第56話
■side:霧島 アリス
どうして私は、生まれ変わったのだろう。
もう何度も問いかけた謎だ。
別に生まれ変わりそのものはどうでもいい。
問題は『どうして記憶や経験を引き継いでしまったのか』という点だ。
これが生まれ変わった先でも馬鹿みたいな泥試合の戦争の真っ只中だったりするなら解らなくもない。
私は同じく傭兵として戦場に立っていただろう。
だが今のこの世界は何だ?
近未来というべき世界。
戦争らしきものもない。
あってもテロリスト相手の小競り合いみたいなものだ。
平和という文字を体現したかのような国で、戦争の本質も知らずただ暴力反対と叫ぶ人々。
こんな間抜けな世界の間抜けな国など、私が居る意味など無いではないか。
唯一の愉しみがLEGENDという架空戦争ゲーム。
これでたまに居る強い相手と戦う時だけ、何もかも忘れて愉しめる。
最近は、大阪日吉のような集団突撃なども面白いと思えるようにはなってきた。
だからこそ自然と一人で暴れることに虚しさを感じ始めた。
でもそれでも乾きが止まらない。
私は何のために生き、何を求め、何をすればこの二度目の人生と向き合えるのだろうか。
そんな時だった。
わざわざ白石舞が、人を呼び出してきた。
夜にわざわざVRに呼び出すなど面倒事の予感しかしない。
だが無視する訳にもいかず、行ってみるとやはり面倒事だった。
自分で既に大きなお世話だと解っているのに干渉を辞めないらしい。
何という強引な。
というかコイツそんなキャラだったか?
まあ結局勝負で決めるというのなら構わない。
適当に倒しただけでは意味が無さそうなので、ある程度追い詰めてから仕留めよう。
それから丁寧にジワジワと追い詰めた。
流石に前世では、こんな遊びはしない。
遊ぶほど自分が死ぬ確率が上がるのだ。
LEGENDだからこそ、こういうことが出来る。
やはり白石舞は、努力家なのだろう。
ちゃんとこちらに心理戦を仕掛けてきたり、待つことの大事さを知っていたり。
更には状況判断力もそれなりにある。
前に一度戦った時とは大違いだ。
経験不足故に追い詰められてはいるものの、経験を積めば大きく化けそうな気がする。
そういう意味ではこの前の中国の若晴も同じだ。
相手の動きを見抜く洞察力とそれについていけるだけの反射神経と判断力がある。
しかし絶対的な経験不足で攻撃方法が偏り過ぎていた。
もう少し搦め手などを覚えれば更に強くなるだろう。
そろそろ精神的にも圧力をかけた。
遊びもここまでだ。
わざとこちらの位置を教えて誘導すると素直に近づいてきた。
そこでまたもお互いにらみ合うような形で時間が過ぎる。
勝負を決めるために飛び出すタイミングを待つ。
そんな時だった。
一瞬遠くで何かの音が鳴った瞬間―――
お互いに飛び出し、そして同時に引き金を引いた。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× ブルーチーム:白石 舞
〇 レッドチーム:霧島 アリス
相手の弾はこちらに当たらず、こちらの弾は相手の頭部を正確にとらえた。
……世の中こんなものだ。
戦場に神など居ない。
生きるために必要なのは、自分の努力と運だけ。
つい癖でリロードを終えた瞬間だった。
突如、少し離れた横にある障害物から人が飛び出してきた。
咄嗟にその場から横に飛びつつ銃を構える。
先に相手側の弾が飛んできて左肩に命中する。
その衝撃で左手を銃から離してしまったが、そのまま右手一本でスコープも覗かずに引き金を引く。
引き金を引いて弾が飛んだ瞬間、肩に当たった弾が爆発して軽く吹き飛ばされる。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
× ブルーチーム:鳥安 明美
〇 レッドチーム:霧島 アリス
私は倒れた状態のまま自分の状態を確認する。
耐久値残り1割。
流石は、防御力を気にしていない軽量の中でも最軽量装甲だ。
たった1発の狙撃、しかもそこそこの威力の弾を肩に受けただけで9割減った。
これがもし胴体だったならば撃破されていただろう。
大きくため息を吐くと、白石から通信が入る。
「どう?人生初被弾の感想は?」
「……そう言えば一騎討ちだなんて一言も言って無かったわね」
「あら?てっきり怒るかと思っていたけども」
「特に最後、あの音がした時に変だなと思ったから」
「なるほどね」
私はゆっくり立ち上がる。
「それで、そこのU-15代表リーダーさんは何か言う事ないのかしら?」
