第3話「男爵領での新婚生活」



僕は王都から離れた田舎に小さな領地を与えられ、そこにラーラと二人で住むことになった。


母が何人か使用人を手配してくれた。


僕とラーラの結婚式は地方の教会でひっそりと行われた。


王族も貴族も出席しない簡素な式だった。


ラーラは地方での生活にも、質素なウェディングドレスにも、参列者の少ない結婚式にも、不満だったようだが僕はそのことに気づかないふりをした。


愛らしい奥さんと田舎での平穏な生活……これが僕の望んでいたこと。


贅沢はできないが慎ましやかに暮らそう。


だがその生活は結婚後たった一カ月で破綻することになる。


「お金がないとはどういうことだ?!」


僕は家令に問い詰めた。


「申し上げた通りの意味です」


家令は悪びれもせずしれっと答えた。


「旦那様と奥様が贅沢なさったのでお金がないのです」


「僕は慎ましやかに暮らしていた!」


「私にはとてもそのようには見えませんでしたが」


「王太子だった時、一回の食事で百品は出ていたが三十品に減らした。

 王太子だった時は毎日のように服を新調していたが、一週間に一度に減らした。

 そんなに節約しているのになぜお金が足りなくなるんだ説明してくれ!」


あれは残念なものを見るような顔をした後深く息を吐いた。


「まずお食事ですが、一回の食事の品数が三十品というのは多すぎます。

 その上一品の量が多すぎます。

 旦那様は一品につき一口か二口食べると、食べるのを止め残してしまいますが、あの行為に意味はあるのですか?」


「僕の好物が分かったら毒を入れられるだろ?

 だから食事の品数は一回に付き最低三十品は必要なんだ。

 好きなものが分からないように一品につき一口、二口しか手をつけない。

 それに残った料理は使用人が食べているんだろう?

 料理人は王太子の残したものしか食べられない決まりだからな」


「旦那様はもう王太子ではございません。

 男爵の暮らしに慣れてください。

 一回の食事に三十品も出したら破綻するのは当たり前です。

 それから使用人は主と同じものを食しません。

 主がローストビーフを食べてる時、使用人は茹でた鶏肉を食べているのです」


「そうだったのか、知らなかった」


僕はまだ王太子時代の癖が抜けていないようだ。


「それから注文する服一着一着の値段が高すぎます。

 男爵がオートクチュールの服を作ることなどそうありません。

 あるとすれば結婚式や国王陛下の誕生日のパーティーに出席するときぐらいです。

 旦那様は結婚されていますし、国王陛下よりパーティーには出席するなと命じられています。

 オートクチュールで服を作る必要はないでしょう」


家令にたしなめられてしまった。


「特注の服を着ることが多かったから、既製品は肌に合わないんだ」


「慣れて頂くしかありません」


「分かった」


「それからお金が無くなった一番の原因は奥様の浪費です。

 奥様は毎日市井に出向かれては、宝石やドレスなど大量に買い込んでおります。

 ご存知でありませんでしたか?」


家令に突きつけられた事実に僕は愕然とした。


「このままでは男爵家は破産。

 家屋敷を手放し借金の返済にあて、旦那様と奥様は外で寝起きすることになりますよ」


「分かった。ラーラには買い物を止めるように言う。

 僕も食事を質素にし服を新しく作るのを止める」


これからの生活を考えると胸がざわめいた……貧乏とは辛いものなのだな。






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