【よし、国を買おう!】〜魂が異世界転移したらキモデブかよ!でも激ヤセからのモテ期到来?美少女達と楽しく辺境生活、からの秘密国家を造ります。国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです

花咲一樹

第1話 キモデブ転移とか無しだろ!

『誰かに喋ったら殺すからね』


 隣の席に座る美少女から渡されたメモにはそう書かれていた。


 隣に座り、プンプンと怒っている女子生徒の名前はシルフィ・ツンデーレ。ツンデーレ男爵家の長女にして、学校でトップスリーに入る美少女らしい。うん、確かにめっちゃ可愛い!


 そして俺はリオン・ツンデーレ。ツンデーレ男爵家の三男であるらしい。つまり、隣の美少女は俺の義妹であるらしい。


 なぜ『らしい』のかと言うと、俺はいわゆる現世から異世界へ、魂だけの転移が行われてしまったからだ。




【階段から落ちた男A】


「あっ」


 高校を卒業して、働いた先はアパレル系の仕事だった。人と話すのは苦手ではないと思っていた。


 しかしクソ上司とは反りが合わず、好きになった同僚の女の子に告白したら鼻で笑われ、「ダサヲタが私に告白とか、キモいんでやめてよね」などとも言われ、それ以降は職場の人達とも気まずい雰囲気になった。


 上司との関係もよく無かったから、ついでに会社を辞めた。


 就職活動も上手くいかず、結果は二週間の引き籠もり生活。


 食べる物も無くなってきたので、仕方なくアパートの部屋を出て、近所のスーパーに買い出しに行く時だった。


(まじかよ)


 スマホを見ながら降りたアパートの階段を踏み外した俺。天も地も分からぬまま転げ落ち、頭を強打したためか意識が遠のいていく。


(マジで……ヤバい……)


 最後に思った事は部屋のお宝達の安否だった。あんな物が散らばっている部屋を見た親はなんて思うのだろうか……。


(死んだら異世界転生とか……無いか)


 そして俺は完全に意識を失った……。




【階段から落ちた男B】


「あっ」


 学校の階段を僕は走って降りていた。ニ百キロ近くあるデブの僕。太った大きなお腹で足元も見えない。走って降りた階段を踏み外したのは至極当然の結果だった。


 今日の午後、コンカッツ学院では信仰している婚活の神様であるサセタ・イ・ケッコーン神様から天啓が降りる『婚活神サセタ・イ・ケッコーン様の天啓の儀』の儀式がある。


 その儀式に参加している人達の中で、サセタ神様から婚約者が選ばれる。言わばお見合いイベントだ。


 僕の家はサセタ神の敬虔な信者で、僕も義妹も、サセタ神を崇めるコンカッツ学院に在席している。


 そして十六歳になる年、卒業を間近に控えた晩秋にこの儀式が行われる。多くの場合、学院生活中に仲良くなった男女が、カップルとなって卒業していく。


 僕も最初はその気でいたけど今は違う。学院生活では友達も出来ず、当然にして女の子の友達も出来ず、キモデブ、豚デブと罵られる日々を過ごしただけだ。

  

 そんな僕と、もしカップルに選ばれた女の子はどう思うだろうか。多分、『人生詰んだわ』とか『キモデブ殺して、私も死にます』とか、『返せよクソデブ、私の学院生活!』とか、その女の子にとって良い未来には成りえないだろう。


 だから僕は逃げ出した。儀式に参加しなければサセタ神様からの啓示は降りない。


 そして、慌てて降りた階段で、足を踏み外した僕は、天も地も分からぬまま転げ落ち、頭を強打したためか意識が遠のいていく。


(アハハハ、僕はこれで死ぬみたいだ……。神様、次の人生は太っていない人でお願いします……)




【階段から落ちた男A】


 白い光の世界を何かに引き寄せられるように進んでいく。


 今は肉体は無くて、精神だけの魂みたいな感じだ。


 そして向こうからも精神の魂がやってきた。


((君は!?))


 彼とすれ違う瞬間に理解した。きっと彼も俺の事を理解しただろう。


 彼の記憶が俺に流れてくる。辛く虐められていた日々……。可哀想に……。


 って、まさか! やめて! 俺の魂が向かっているのは彼の肉体だッ!!


(頑張ってね)


 すれ違う瞬間に聞こえた彼の言葉。


(頑張ってね、じゃないよ! ちょっとその魂ィー、スト――――ップ!)


 彼の魂は止まる事なく光の世界に消えていった。


 そして俺は、魂だけが異世界へと転移をしてしまったらしい……。


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