10 いざ、尋常に!

 貰い物のお菓子は見慣れた物なのに見慣れなかった。季節限定抹茶餡。そして貰った数は一つ。我が家族は五人。

「私はつぶあんね」

「俺はこしあんー」

 母と父が定番の味に手を伸ばす。

「譲れよ、妹」

「そっちこそ」

 兄と姉が火花を散らす。

「ちょっと私もいるからね!」

 無視するな、と跳ねれば睨まれる。しかし逃げはしないのだ。こういう時の我が家のルール。厳正なるじゃんけんだ。

 各々構え、口にする。

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

 勝負は一瞬、時の運。

「やったー!」

 跳ねる私に兄姉の視線が痛いが気にしない。ギリギリする二人の前でぎおん太鼓を頬張る。

 口の中でほろほろ崩れるパイ生地と、上品に溶ける抹茶餡に私は舌鼓を打つのだった。



***

地元のお菓子、ぎおん太鼓を題材に。

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