12.人形師たちの正午過ぎ《昼休憩》
ようやく午前の講義も終わり、昼休みに入る。
昨日は年二回のランク考査――人形師としての実力を測り、SからFの七段階でランク付けを行うテストが一日を占めていた為、今日が大学二年生として初めての『普通の一日』ではあるが……。
結局の所、二年生に上がろうが、特別『何かが変わった』という感覚は全くない。午前の座学が退屈なのも変わらないし、昼休みを終えてからは『模擬演習』が待ち構えているという事実だって変わらない。
「あー、うめー! 空きっ腹に染みるぜー」
ちゅるちゅると、大きな海老の天ぷらが贅沢にも三本乗った
互いに弁当を持参していなかったので、大学の近くにある『安くて早くて美味しい!』というキャッチコピーを掲げる有名チェーン店のうどん屋へと来ていた。
そもそも、朝から弁当なんて作る余裕がある学生なんてどれくらいいるんだろうか、とも思う。どちらにせよ、
ちなみに、一輝の
ちなみに圭司は何も乗っていない普通のうどんを。納乃は梅干しとシソがトッピングされたうどんを注文した。
そして、残るリリアは――何も頼んでいなかった。こうしてみると、リリアがぞんざいな扱いを受けているように見えてしまうが、もちろんそうではない。普通、人形は食事を摂らないからだ。
食べてはいけないという訳ではないのだが、仮に食べた所で栄養には一ミリもならないので、食べないのが一般的というだけ。
それでも、なんだか一人だけ仲間外れみたいで気になるので、圭司はリリアにも一応『食べるか?』と聞いてみたものの、『人間の食べ物には興味がない』なんてド直球に言われてしまったら無理に食べさせるのも気が引ける。
ふと納乃とリリアの方を見てみると、またいつもの言い争いをしているようだった。
「――遠距離武器といえば『銃』一択ですっ! そもそも、そんなマイナー武器を使っているのはリリアさんくらいじゃないですかっ」
「なっ……、マイナー武器とは聞き捨てなりませんね。弱点に向けて一本、華麗に突き刺す『ナイフ』の魅力が分からないとはセンスがありませんね」
「わざわざナイフなんて使う理由が分かりませんし、マイナーをマイナーって言って何が悪いんですかっ!」
いや、食事中に。しかもガールズトーク(?)でするような話ではないだろ。……リリアは食べてないけれども。
***
そんな話をしているうちに、気がつくと三人ともうどんを食べ終わっていた。
まだ昼休みが終わるまで時間はあるが、ちょうど昼時で混雑しているし、ゆっくりここで時間を潰すのも悪いので、さっさと店を出る事に。
「あー、食った食ったぁー。今日の演習って何だっけ?」
お店を出る準備をしながら、一輝が聞いてくる。
「確か……タッグ演習だったかな」
演習。実践形式で行われる訓練は、普段は午後から行われる。
一口に演習と言っても、内容は日によって様々だ。
人数は一対一、二対二、もしくはそれ以上のチーム戦など。場所は実戦を模した、様々な環境下を再現したフィールドだったりと、人形師としてどんな状況でも対応出来るようにするのが狙い。
そんな演習のうちの一つである、タッグ演習。……その名の通り、二人の人形師が組んで、どちらかのチームが全滅させれば勝利という単純明快なルール。
それを既定の時間内に三勝する事でやっと単位を取得したことになる。進級するにはもちろん、それぞれの演習項目において、規定数の単位を取得しなくてはならない。
座学はただ出席さえしていれば良いのでまだ楽かもしれないが……演習は実力がなければ単位すら取れないので、すなわち進級ができない。
よって、主にFランクを中心に、単位が足りずに脱落してしまう学生が一定数いるらしい。
もちろん、Fランクだから全員という訳ではない。かく言う圭司もFランクではあるが、何とか進級に必要な単位数は取得できたからこうして二年に上がれている訳で……。
「そっかー。じゃ、俺たちと組まないか? やっぱり圭司と組むのが一番楽なんだよなー。慣れっていうか」
「ああ、そうだな。なんだかんだで納乃とリリアも、演習の時は息ピッタリだし」
そんな話をしながら店を出る。午後のカリキュラム……タッグ演習が始まるまで少し早いが、他に寄る場所もないので、ひとまず大学へと戻る事にした。
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