第32話
■side:琵琶湖女子1年 霧島 アリス
LEGENDには大きな国際大会がある。
15歳までしか出場できないU-15。
18歳までしか出場できないU-18。
特に制限の無いもの。
この3つだ。
これに性別による区分けがされるだけ。
日本は今までこの全てであまり良い結果が残せなかった。
だがここ最近は違う。
男子LEGENDは全てにおいて予選敗退と振るわなかったが、女子では変化があった。
まず白石とかいうエースの登場だ。
これによりU-15女子で決勝トーナメントまでは行けるようになった。
今までの予選敗退が当たり前だった時に比べれば大きな差だ。
しかしU-15女子ではそこまでだった。
だからこそU-18女子では期待も大きくなる。
1年目にまた決勝トーナメント進出を決めた。
しかしその1回戦で負ける。
エースが抜けたU-15も、また予選敗退に逆戻り。
優勝というものに手が届きそうで届かない。
全員プロで挑んだ制限の無い方など予選でまともに勝てたことすらない。
当然期待は、U-18女子に集中する。
監督の交代から、ほぼ新規勢に変更となったU-15女子など誰も期待していなかった。
日本中の期待を背負った去年のU-18女子は、運悪く優勝候補のロシアや強豪カナダと同じ予選ブロックに入ってしまう。
何とか意地は見せたものの結果は予選敗退。
誰もがため息を吐いた。
しかしその裏で、誰も期待していなかったU-15女子で事件が起きた。
そう、私の登場だ。
あの時はとにかく愉しかった。
久しぶりに戦場に立っているという感覚。
生きているということを実感出来る緊張感。
愉しすぎて気づけば優勝していた。
日本の悲願とされてきた優勝をあっさり取ったせいか、日本中がお祭り騒ぎになった。
そのせいで私は無駄に有名人となり変に出歩けなくなった。
まだナンパで声をかけてくる男の方が実力で排除出来るので楽だったのだが。
まあその一連の流れで今年の国際大会は、世の中の期待が凄いらしい。
U-18では私とその何とかってエースが揃うから、今年こそ勝てると言われている。
更にU-15も補欠が多かったとは言え、去年も選ばれた選手が数人居るためにU-15とU-18でダブル優勝もあり得るのでは?ということらしい。
……正直に言えば馬鹿なんじゃないだろうか?と言いたい。
そんな夢が叶うなら、もっと昔にとっくに優勝出来ていただろう。
うん、で……まあ。
何故ここまで変な話をしていたかと言えば理由がある。
そう、それは昨日のことだ。
「せんぱぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!助けて下さいよぉぉぉぉぉぉ!」
端末の画面、目一杯に顔を映して泣き付いてきているのは懐かしい後輩。
肩ぐらいまである髪を左側でまとめたサイドテールの少女。
同じブレイカーである『鳥安(とりやす) 明美(あけみ)』である。
彼女は去年のU-15で14歳ながらメンバー入りした選手だ。
かなり良い戦績を残したこともあり、それなりの知名度になっているらしい。
そんな彼女が何故そんなことをしているのか?
それは今年のU-15女子日本代表のせいである。
先ほど説明したようにU-15女子はU-18女子に近い期待を向けられている。
要するにプレッシャーが凄いのだ。
そんな中、昨年度の優勝メンバーであり今年もU-15に参加する彼女は、そりゃもうプレッシャーのド真ん中である。
本人が何を言おうが周囲は優秀な戦績と試合経験を褒め称え、ついにリーダーまで押し付けられたそうだ。
「無理に決まってますよぉぉぉぉぉ!去年の先輩方が強すぎたんですってぇぇぇぇぇ!」
確かに世の中の声には、一部そういう声がある。
私が制限無く暴れたのもあるが全試合圧倒的で、苦戦した決勝戦も原因は『ガーディアン』のせいという意見だ。
彼女からしてみれば、今年もアレを要求されても不可能だと言いたくなるだろう。
私も暴れたが、一部同じく暴れた人間も居る。
今年のメンバーの実力を知らないがリーダーである彼女が泣き付いてくるのだから、まあお察しという所か。
しかしそんな彼女の苦情も虚しく、世の中の大多数は無責任である。
気軽に頑張れだ勝てるだと言ってくるのだ。
ある意味、軍の司令部並みの無茶振りである。
「……で、どうして欲しい訳?」
「U-15メンバーを優勝出来るぐらいに鍛えて下さい!」
「それを言う相手は監督でしょう」
「だって今年の監督『鳥安は優勝経験者だからな!お前を中心に戦術を組ませて貰うぞ!』ですよ!?」
「良かったじゃない。U-15のエースになれて」
「なりたくなんて無いですよぉぉぉぉぉ!アリス先輩と比べられるとか何の罰ゲームですかぁぁぁぁぁ!」
そして恐らく彼女が一番泣き付きたいであろう話は、これだろう。
この話題になると特に激しくなる。
「100歩譲ってU-15でリーダーは構わないですよっ!でも何でそれで谷町先輩じゃなくてアリス先輩と比べられるんですかっ!」
「同じブレイカーだからじゃない?」
「私にあんな一方的に相手の心をへし折れるほどの無双なんて不可能でしょ、どう考えても!」
「人間、追い詰められれば何でもそれなりに何とかなるものよ」
「そんな変な悟りは不要です!現実的な解決策が欲しいです!」
「じゃあ練習すればいいじゃない。みんなで」
「そ、それは先輩が特訓をしてくれるということですかね?」
「……まあそれでも構わないけど」
「U-15の強化をしてくれると?」
「あまりしつこいと通話切るけど」
「ああっ!ダメです!先輩が手伝ってくれるで十分です!」
「ならこっちからU-15の監督に話すわ。番号教えて」
「やったー!ありがとうございます!」
■side:U-15女子日本代表リーダー 鳥安 明美
どうしてこうなった。
そんな感想しか出てこない。
いや、アリス先輩を頼ったのは正解だったと思ってるよ?
