5 ミチルさんと私

「ミチルさんをよろしくお願いします」

 まさかの一文に倒れそうになる。

 私から惚れたことは確かだが、浮気をするような人ではなかったはずだ。不器用で愛想もない、けれど実直でやさしい夫だった。

 遺書はなく、残された私へのただの手紙に驚き、喜んだ。死を予感した時にしたためられたのは、妻たる私への感謝。或いはこれからの未来を共に歩めない寂寥。ひどくやさしい感情に心が潤った。だからこそ思う。

 ミチルって誰のことよ!

 うちひしがれる私の肩を息子が叩き、背後を示した。

 水槽の中には無言の亀がいる。青い縁に手書きで何かが記されていた。

 曰く、「ミチルさん」と。

 不思議そうに首を傾げるミチルさんに私は今度こそ膝から崩れ落ちた。

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