第61話
■side:U-18女子世界大会 監督 川上 律子
この場に立つことを目指して頑張ってきた。
だが、本当にこの場に立つと信じられないという気持ちと同時に物凄いプレッシャーを感じる。
U-18女子世界選手権大会:決勝戦
私は、毅然とした声で開始メンバーを発表する。
◆出場
・堀川 茜 :ストライカー【L】
・白石 舞 :ブレイカー
・新城 梓 :ストライカー
・一条 恋 :ストライカー
・鈴木 桃香 :ストライカー
・大場 未来 :アタッカー
・大野 晶 :アタッカー
・大谷 晴香 :アタッカー
・南 京子 :サポーター
・霧島 アリス:ブレイカー
最初から全力で攻撃的な編成。
これが最後なのだ。
次など考える必要などない。
ただ選手の名前を呼びながら思う。
3年生は、堀川と白石の2人だけ。
2年生も新城と大場の2人。
あとは全て1年で、しかも去年のU-15代表ばかりだ。
しばらく日本は安泰というべきか、それともこの黄金世代と呼ばれる子達が凄すぎるのか。
もしくは、彼女ら以外がダメ過ぎるのか。
しかもスタメンの半分が全員今年の女子高生大会を制した琵琶湖女子のメンバー。
更に言えば残りもほとんどがその琵琶湖女子と決勝で戦った大神高等学校のメンバーである。
そりゃ強い訳だ……なんて思いながらも事前の説明を開始する。
決勝戦の舞台は、研究所だ。
*画像【研究所:初期】
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この勝負で今年のU-18女子世界一が決まる。
私が現役の頃では到達どころか夢物語だった場所。
そこに選手ではないとはいえ、ようやく挑むことが出来る。
ここで更に全員のモチベーションを上げるために、先ほど入ったばかりの情報を伝える。
「―――先ほど入った情報だけど、隣の会場で行われていたU-15女子の決勝が終わったそうよ」
そう言うと一瞬で静寂が訪れる。
「―――勝ったのは、日本! 80P差をつけての快勝らしいわ!」
無音の世界に一気に歓声が巻き起こる。
何だかんだでみんな結果を気にしていたからだ。
U-15決勝の日本対アメリカ戦は、やはりアメリカが精神的に追い詰められた状態からのスタートだった。
U-15女子日本の監督は、前衛全員にガーディアンの着用とブースターの使用を指示して人数分用意した。
急な申し出ではあったが、G.G.G社からすれば大チャンスである。
会社の全面的な協力の元で、スグに準備が整ったらしい。
こうして例えまともに使いこなせなくても良いから使えというゴリ押しで決勝戦に持ち込んだ。
アメリカはというと、U-18がLEGEND史上初となる高機動重装甲突撃というものを受けた影響から抜け出せていなかった。
というのも下手にその時の映像を繰り返し見てしまったU-15女子アメリカ代表選手達は『アリスが使用した止めようがない重装甲突撃』のイメージが頭から離れなかったのだ。
それゆえにまともに扱いきれていないU-15女子日本のお粗末な突撃にパニックを起こしてまともに連携が取れず各個撃破を許してしまう。
まあこれはある意味仕方がない。
誰が制御不能状態で実戦投入してくると思うのか?という話だ。
次々突っ込んでくる鉄の塊にアメリカ選手達が『狙って突っ込んでくる』と勘違いしたのも大きい。
それに彼女らは大型警棒ではなくマシンガンなどの片手射撃武器を装備していた。
なので接近戦でそこまでやりにくさを感じることはなかっただろう。
何より高耐久値の相手に強制的に削り合いを強要されるのだ。
対処出来なくても仕方がない。
こうしてU-15女子監督の采配が見事的中して終始相手を圧倒しての文句無しの勝利だったらしい。
「さあ!私達も勝ちましょう!堂々と日本に帰りましょう!!」
「はいっ!!」
■side:U-18女子ロシア代表 アナスタシア・エラストヴナ・シャンキナ
―――試合開始!
