第30話
■side:とある政府広報官(大谷晴香・南京子の休日)
どうしてこうなったのか。
思わずため息を吐く。
原因は、解っているのだ。
ただそれがあまりにも理不尽で自由気ままであるためどうしようもなかったというだけで。
目の前で懸命にポーズを取る2人の少女には同情しかない。
肩まで髪のある子も、髪型をポニーテールにしている子も疲れ切った様子を見せることなく頑張っていた。
周囲のスタッフも疲れを見せずに必死になって頑張っている。
事の発端は、あの自由人である国際LEGEND協会の会長だ。
アレが日本に突然来日してきたことが全ての始まりだった。
いきなりの大物来日に、政府も日本LEGEND協会も大いに慌てた。
政府は急いで大臣の霧島氏を呼び出し日本LEGEND協会は部署に関係なく行ける人間が全員出るという状況になった。
おかげで連携など取れる訳がない。
なので政府には、会長の相手を頼みそれらが円滑に進むよう影でサポートするのが協会という形になった。
そこまでは良い。
だが何故か会長は予想外の所にばかり行こうとする。
流石に歩いて大手ファーストフード店の中を見てみたいと言い出した時は止めたが、それ以外で許可が取れそうな所はなるべく行くことになった。
しかしLEGEND関係者用の施設の隣にあるスタジオに入りたいと言い出した時は本気で焦った。
「*フランス語『この奇抜なデザインの建物は何ですか?』」
「*フランス語『ここは写真を撮るスタジオです。場所が近いのもあってLEGEND用の撮影もここが多いですね』」
「*フランス語『それは本当かい?ぜひ中を見てみたいなぁ』」
会話の途中でぜったいにそう言うと思っていた私は、既に受付から施設の管理者を呼び出している最中だ。
あの通訳も余計なことを言いやがって。
そう思って通訳を改めてみるが、あんな小柄で青い髪の子居たっけ?と疑問に思う。
まあ霧島氏と話をしてもいるから不審者でもないだろうが、低身長だけあってスーツを着た少女にしか見えない。
「お電話が繋がりました」
「……あ、こちら―――」
ようやく電話が繋がったので管理者に許可を取る。
LEGEND関係者が多く使う施設だけあって、あっさりと許可が下りた。
そこまでは良かった。
しかし空いているスタジオを大人しく見学するだけに飽き足らなかった会長は、何と撮影している所が見たいと言い出したのだ。
そしてそこで撮影していたのは、アーケード版LEGENDを運営している団体である。
そんなものこちらの方が圧倒的に上だ。
一言で話がまとまって会長達が乱入する。
中では少女2人が、アーケード版の新要素を説明するポスターの写真撮影中だった。
最初は何がゾロゾロ来たのかと思っていたスタッフや少女達だったが、国際LEGEND協会の会長と政府のLEGEND関係者だと知り大慌て。
そしてこの時、油断していた自分を殴ってやりたかった。
モデルの少女達が何やら会長の通訳の子と話をしている。
どうやら知り合いのようだ。
「どうしてここに?」
「通訳の仕事」
「何でここに?」
「この人が見たいって。……あ、この人は国際LEGEND協会の会長さんね」
「……何でそんな人連れてくるのよ」
「本人が見たいって言うんだから仕方が無いでしょ」
「*フランス語『おやアリス、キミの知り合いかい?』」
「*フランス語『そうなんです。彼女達もLEGENDプレイヤーなんですよ?』」
「*フランス語『おや、そうだったのかい。彼女達はモデルもやってるんだね』」
「*フランス語『彼女達は、私と同じく去年のU-15の日本代表選手でしたから人気なんですよ』」
「*フランス語『そうだったのか!それはすごい!今度国際大会用のポスターを作るのだけど、彼女達も似合いそうだ』」
「*フランス語『それは素敵ですね。では彼女達でポスターを作ってみますか?帰国されるまでには原案ぐらいお届け出来ると思いますよ?』」
「*フランス語『それは本当かい!?』」
「お爺……えっと霧島先生。会長があそこの2人で国際大会用ポスターを作ってもいいかも?って言ってます。試しに帰国までに原案出しましょうか?って聞いたら是非にと」
「おお、ならそれで話を通してくれるか?」
「*フランス語『こちらとしてもぜひ用意させます、と大臣が』」
「*フランス語『それは良かった!出来が良ければちゃんと正式採用させて貰うよ』」
「出来が良ければ正式採用します、と」
気づけば勝手にドンドンと話が進んでいた。
2人は、笑顔で握手をしてしまっている以上もう無かったことにはできない。
「そうだ、そこのキミ」
「はい!」
霧島氏に指名されてしまった。
「キミは、先ほどの会話を理解していたかね?」
「大丈夫です、フランス語は話せますので」
「ならばキミ、今すぐ彼女らと交渉してポスター制作を行ってくれ。……ああ、キミが確かここの責任者だったね。悪いんだがこれから―――」
霧島氏が強引にここのスタッフを巻き込んでこのまま国際大会用ポスターまで作らせようとしている。
私は指名された以上、ここに残って頑張るしかない。
同僚に引継ぎを終わらせると諦めてここの責任者の元へ挨拶に行く。
「……という訳で、頑張って」
「えっと、この人達は何を話してたの?全然わからないんだけど」
「私も全然わからない。というかアリスちゃん通訳出来るぐらいに話せたんだね。何語か知らないけど」
「今の会話はフランス語。そして今決まったのは、2人はこれから追加でポスター撮影」
「え?何で?」
「さっきの会長さんが2人にポスターをって言い出してね。
それで急遽決まった」
「いやいやいや」
「残念ながら拒否権なんて無いんだよねぇ。ま、諦めて頑張って」
少女達の方でも話が終わったようだ。
あの青髪の少女は、霧島氏と同じく強引に話を押し付けた感じである。
「……ああ、キミたち」
「えっと、どなたでしょう?」
私は2人のモデルをしてた少女に名刺を渡す。
「簡単に言えばキミたちと同じ被害者さ」
そう答えると2人は、乾いた笑みを浮かべていた。
それから我々のデスマーチが始まった。
夜までかかった撮影。
未成年の彼女達をそのまま帰らせる訳にもいかずタクシーを呼んで乗せる。
更にそこからポスター用に編集やら加工やらを行う必要が出てくる。
途中で別の会議も挟まなければならなかったし、その他の手続もとやることは山ほどある。
休む暇もなく奔走し、そしてようやく空港までたどり着く。
「*フランス語『会長、こちらがポスターです』」
「*フランス語『ああ、ありがとう。あとで必ず見させてもらうよ』」
こうしてやっと全ての仕事が終わり、その反動で無性に吸いたくなったタバコに火をつける。
すると個人端末に通信が入っていた。
「……ふぅ、休む暇もない」
一度大きくため息を吐くと、端末を操作して相手に連絡を入れた。
ちなみに余談だが、あのポスターは正式採用された。
その時のモデル料を見てあの2人は、倒れたそうだ。
まあそうだろう、未成年の少女には刺激が強すぎる額なのだから。
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