15.魔力感知《ディープ・アイ》

 二年生として初めての演習となるタッグ演習も順調に三勝をおさめ、幸先よく一単位を取り終えた彼らは一足先に帰路へ着く。


 圭司けいじら三人の住むアパートと、一輝かずきとリリアが住むアパートは同じ住宅街の中にある。……なんなら、徒歩数分で行き来できるほど。


 かなりの面積を誇る、魔法特区の大学エリアに広がる住宅街だが……入学が決まった後、どこの寮を割り当てられるかはランダムで決められる。


 成績や科である程度のフィルタリングはされていそうな気はするが、それを含めても偶然すぎるだろうとは思う。


 後ろの方では納乃ののとリリアが、さっきまでのコンビネーションは何だったのかと言わんばかりに、再び両者対立して何か言い合っている。


 まあ、いまに始まったことではないので二人は放っておいても良しとして。


「しっかし、かなり堪えたなあ。あんな攻撃、人間が受け止めていい範疇を超えてるぜ……」


「あんな無茶をするからだ……。確かに、剣も銃弾も通さない『防護制服』かもしれないけど、攻撃をを受け止めた時のダメージまではいくら何でも防げないんだし」


 この大学が、学内はもちろん自由時間の外出時にさえ制服着用を義務としている大きな理由。


 ありとあらゆる攻撃を防げるように作られた、大学指定の防護制服は人形師や魔法師とって必需品だ。


 演習中のケガを防ぐのは当然として、そもそも魔法に携わる人々は、なにかと事故とか事件やらに巻き込まれることが多い訳で。


 そんな制服だが、もちろん万能という訳ではない。肌の出ている箇所については当然防げないし、さっきの一輝みたいに、つばぜり合いのような自分自身に直接伝わってくるダメージも専門外。


「ってか、遠くからでよく聞こえなかったけど一輝、なんか対戦相手と口論してなかったか? もしかして、それであんな無茶を――」


「あー、それはだな、圭司。ま、ちょっと俺も言い過ぎたっていうか――」


 一方。そんな二人の後方を歩く魔法人形ウィズドール、リリアは『ある魔法』を発動させていた。


(……『ディープ・アイ』。私を中心に、半径三十メートルまでの魔力反応を感知できる魔法――。何か嫌な予感を感じて、念のために発動してみましたがやはり。住宅街に入った辺りから、姿を隠したがこちらを追ってきているようですね)


 リリアは悩む。一見、とても便利そうに見える魔法、ディープ・アイだが……大体の方角と、魔力反応の数が分かるだけ。相手が誰か、どれほどの魔力を有しているか、どこに潜んでいるかといった細かい情報までは分からない。


 今の所は向こうも動く気配がないので気づかないフリをしているが。とりあえず、この場にいる全員へ、こちらを狙う魔力反応があるという情報を伝達しなければならない。


 コンタクトが繋がっていて、テレパシーの要領で会話ができる一輝には、彼もまた気づかないフリをしているのか態度を一切変えていないものの、既に事態は把握している。問題は圭司と納乃にどう伝えるかだ。


 露骨に動いて伝えてしまえば、こちらが相手の存在に気づいている事もバレてしまうだろうし、何か自然に、耳元で囁けるくらいに近づく方法はないだろうか。


「……リリアさん、私の話聞いてますか!? スルーはさすがに悲しいんですけどーっ!」


 考える事で夢中になりすぎて思わず無言になってしまっていたリリアに対して、納乃が腹を立てている。今、自分たちがどんな状況に置かれているかも知らないで呑気なものだ。


 ただ、使……とも、同時に思った。


 少し間を置いてリリアは、むーっと顔を膨れさせながら、こちらを見ている納乃に向けて言い放つ。


「そうですね……。貴方のような馬鹿を相手にしていたら、こっちまで馬鹿がうつってしまいますから」


 リリアから放たれる、シンプルな悪口の直撃を受けた納乃は傷ついたり、落ち込む事もなく、ただ――。


「む、むきいいいーーっ!! 今日という今日は許しません! 構えなさい、リリア! 勝負ですッ!」


 納乃は目を見開き、ひらひらとしたスカートの中から魔法銃を取り出すとリリアに向け、臨戦態勢へと入る。


「私に戦いを挑むとは、身の程知らずにも程があります。……それに、銃は近接戦には不向きじゃないですか?」


 対抗し、リリアもメイド服のポケットから一本だけナイフを取り出すと、右手にがしりと握り締める。


「でも、ナイフなら――」


 同時、一度は離れた互いの距離を、リリアは一気に走って詰めていき――その右手に握るナイフを納乃に向けて思いっきり振る……


 ナイフの切先が納乃の身体を掠めていくと共に、リリアはその時、彼女の耳元へと小さな声で言葉を残していった。


「先ほどから、私達を狙う魔力反応が追ってきています。向こうにバレない程度で戦闘態勢を」


「……っ!? 分かりましたっ」


 リリアは納乃に、要点だけを端的に伝えた。圭司には伝えられていないが、言わなくとも納乃ならばしっかりとコンタクトを通じて伝えてくれるはず。


「――こら、リリア。こんな街中でそんな物騒なブツを出しちゃダメだろ。ほら、早くしまってくれ」


 一輝もこちらの意図を汲んでの事なのか、丁度良いタイミングで仲裁に入る。


「納乃もだ。そうやってすぐムキになるのは良くない所だぞ」


「うう、圭司さんが言うのなら……。すみません」


 多少どころではなく強引だったが、何とかこの場にいる全員へ事態を周知させる事ができただろう。あとはこの魔力反応がどう動いてくるか、様子見をするしかない。

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