第二十四話「閑話 ~愁明 凛編~」

「はっ!」


 結月が最後の妖魔を討伐した頃、少し離れた場所で同じく妖魔退治をしていた凛も、妖魔を倒し終えたところだった。


「お疲れ様です」


 凛が結月のもとに近寄り、労いの言葉をかける。


「凛さんもお疲れさまでした」


 二人が妖魔退治を終えた頃には丑の刻に差し掛かろうとしてた。


「それでは、ちょっと今日は寄り道しましょうか」



──────────────────────────────


 寄り道を誘った凛が連れてきた場所は、竹藪の中にある小さな小屋だった。

 真っ暗な中に薄暗く明かりが灯っている。

 凛はコンと一つ戸口を叩き、何かの合図をした。

 すると中から年老いた男が現れ、凛に向かってお辞儀をする。


「ようこそお越しくださいました」


 小屋の主人と思われるその男が中に案内をする。

 こじんまりとした机と椅子に凛は腰をかけて、結月にも座るように促した。


「ここは……」


「茶屋です。安心してください。ここは妖魔退治の事情を知る一条家の分家筋のご主人がしている休憩所のようなところです」


 そういうと温かいお茶が二つと団子が数串出された。


「さあ、どうぞ。ここの団子はどこの茶屋にも引けを取らない美味しさですよ」


「おいしそう……」


 ちょうど空腹になってきていた結月は一本串をとり団子を口に運ぶ。


「っ! おいしい……!」


「でしょう?」


 空腹は最大の調味料というが、結月はそれでも確かにおいしいと感じた。


「ばあちゃんの……清子さんの作ってくれる団子もおいしいけど、また違う程よい甘さが癖になります」


「喜んでいただけてよかった」


 すると、結月は先ほどから一つも団子に手を付けない凛に気づいた。


「食べないんですか?」


「ああ、私は大丈夫ですよ。結月さんのために連れてきたところですから」


 凛のことだ。金に困って食べられないわけではないだろうと感じた結月は小食なのかと尋ねた。


「人よりは食は細いかもしれませんね。食べないわけではないですよ?」


 結月は一つ思いつくと、一串持って凛の口の前に持っていった。


「食べてみてください」


「──っ!」


 凛は珍しく虚を突かれた。

 目の前の妙齢の女が自分に自ら食べ物を差し出している。

 どうしたらいいかと思案した結果、口を開くことにした。

 凛の口の中に団子の甘味が染み渡る……はずが、その状況のせいで凛はあまり味がしなかった。


「おいしいでしょう?」


 と、顔をほころばせる結月に凛はしてやられたと感じた──



──────────────────────────────


 見送る店主に別れを告げ、二人は竹藪を再び歩いていた。


「はあ……おいしかったですね、凛さん」


「はい。ですが、さっきのことは他でしてはいけませんよ?」


「さっきのこと?」


「男に結月さんの手自らで食べさせることです」


「あ……すみません。はしたなかったですよね」


 凛はそこで立ち止まり、結月に合わせて少々背を屈めると、結月の口の前に自分の立てた人差し指をあてた。


「他の男が結月さんに惚れてしまうからですよ」


「──っ!」


 結月は凛の麗しい艶のある髪に潜む鋭い目に吸い込まれそうになる。

 月明かりに照らされてより一層端正な顔立ちに目が行く。


 そのあとの帰り道は顔を赤らめてうつむきながら歩くしかなかった結月だった──

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