第57話
■side:U-18女子アメリカ代表 ジェシカ・ラングフォード
やっとだ。
明日、ようやく私の地獄の日々が終わる。
我が国の練習専用チームとの試合を終えたが、それでも私の高揚は収まらない。
「……霧島 アリスッ!」
あの女のせいで私は……私達は、地獄へと叩き込まれた。
去年のU-15女子世界選手権の決勝戦。
G.G.Gの最新装甲をまとい圧倒的優位だったにもかかわらず最後の最後にマークを外した瞬間、狙撃対策をものともせず連続ヘッドショットを決めてきた化け物。
そのあり得ない攻撃から人数不利になり、最終的に押し込まれて私達は負けてしまった。
結果は、準優勝。
それでも決して悪くはない戦績のはずだった。
これを弾みにU-18こそは……と思っていた。
だが現実は、私達に容赦なく牙を剥く。
帰国した私達に待っていたのは、歓声などではなかった。
直前認可疑惑。
これは正直私達には関係がない。
ただ私達は『これらを使え』と監督からの指示に従っただけだ。
しかし世間は『私達選手も含めて』これら疑惑を追及してきた。
いくら聞かれても答えようが無い。
なのに私達は罵倒され、卑怯者だと呼ばれるようになる。
何を言っても信じて貰えず『G.G.Gからいくら貰ったのか?』などと言われる始末。
連日ニュースで取り上げられ、家や学校にまでメディアが押しかけてきた。
更に準優勝という戦績にもケチがついた。
本来ならこれでも十分なはずの戦績だ。
しかし『不正をしたのに結局優勝出来ない選手』として『実力が無い』という印象を植え付けられた。
これのおかげで私達は、既に決まっていたはずのLEGENDによる高校推薦などが取り消されてしまう。
突然の出来事に私達は、呆然とするしかなかった。
いつの間にか私達元U-15女子代表は『犯罪者』のように扱われはじめたのだ。
そしてそれだけでは終わらない。
どの学校を選んでも疑惑の目を向けられ、関係の無い話や無神経な暴言を吐かれる。
一切の理由を公表せず、ただ『入学拒否』を突き付けてくる所もあった。
これで既に何度裁判沙汰になったか解らない。
中には精神的に追い詰められてLEGENDから遠ざかってしまった選手までいる。
本当に、私達が何をしたというのか。
それでも何とか高校に進学してLEGENDを続けているが、私だけでなく他の元U-15選手も進学先で不当な扱いを受けているらしい。
例えば『レギュラー争いにすら参加させて貰えない』などだ。
私達の実力をまともに評価せず『どうせロクでもない』と決めつけベンチにすら入れさせない。
稀に公式試合の出場機会に恵まれ、そこで活躍しても何故か『何かしているのではないか?』と不正を疑われる。
確かにあの時、私達は負けた。
だが、ここまでの仕打ちを受ける謂れなどない。
疑惑に関しても監督やアメリカLEGEND協会にG.G.G社の問題だ。
あの時、私達に拒否権など無かったのだから。
それなのに周囲からずっと色々言われ、今まで持ち上げてきたメディアも既に敵でしかない。
行き場の無い怒りをぶつけられず、元U-15選手達はみんなお互いに励まし合うことしか出来なかった。
そんな中で唯一良かったのは、世界大会の選手選びが公平だったことだろう。
選考会には誰でも参加出来てそこで実力さえ示せば選んで貰えた。
だから今の監督には感謝してもしたりない。
私は死ぬ気で練習に打ち込み、試合で相手を倒し続けた。
そしてようやく明日は、準決勝。
相手は、あの日本……霧島アリスだ。
ようやく、ようやく私は全てをぶつけれる相手と戦える。
私の……私達の行き場の無い悔しさを、怒りを全て日本に叩きつけてやるッ!
