はルミアーナ様がお城から持ってきた、昔に作成された呪われた森の地図と、俺が新たに手にいれたスキル『地形把握』を使い、方角を確認しながら森の中を進んだ。


「さっそく森の主が現れたぜ」


 クスノハ様が指した先の木の枝に、もふもふの尻尾がクルッ丸まっている可愛い猿がこちらを見ていた。


「サイレントクラウド」


 すかさずシルフィがクルッテールの鳴き声を封じる魔法を唱えた。


 近くの魔物を呼ぶべく鳴き声をあげようとするクルッテールだったが、その声が発せらる事は無かった。


「ハッ!」


 クスノハ様が投げナイフを投擲して、ナイフがクルッテールの眉間に刺さる。


 落ちたクルッテールを俺が回収して異空間収納に納める。




 それは油断だった。


「ルミアーナ様ッ!」


 木の影から飛んできた弓矢。緑色の小さな魔物。手に持つ弓には矢は無く、その弓は、ルミアーナ様に向かって飛んできていた。


 弓矢が刺さる。それはルミアーナ様ではなく、彼女をかばった俺の喉に。


「ハッ、あふ、はふ……」


 俺の丸太のような首でも、弓矢は喉の奥まで深々と刺さっていた。

 

 クスノハ様が投げナイフでゴブリンを仕留める。


 悲鳴をあげるシルフィ。


 ああ、喉が痛くて苦しくて、俺も悲鳴をあげたいのに、何故かシルフィの悲鳴を聞いて嬉しくなり、顔がニヤけてしまった。


「お兄様!」


いつも俺を嫌っているシルフィが、俺を心配してくれているのが、嬉しいんだ。でも、俺はここで死ぬのか……。


 ゆっくりと俺の太った巨体が後ろに倒れる。


「よくやりましたわ、トーマ様! わたくしが無事である以上、誰も死なせわしませんわ!」


 ルミアーナ様がアイコンタクトをクスノハ様に送ると、頷いたクスノハ様は俺の方にきて、喉に刺さった弓矢を力まかせに引き抜いた。


(あぎゃああああああああ!!)


 矢じりのかえしが、俺の喉を大きく切り裂く。


「ヒール!」


 ルミアーナ様の聖魔法で俺は一命を取り止めた。でも扱いが雑じゃありませんかね?


 でも目に涙を浮かべているシルフィの顔を見たら、またニヤけてしまった。


「な、なによ! 別にお兄様の事が心配だったわけじゃないからね! ――そ、そう、荷物よ! お兄様が倒れたら荷物運びがいなくなってしまうから!」


「オホホ。でもトーマ様、よくぞわたくしを守ってくれました。お礼申し上げますわ」


 ルミアーナ様が丁寧なお辞儀で、この俺に頭を下げた。そして、キッと森を睨んだ。


 そしてルミアーナ様がとんでもない事を言い出した。


「シルフィさん、この先の森を薙ぎ払って下さい。誰がこの森の強者か、馬鹿な魔物達に知らしめて差し上げましょう。オーホッホ」


「分かりました。激風トルネェードッ!」


 シルフィが右手を翳すと猛烈な突風が俺達の前にある深い森の木々を吹き飛ばした。


「おほぉー、シルフィっち凄えな!」

「オホホ、これで歩きやすくなりましたわね」

「お兄様。お兄様もこれぐらいの事をして、役にたってくれないとね」


 フフ〜ンと笑みを浮かべ俺を見る義妹。いやいや、俺も命をかけて役に立てたと思うんだけどな。



 切り開かれた道を歩く俺達。森の中からはゴブリンやオーク等の魔物が泣きそうな顔で俺達を見ている。野生の本能が俺らに手を出してはいけないと警告でもしているのだろうか? 


 しかしクルッテールだけは違った。俺らを見つけると泣き叫ぼうとするので、クスノハ様とシルフィで撃退した。彼らは本能よりも強い何かに動かされている。そんな気がしてならない。


「ハァ、ハァ、少し休みませんか……」

「「「…………」」」


 切り開かれた道とはいえ、デブの俺にはきつい道のりだった……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る