「わ、私は巻き込まれただけですよぉ~!」
近くには、今回私に弾を撃ち込んでくれた明美の姿。
「あら、被害者面は辞めて欲しいわね。この話を聞いた時ノリノリだったじゃない」
開始地点から白石も歩いてくる。
「そ、それは何と言いますか~その~」
「しかし最後の外すとか、正直あり得ないわ」
そう言いながら白石は、これ見よがしに大きなため息を吐く。
「いやいやいや!予定されてた場所じゃないじゃないですか!どれだけこっちが必死に先輩に気づかれないように移動したと思ってるんですか~!」
「その移動時間のために時間稼ぎしてあげたでしょうに」
「そもそも私は保険だったじゃないですか!」
「その保険が機能しないのだから、ため息の1つぐらい出るわよ」
「い、一応当てたしっ!」
「それで撃破出来てれば『人生初の撃破はどうだった?』って言えたのにね」
「うぐぐ……!」
「ふふ……あははっ!」
2人の呑気なやり取りに思わず笑ってしまう。
実に下らないやり取りだ。
だが、それを非難する気はない。
この2人は、2人なりに考えてこの選択をしたのだから。
「それで、少しは気が晴れたかしら?」
「……そんなに気を張ってたつもりは無かったんだけど?」
「自覚してない時点でアウトよ。何が気に入らないのか知らないけど、そんなの自分の気持ち次第でしょうに」
「自分の気持ち次第……ねぇ」
それで解決するなら今更悩んでなど居ない。
「私が言うのもアレだけど結局、自分が納得出来ればどんな状況だろうが前を向けるわ。……私がそうだったから」
それでも白石は、自らの経験を踏まえて声をかけてくる。
それは決して同情でも見下しても居ない。
だからこそ嫌な感じではなく素直に聞こうと思えた。
「……そうね、少し考えてみるわ」
それにそこまでされては流石に拒絶など出来ない。
それに言われていることも理解出来なくもない。
私は、その場で伸びをする。
結局、私が何故こんな転生をしたのか解らない。
でも、少しでも前を向けば……私は変われるのだろうか。
それを試してみても良いかもしれないと思える程度には、今の機嫌は良い方だった。
「さて、じゃあその前向きさのために1つやらなければならないことがあるわ」
とりあえず気分を変えることにした。
今やるべきことは1つだ。
「それは何かしら?」
「とりあえずそこの鳥を調理しなきゃね」
「え、ええっ!?なんで私なんですかっ!?」
驚く明美が逆に信じられない。
不意を突いて私に一撃当てたのだ。
ならば相応の報復があることぐらい解るだろうに。
「そもそも撃つ時に『狙う』という行為が長いのよ。必ず当てなければならないって意識が強すぎる。だから撃ち負けるのよ」
「……そ、そんなことは」
「せっかくだからそれを今この場で矯正してあげるわ」
「あら、面白そうね。私も参加しようかしら」
「う、裏切りですよ!裏切りっ!」
白石が参戦すると言い出した途端に更に騒ぎ出す明美。
「人聞きの悪い。私は先輩として後輩の指導をするだけよ」
「そうそう、だから大人しく私のストレス発散の的になりなさい」
「完全に私で遊ぶ気満々じゃないですかー!!」
「まあ頑張って反撃すればいいんじゃないの?」
私と白石は、2人でライフルを構える。
「い、いやぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
すると明美が全力で逃げ出した。
それを2人で追い詰めて遊ぶ。
「……まあたまにはこういうのも悪くは無いかもね」
決して吹っ切れた訳でも、納得した訳でもない。
ほんの少しだけ前を向いて見ても良いかなって程度だ。
それでも心が少しだけ軽くなるのを感じだ。
いつか、私はこの世界と向き合える日は来るのだろうか?
そして自らが生まれた意味を見出し、納得して二度目の人生を愉しめるのだろうか?
まだまだそんなことは解らないけれど、今はこの瞬間を愉しもう。
次の日、いつも練習を適当にしかやらないアリスが積極的に白石に狙撃の指導をしている姿があった。
今までアリスをライバル視して関係が微妙だと思われていた2人が急にそんな関係になっていることに周囲は驚く。
それと同時に控えとして参加していた残り2人のブレイカーもアリスに頭を下げて指導を受けるようになる。
そのためブレイカー担当のコーチは『やることがない』と落ち込んでしまいコーチ陣全員で慰めることになったのはまた別の話。
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