あの人以上に強い人なんて私は知らないし、変にプライドが高いのも居るから適度に叩き折って貰いたかったしで。
でも、これは無いんじゃないかなって思う。
下手すりゃ大会前にU-15は、解散することになるだろう。
「あのー、先輩」
「何?」
「何で先輩の所の選手が全員居るんですかね?」
「だって10人居ないと戦えないじゃない」
「練習試合だなんて一言も言ってませんけどぉ!?」
「そっちの監督に言いなさいよ。『優勝校との対戦など中々機会がありませんからなぁ』って言い出したのだから」
「なんでそう余計なことを……」
ちょっとアリス先輩に1日指導をして貰って……という私の考えは見事に吹き飛んだ。
「あ、そうそう。U-18の監督に話をしたらU-18選考会に利用したいって言い出してさ」
「へ?」
「そっちの監督がOKしたからまた今後U-15代表とU-18選考会チームの練習試合もあるわよ」
「……」
私はその場で思わず突っ伏した。
いやいや、違うだろ。
そうじゃないだろ。
あの監督、何考えてるの?
U-18って去年優勝したU-15メンバーに加え、ここ数年期待されてたU-18メンバーが入るのよ?
アリス先輩や谷町先輩らだけでも無理ゲーなのに、そこに白石舞とかまで入るのよ?
馬鹿なの?
あの監督、馬鹿なの?
私達のメンタルが持たないわ!
試合前に完全に砕かれてしまうわ!
「……なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「久しぶり……なんだけど、それどころじゃなさそうね」
「大谷先輩!南先輩!うちの監督が馬鹿なんです!」
「いや、気持ちは解るけど堂々と言うことじゃないんじゃないかな?」
「流石にもう少し小さい声で言うべきかな?」
久しぶりに会った大谷先輩と南先輩。
この2人も世間ではあまり言われないが十分天才な人達だ。
大谷先輩は、グレネードを的確に狙った位置に投げ込める。
時限式だと爆発するタイミングまで完璧に計算している。
時には壁などに反射させて奥まで投げ込むこともあり、プロでもその技術を称賛する声があるほど。
南先輩は、正統派サポーター過ぎてあまり評価されてないみたいだが絶対に味方を孤立させない。
必ず危ない方へと移動して味方の援護を欠かさない。
それでも味方が撃破される時は、その味方が先輩と連携を取らなかった場合だけ。
逆を言えば先輩と連携を取れば少なくとも同数で押し負けることも撃破まで追い込まれることもない。
そのため最前線に立つストライカーやアタッカーの人達からは、絶大な信頼を得ている人だ。
「だってぇぇぇぇ!先輩達の所、優勝校じゃないですかぁ!」
「……たまたまね」
「大谷先輩!たまたまって言いますけどメンツも十分ヤバイですよ!」
謙遜する大谷先輩だけど、私は独自に調べているので知っている。
あの大阪日吉との激闘!
最新式多脚戦車との死闘!
両エースの速攻から始まった決勝戦!
どれもテレビで見ていたが、もう言葉にならないほど感動したものだ。
「そりゃあの琵琶湖女子と戦えるのは嬉しいですけど……ねぇ」
何とも複雑な気分である。
「まあ、もう避けようのない出来事なんだから諦めて全力を出しなさい」
「アリス先輩がイジメるぅぅぅぅぅ!」
アリス先輩に全力を出して挑んで完璧に返り討ちに遭ったらもう立ち直れないですよ!
その後、先輩達と色々話をしてから別れる。
そしてミーティングルームに入ると監督が上機嫌で話をする。
「世界戦前に良い相手と試合出来るのは、こちらとしても都合が良い。更に後々でU-18選考会とも練習試合をすることになった。実に喜ばしい」
監督の話を聞いてほとんどがやる気の顔をしている。
現実を知らないというのは、ある意味幸せなことなのかもしれない。
「相手が高校生大会の優勝校でも遠慮するな!ここで勝って弾みをつけ、U-18にも勝てば世界大会優勝は確実になる!お前達の力を見せつけてやれ!」
「了解!」
私も一応返事をしたが、周囲ほど気合が入らない。
てか何で試合に出れなかったとはいえ去年も控えに居た連中まで勝てる気でいるの?
こいつ等も馬鹿なの?
「……はぁ、もうこうなったら全員蹂躙でもされて地獄を見ればいいわ」
コッソリとそんなことを口にした後、リーダーだということで前に出ることになる。
これから琵琶湖女子との練習試合に向けての戦術会議だ。
やる気が出ないがあからさまだとマズイので何とか元気な顔を張り付けると、事前に監督から聞いていた作戦の説明を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます