7 ベールの下

 鏡の前で白いレースのベールを被る。笑う私。

 母の花嫁衣装をついぞ着られぬまま年を重ねてしまった。若さあふれる輝く笑顔ではないことにため息が漏れる。

 婚約者は帰ってこなかった。兵士としてとられた最愛の人は行方不明のままだ。さすがに十年は待ちすぎた。

 鏡の中の私の疲れた顔。何に疲れたの?

 待つことに?

 いまだ期待を持つことに?

 もう十年も行方知らずなのに?

 待っていたってもう帰ってこないわ。愛しているのに。諦めきれないわ。

 まだ、まだ、と心が否定をし続ける。

 頬を伝う、鏡の中の私の涙に指を這わす。

「でも、もう疲れたわ」

 私はベールをしわくちゃになるまで握って、その場に崩れ落ちた。

 でも、貴方を愛していたわ。

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