アナウンスが鳴ると同時に私はスタートポイントスグ横で相手を待つ。
ソーニャは任せろと言っていたから大丈夫だろう。
彼女には相手に向かってハンドサインを送って貰うことになっている。
さてどうなるかと思っていると、相手は意外とスグにやってきた。
アリス・キリシマ
数々の偉業を成し遂げる生きた伝説とも称される少女。
彼女を倒すことで、私が最強であると証明出来るだろう。
だからこそ避けては通れない相手だ。
「ハジメマシテ、アリス。ワタシ、アナスタシア・エラストヴナ・シャンキナ」
「*ロシア語『ご丁寧にどうも。知ってると思うけど私は霧島アリスよ。招待状は受け取ったわ』」
私がこの時のために頑張って勉強した日本語で挨拶すると、意外にも相手は自然なロシア語で返してきた。
「*ロシア語『あら?ロシア語話せるの?』」
「*ロシア語『問題ないわ』」
「*ロシア語『なら改めて。私はアナスタシア・エラストヴナ・シャンキナ。アナタと戦うのを愉しみにしていたの』」
「*ロシア語『それで一騎討ちなんて情熱的ね』」
「*ロシア語『誰にも邪魔されずに戦える……素晴らしいでしょ?』」
「*ロシア語『……どうしてみんな一騎討ちが好きなんでしょうね』」
「*ロシア語『誰かは誰か。私は私よ。……さて、じゃあ始めましょうか!』」
自然とお互いそれなりの距離を取る。
ジリジリと間合いを取りつつも細かく動く。
何度目かの見えない攻防を挟んだ後―――同時にライフルを構え……引き金を引いた。
■side:U-18女子ロシア代表リーダー ニーナ・ボリーソヴナ・サフノフスカヤ
―――試合開始!
ついに決勝戦が始まった。
お互いに配置に就く。
そんな中でひと際大きく歓声が響いたことで作戦が上手くいったと安心しつつもマップを開いて確認する。
*画像【研究所:ロシア決勝1年目】
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そう。
今回、アリスという相手の切り札を潰すためにこちらの切り札を早々にぶつけることにしたのだ。
こうすることで相手はブレイカー勝負にこだわって例の高機動重装甲を使えない状態に誘導する。
ナースチャは『アリスは私が倒す』と言っていたしソーニャも『残りは全て私がまとめて倒す』と自信満々に言っていた。
そうなってくれれば問題無いし、苦戦した所で彼女ら2人以外にも私達が居る。
総力戦となれば私達の方が有利なのだ。
なので存分にナースチャには、一騎討ちを愉しんでもらうとしよう。
「作戦通り、ナースチャがアリスを抑えた!これでもう日本は前と同じことしか出来ないぞ!!」
そう通信で叫びつつ攻撃を開始する。
そしてそのまま数分が過ぎた。
最初は、ジワジワこちらが相手を下がらせていくうちに撃破を取るようになる。
そうして少しプレッシャーをかけた辺りでナースチャかソーニャがフリーになって一気に勝負を決めるという形を想定していた。
だがその予想は、最悪な方向で裏切られつつあった。
お互い一歩も引かない壮絶な撃ち合い。
まるで開幕のガトリング持ちストライカーによるプライドを賭けた一騎討ちでも見ているかのような激しさ。
それがずっと継続していた。
あまりの壮絶さに周囲の味方が付いていけずに最前線に居るソーニャよりも先に耐久値を減らして下がってしまう。
思わず予定が狂わないよう調整するための動きを変えることを決断する。
日本が意外と粘るというか、予想以上に攻撃的なのだ。
ソーニャを中心に押し込むはずの中央が、相手のストライカー2人の左右からの攻撃に阻まれ前に出れていない。
それだけではなく、あのグレネード投げが上手い選手が中央に居て徹底して牽制攻撃を仕掛けてくる。
その際に投げ込まれるグレネードのあまりの自然さに予想外のダメージを受ける選手が続出していた。
強化されたサポーターも居るようで、大盾と肩ミサイルによるバランスの良い支援攻撃を崩せないと通信越しに愚痴が聞こえてきたほどだ。
しかも砲撃が上手い選手も同時投入しているようで、上から降って来る砲弾にも注意しなければ次々と撃破を取られてもおかしくない状態になっている。
更に言えば去年ナースチャとそれなりの勝負をしていた『マイ』という選手まで居る。
彼女の正確な狙撃は現状、特に脅威になっていた。
そういった日本側のあまりの反撃の強さにメンバー交代でサポーターの数を増やして防御に回る。
流石にこのままではマズイ。
未だナースチャとアリスの戦いは決着せず、ソーニャは相手の集中攻撃を受け続けている。
いくらソーニャでも流石に厳しいはずだ。
かといって北側は、下手に押し込むと面倒なことになるマップである。
更に言えば相手の北側は、アタッカーが2人居るらしく下手に突っ込めないらしい。
ナースチャに期待したい所だが、どうなるか本当に予想がつかない。
「……意外と厄介じゃない」
格下だと舐めていたせいか、相手の予想外の強さに驚く。
しかしそれで私達の勝利が揺らぐ訳ではない。
ナースチャとソーニャの2人だけのチームなどと言われることもあるが、そんなことはない。
私達だって選ばれてここに立っているのだ。
決して2人以外が弱いなんてことはない。
「諸君!今こそ我々の力を見せつけてやろうではないかッ!!」
そこで一旦言葉を区切って深呼吸をする。
そして―――
「選ばれし戦士達よッ!恐れず進めッ!!我らが祖国のためにッ!!」
「
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