第十二話「当主集合」
昨日衝撃の出会いを果たした広間に向かうと思っていると、
「失礼いたします。朔様、結月様をお連れしました」
「入れ」
中から朔の声が聞こえた後、
「おはようございます。よく眠れましたか?」
凛がそう声をかけた。結月が見渡すと、朔の他にも守り人が全員その場にいた。
「お、おはようございます。おかげさまで……」
挨拶を返すが、結月はどうしていいかわからずその場で立ち尽くした。
すると、瀬那が自分の隣に座布団を置き、その上をポンポンと叩いて結月のほうを見た。
結月は軽く会釈をし、用意された座布団の上に遠慮しがちに座った。
満足そうな笑みを浮かべた瀬那は、前を向きなおした。
その様子を見た凛は役者がそろったといわんばかりに話し始める。
「さて、結月さんもいらっしゃったことですし、本題に入りましょうか。結月さんが朔様の婚約者となったわけですが、問題があります」
「え……?」
自分が呼び出されたということは、自分に関係があることだろうと結月は感じていたが、いきなりの矛先で思わず声が出てしまった。
「妖魔退治を涼風家がおこなっていたことを知らないということは、イグの行使者としての力が未熟である可能性が高いでしょう」
結月にも自覚はあった。自分が『イグの行使者』の一族でありながら、一般的なイグの発現、使用しか経験しておらず、特別な使い方など教わった記憶がないからである。
「よって、結月さんには表と裏、両方から動いてもらいます」
「おもてと……うら……?」
「表は朔様の婚約者。こちらはもともと涼風家のご息女ですから、基本的な作法や振る舞いは問題ないかと思いますが、念のため
「は、はい……」
基本的は作法や振る舞いだけでも不安を覚えた結月だったが、一条家のしきたりと聞いて気が遠くなりそうだった。
その状態の結月に追い打ちをかけるように、凛は続きを話す。
「裏は、妖魔退治をはじめとする涼風家がおこなっていた『イグの行使者』としての能力を発現して、使えるようにすること」
「『イグの行使者』としての能力……」
妖魔の存在すら昨日知った結月には『イグの行使者』どころか、妖魔退治の力の使い方すら想像がつかなかった。
だが、結月はこの瞬間に閃いた。
「それでは、同じ『イグの行使者』の朔様に教えていただければ……」
「無理だ」
話す途中で朔の一言により、一刀両断されてしまった。
代わりにその続きは凛によって紡がれる。
「『イグの行使者』は一族ごと固有の能力を持っているのです」
「つまり……」
「涼風家の能力は基本的に涼風家にしか受け継がれません」
凛の言葉をきっかけに、その場の空気がより一層重くなった。
(そんな……もうお父様もお母様もいないのにどうやって……)
「ひとまず、妖魔退治ができるようになれ」
重い空気を打ち破ったのは、朔だった。
結月が朔を見ると、頬杖をつきながら、守り人四人をみやっていた。
「守り人には二つの意味があります」
凛は結月に向けて静かに語りだした。
「一つは一条家の補佐をしながら、この綾城を政治的に支えること。もう一つは、妖魔から人間を守ることです。ただ後者を本格的におこなったのは12年前からです」
「じゅう……にねん……まえ……」
「そうです。涼風家が襲われ、妖魔退治の基盤が崩れてからです。守り人はあくまでそれまで保険でしかありませんでしたが、それをきっかけに妖魔退治は守り人を中心とした組織となりました」
結月はまわりに座っている守り人たちを見渡す。
「もしかして……私も一族の生き残りとして皆さんの役に立つことができるということでしょうか?」
「はい。役に立つどころか勢いの増す妖魔たちへの抑止力になります」
「本当にそうなってくれたら、ありがたい限りだぜ」
「俺の仕事も減って、万々歳かな」
凛が希望の道筋を言ったところに、これまで静かに聞いて見守っていた蓮人と瀬那が口を開く。
「同時に朱羅への脅威になる可能性と彼女自身の危険度も増す」
一方、実桜は二人が忘れているであろう朱羅について、予想しうることを端的に告げた。
それに同意するように凛はうなずきながら答えた。
「そうです。抑止力や脅威になるため、そしてまず何より自分自身の身を守れるようになるため力をつける。そのための『修行』ということでよろしいでしょうか、朔様?」
凛は朔へと確認をとるように目を向けた。
「ああ」
朔は短い言葉で許可を出すと、もう何も言うことはないというように立ち上がって、その場を後にした。
守り人たちはそれをお辞儀をして見送った。
しばらくした後、凛が再び話を始める。
「正直なところ、本当に結月さんが朔様の婚約者として表に出ることで、朱羅が出てくるのかどうかはわかりません」
結月はその場を去った朔へと向けていた身体を凛へと向ける。
「しかし、妖魔退治……ひいては朱羅を倒すことが今の我々の使命です。協力してくださいますか? 結月さん」
結月へとさし伸ばされた手。結月はその手を取るのだった──
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