そして日本に勝って決勝に進み、そして決勝でも勝って優勝すれば周囲の評価は一気に変わるだろう。
その時、初めて私は……私達は、きっと救われる。
「私の全てを賭して、明日は……明日だけは絶対に勝ってみせるッ!!」
■side:U-18女子ロシア代表 アナスタシア・エラストヴナ・シャンキナ
練習が終わりプライベートな時間になると決まって私は、動画を見る。
『霧島アリスVS黄若晴のハイレベル接近戦』という名で、今再生数が爆発的に伸びている動画だ。
今行われている世界大会の準々決勝で起きた接近戦。
それは今までのLEGENDの常識を打ち破るとても刺激的なものだ。
「ナースチャ、アナタまたそれを見てるの?」
「別に良いじゃない」
声の時点で誰か解るので、相手を見ずに返事だけをする。
「まあ、別に構わないけどさ」
声をかけてきた相手、ソーニャは呆れた声でそう言うと隣に座って動画を覗き込んでくる。
「それにしても、LEGENDでこんな接近戦とか頭おかしいわよね」
「……ブレイカーは、元々遊撃だと考えれば当然なのだけどね」
「それでも銃火器全盛期にわざわざ高リスクの接近戦を挑む神経が私には解らないわ」
「ソーニャは、大盾絶対に離さないものね」
「どいつもこいつも火力ばかりに目が行き過ぎてるのよ。防御を固めて堅実に迫られる方が数倍怖いことを理解してない」
そういってため息を吐く。
確かに最近特にLEGENDは、火力に傾倒している状態だ。
圧倒的火力で相手を倒すというのは、見ている分には良いかもしれない。
しかし実際は防御を捨てている時点で非常に運用が難しく、下手にそんな装備で前に出れば集中砲火を受けて瞬殺されるだろう。
ルール改正でその辺が更に馬鹿なことになってしまったが。
まあ逆に言えば私にとっては良いことでもある。
みんな自分から防御を捨ててくれるおかげで撃破を取りやすい。
おかげで最近は、的当てをしている気分だ。
「……はぁ、まともな勝負がしたいわ」
「また始まったわね、ナースチャのそれ」
「別に良いじゃない。全力の勝負をしたいのは、誰でも思うことでしょう?」
「残念ながら私には理解出来ないわね。雑魚を蹂躙して楽して稼げるならそれで構わないわ」
「別にソーニャに解って貰わなくても構わないわよ」
「……もう、拗ねちゃって」
「拗ねてない」
「そうやって即答してる時点で拗ねてるわよ」
「いじわるなソーニャは、そのうち強い相手にボコボコにされればいいのよ」
「そんな相手が居るかしらね?確か決勝に来るのはアメリカか日本でしょ?」
「……たぶん日本」
「ああ、誰だっけ?ナースチャが比べられてる選手が居るんだっけ?」
「それもあるけど、アメリカには強い選手が居ない。今の日本には勝てない」
「じゃあ相手は日本か。期待通りの良い試合になればいいのだけど」
「それは知らない。でもソーニャがボコボコにされて泣くのは見たい」
「……アナタねぇ」
ソーニャが不満そうな声を出すが関係ない。
どうせ私達が勝つのだから、その過程で愉しい勝負を望んでも構わないじゃないか。
「アリスは、狙撃も出来て接近戦も出来る。とても楽しみ」
■side:U-15女子日本代表 岡部 奈緒子
本日の練習やミーティングも終わり、あとは自由時間。
明日はついに準決勝だ。
ようやくここまで来たという感じで、気持ちも高まる。
そんな中、ホテルの共有スペースでは明美が机に突っ伏していた。
「そう言えば全然元気無いじゃない。そんなので明日大丈夫なの?」
「だ~いじょ~ぶ~じゃな~い」
こちらを見ずに疲れた声で返事をする明美。
しかしコイツは、よくこういう態度をするためこれが本気なのか冗談なのか解らない。
「ならしっかりしなさいよ。アナタ一応はリーダーなんだから」
「なりたくてなった訳じゃないも~ん」
……ああ、めんどくさいなぁ。
そう思っていると鈴が通りがかった。
「ちょっと!あからさまに逃げないでよ!」
「……絶対にめんどくさいやつじゃない」
ため息を吐く鈴の気持ちも解らなくはない。
しかしここで
「で、これがどうしたのよ」
明美の隣に座った鈴が、容赦なく明美の頬をぐりぐりと指で突く。
「や~め~て~」
「やめて欲しいならそのウザい態度を何とかしろ」
「うう~」
ようやく諦めたのか、明美が普通に座る。
「それで、何が不満なのよ」
「ふふ、君たちには解るまい。格上2人に追い回され、罵倒され続ける辛さなど……」
そう言いながら昨日に、あの『霧島アリス・白石舞』という二大天才ブレイカーに特訓と称してボコボコにされたらしいという話を聞かされた。
「良かったじゃない。その2人に教えて欲しいって選手一杯いるのに」
「徹底して『欠点を直してやる』って言われてボコられたらメンタル持たないよっ!」
「まあその辺は、明美だし大丈夫だってことで」
「いやいやいや!」
話は終わったとばかりに鈴と2人で立ち上がろうとすると明美が縋りついてくる。
「そこはもうちょっとこう、慰めるとか励ますとか!」
「めんどい」
「めんどくさい」
「ひ、酷い!」
こうしてめんどくさい状態の明美の相手で貴重な自由時間が潰れてしまった。
そして次の日のU-15女子世界選手権の準決勝。
相手は、オーストラリア。
明美の奴は相手ブレイカーに狙いを定めると『一方的に蹂躙される苦しみをお前も味わえー!』と言い出して相手選手を5回も撃破し、トラウマを植え付けていた。
おかげで私達は勝利し、決勝に進むことになった。
……まったく、世話のかかるやつだ。
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